【虫転】 ──虫で泣く日が来るなんて、誰が思った?

@omaru_author

【第1章 蚊編/第1話】 気づけば蚊になっていた

──パチンッ。


ゆっくり目を開けると、ここがどこで、周りに何があるか、全く理解不能だった。


コンコンッ……え、ここはどこや?


謎の声:

「だから言ったでしょ? 気を抜きすぎなのよ。」


あっ……そうだった。

おれは、「蚊」に転生したんだった。


数ある転生枠の中での――「蚊」。

もちろん好きでなったわけじゃない。


気付けば“蚊”だったんだ。

そして、なぜか謎の声がサポートしてくれている。


おれ:

「……っていうか脳に直接話しかけるのやめてくれる?

 ゾワァってすんのよ。」


謎の声:

「まったく……手のかかる子ね」


──フュィンッ……

光の粒子が集まり、少女の“ホログラム”が現れる。


少女:

「はい、これでいいでしょ?」


おれ:

「で、あなたは?」


少女:

「さっきも言ったじゃないッ!覚えてないの?フェニックスよ。」


おれ:

「あぁ……なんか言ってたような気もするわ。

 でも、正直その名前ちょい長いし呼びづらいんよね……

 もう、“フェニたん”って呼ぶわ。」


少女:

「フェニたん!?

 ……文字数ほぼ同じじゃないの。」

 ……ま、まぁ……別に、いいけどッ」


「それじゃあ念の為ルールのおさらいをするわよ。

転生した虫になりきって、人生を全うしたら次に転生できる。

ただそれだけよ。」


おれ:

「全う? 次の転生!? いつになったら人間に戻れるんや?」


フェニたん:

「知らないわよ。あんたが人間だったときにクソみたいな人生歩んでたせいでしょ。

それなのに戻りたいとかどうかしてるわ。


わかったら、さっさと蚊として生きなさい。


大丈夫、思考もそのうち“蚊寄り”になるから慣れるわ。

それじゃあ、またねっ♡」


──フォンッ……


あ、いっちゃった…。


……さて、生まれたての蚊はどうしたらいいんだ?


フェニたんから脳にインプットされた情報によると――そうそう、まずは“卵”。

つまり今は卵の中ってことやね。


さっさとこじ開けて大きくならねば!


ファイトォー! いっぱぁーつッ!


パリンッ。


うぉっ……冷てっ!


どこかの水たまり……池か?


今のおれは、生まれたてやから……いきなり成虫じゃなくて

幼虫――ボウフラ状態や。


ん~なんか記憶がぼんやりしてるんよね。

……前にも“ここ”にいた気がする。でも思い出せへん。

まぁええわ。とりあえず、腹減ったし飯食お。


確かご飯は……水中の微生物やったよな。


水面に体を浮かせ、頭を水中へ突っ込む。

海女さんスタイルで微生物を探す。


水面にケツ丸出しスタイルはちょっと恥ずかしいけど……

まぁプリケツには自信あったし、好きに見てくれ。


食べ物食べ物っと……。


おっ、いたいた。

本能で「これが飯」ってわかるんやけど――


キメェ……。


でも生きるためだ。食うしかない!


……う、う……。


うまいやんけ!!


アメリカンドッグの棒の根本のカリカリ部分みたいで最高。

これはクセになるね。


お? あれは……アオミドロやんけ!

小学校の理科で顕微鏡で見る、あのベタなやつ!


どれどれ……。


お! これは白飯に合いそうな味!

いいねえ〜!


これを数日続ければ、進化だぜ!


フェニたん(小声):

「ちなみにだけど……

今“美味しい♪”って思ってるアレね、

実は――“汚れやフンの詰め合わせ”なのよ。

本人には言わないでおこうかしら♡


だって知ったら、さすがに…ね? フフッ♡」


ふぅー……食った食った。

蚊は満足じゃ。


おっ、あっちの仲間もうまくやってそうやな~

んっ?……あいつ、脱皮すごッ!早くね?


へぇ~上手やん。コツ聞きたいし、あとで声かけてみよかな。


あ〜でも、お腹いっぱいになったし……

卵の殻破るとき無駄に叫んだから、なんか疲れたな。

少し寝よう……。


──。


……寝れねぇ。


よし、こういうときは数えよう……。


蚊が一匹……蚊が二匹……蚊が――


って、そもそもボウフラって寝るとかないみたいなんやな。

“休憩”って感じしかないのか。


とりあえず漫画喫茶的に何も考えずにだら〜っと休もう……。


── はうあっ!?


か、カラダが……。

これが脱皮ってやつか。


なんやこれ……内側から未知なるパワーを感じる!!


ウォーーーーーッ!!


ぷりっ。


……めっちゃ強くなった気分!

(before 2mm → after 3mm)


てか、今まで奇跡的に敵に襲われてないけど、敵の情報と自分の能力を確認しとかんと!


フェニたんデータ ON!


どれどれ……。


攻撃手段:ほぼゼロ(武器なし、毒なし)

自衛手段:逃げ足と隠れるだけ

敵:多すぎる(魚、蛙、昆虫、鳥など)

死亡率:めちゃ高い(80〜99%)


……えっ?

桁バグってない?


2mmが3mmになって強くなったとか言うてる場合やなかった……。

これは、結構無理ゲーでは……?


気付かんかったけど、そういえば仲間たちがほとんどいなくなってる。

ただはぐれただけと思ってたけど……。


諦めるな!

おれは人間に転生するんや!


人間の知識とフェニたんの情報で生き抜くしかない!

生存確率を上げるには――。


なるほど。

汚い水のところが比較的安全か。


あとは――水面に顔出すのは最小限に抑えて……

少しの変化にもプリケツダッシュで逃げる!


とにかく逃げに徹しよう!


……それにしても、そんな生存率で生き残った蚊を

今までおれは……なんてことをっ……。


まっ、それは別問題やけどね。


そこから何度か襲われたものの、自慢のプリケツダッシュで運よく逃げ切り、さらに2回の脱皮にも成功。

カラダもだいぶ大きくなった(5mm)。


……でももう、自分の強さは信じません。


こんなにも毎日がサバイバルやとは。

もっと時間を弄ぶと思ってたけど、生きるので精一杯で、意外と一瞬やったな。


次が最後の脱皮……。

サナギになってやろうやないか!


成虫までもう一踏ん張り。ふふふ――


……静かや。

水の流れる音すら聞こえへん。


── はうあっ!?


水面が震え、世界の色がゆっくり変わっていく。

こ、これは今までの比にならない……!


このイニシエのチカラは……っ!



続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る