勇者になった日(2)

「ここがウバワレの森……」


 その姿が目に入った時から思っていたけどとても不気味な場所だ。

 辺りは紫の霧に覆われ、周辺に生える草木も魔物と勘違いしてしまうような見た目をしている。どれもこれも、腕だか足を合計で六本生やした化け物に見える。


「いやな場所だな。この霧は吸いすぎると幻覚作用に襲われるらしいから気をつけないとな」


「そうですね」


 一応布を巻いてガードはしているけど魔物との戦闘で外れてしまえば……。

 なんにせよ早く遭難者を見つけないとだ。

 特徴として右手に赤色のリングをはめているらしい。


 遭難した人はこの森にあるフワフワナオール草っていう特定の病に効く薬草を探しに森に行ったらしいけど……それってどこだろう?


「勇者様、こういう時は下を見るんだよ。地面についた人間の足跡を辿るんだ」


「流石エーさん……賢いですね」


「へへっ、こんなもん冒険者として常識よ」


 そう言ってエーさんは親指を立てた。

 本当、頼もしい人だな。


 それで足跡……大きさ形を見て魔物の奴も多いけどその中に、靴の形をした物を見つけた。

 これを辿って行けばいいんだな。


 そんな事で僕ら道中の魔物を倒しながら足跡の通りに道を行った。


「……ん?なんかこの道前も通ったよな」


「おいおいエー何言ってんだよ。俺たちは1回も引き返しちゃいねぇだろ」


 森を歩き初めて30分位経っただろうか。

 ここに来て異変が起こった。


 エーさんの言葉にビーさんはああ言ってるけど間違いなく通った。だって僕らの通った跡が下にあるんだから。おかしな事に……道を繰り返しているんだ。


「あ、そういえば『迷ったらへ行け』とか言われたよな。今がそうなんじゃないか?」


「無い方……何が無い方なんだろう」


 せっかくディーさんがヒントになりそうな事を思い出してくれたけど分からない。

 教えてくれた人はなんで抽象的にしか言ってくれなかったんだ……。


「よくわからねぇけど、足跡の通り行くわけじゃねぇのは確かだよな」


「どの方向に行けばいいのやら。俺たち既に幻覚見てるわけじゃねぇよな?」


 探しに来た側が迷子になったなんて冗談じゃない。どうにか考えないと。

 周囲を見回してみるけど相変わらず変な木しか……あれ?あの木手足みたいなのが5本しかなくないか。


「僕の予想があっているのなら多分、こっちです」


 そして5本手足の木の方を抜ける。すると急に景色が変わった。


「魔法か何かで景色を変えられてたんだな。ずる賢い魔物がいるっぽいぞ」


「注意して進みましょうか」


 ここから先もまだ足跡が続いている。さっきと同じことを繰り返していこう。


 ───そうしてついに、僕らは変わった見た目の花……フワフワナオール草を見つけることに成功した。


 きっとこの辺りに遭難者がいるはずだ。

 そう思った時だった。突如紫色の粉が僕らの方に噴射された。


「っ!」


 危なかった。間一髪、僕は咄嗟に避けることに成功したが……皆は。


「……帰らなきゃ……帰らなきゃ」


「おいエフどうした!?」


 エフさんさんの様子がおかしい。イーさんの問いかけも聞こないのか虚ろな目付きでどこかへ行こうとしている。


「幻覚を見ている……?」


 それが咄嗟に出た答えだった。周囲を漂う霧と同じ色の粉、同じ効能を持っていてそれがあの量かけられれば布なんて関係なくてもおかしくない。


「ここは一旦エフの様子を見てついて行こう。粉を出した奴の在り処がわかるかもしれねぇ」


「はい」


 僕はジーさんの言葉に頷いた。


 そうしてエフさんが向かった場所は手足の無い木の場所。そこを抜けた。


「……僕らも!」


 僕らもその先に続く。


「ムチュムチュ……ムチュウー!!!」


「なんだこいつ気持ちわりぃ!」


 抜けた先にいたのは植物タイプの魔物。

 真っ白な胴体にキュルキュルとした瞳と紫色の花を付けている。手足は無い。


 ▶キミニムチュウ草が現れた


「帰らなきゃ……」


「エフさんを近づけちゃダメだ!エーさん、押さえつけて!」


「おう!」


 さて、どうしたらいい。無闇に攻撃していいのか。反撃で粉を喰らえば危険だ。布を弾かれてもそうだ。


「勇者様!とりあえず粉は花から出てるはずだ。花を先に全部切り落とべきだと思うぜ」


「はい!」


 ビーさんの言う通りに。咲いている花の数は6。一人一つ切り落とせばいいんだ。


 ▶勇者の攻撃

 花を切り落とした


 ビーの攻撃

 花を切り落とした


 シーの攻撃

 花を切り落とした


 ディーの攻撃

 花を切り落とした


 イーの攻撃

 花を切り落とした


 ジーの攻撃

 花を切り落とした


「ムチュ……!ヒドィィイイイイ!!!」


 ▶キミニムチュウ草は怒り狂った


 凄い声だ。暴れているし近づきにくい。


「帰りたい!帰りたい!」


「うおっ……エフまで暴れだしやがった」


 なんなんだこの敵っ。


「誰か、どうにか敵に隙をつくってください!」


 一瞬でも動きが止まれば牙ウサギの剣で切り裂いてやる。強くなった今なら一撃でもかなりのダメージが入るはず。


「よし来た!こういう時の為に閃光玉を持ってきたんだ!お前らァ目、閉じなぁ!」


 ▶シーの閃光玉

 キミニムチュウ草はびっくりして固まっている


「隙を無駄にはしない!うおおおぉぉ!」


 ▶勇者の攻撃

 キミニムチュウ草は消滅した


「マジか!一撃で倒しやがった」


「流石勇者様だぜ!」


 やった、やったぞ。


「え」


 しかし、そんな干渉に浸っている暇なんて無かった。次の瞬間に僕の目の前には、人間の死体と、それすら腐り落ちた骨が現れたのだから。


「なに……これ」


「こりゃあ酷えな」


 腐った、異臭を放つ人間の死体。急に現れたそれを僕はしっかりと見た。


「今までこの森で誘い込まれちまった被害者達だな。殺した奴を取り込むだけで消化しないでいる悪趣味な魔物だったか」


 僕の頭が真っさらになっていく中、ビーさんは冷静にそう言葉にした。


「うあっ……なんか目がチカチカと。あれ、俺さっきまでなにして」


 エフさんの意識が戻ったらしい。


「勇者様、大丈夫か」


 シーさんの心配の声に返答する事すらも出来ず、僕はただその場で立ち尽くしてしまった。

 山の中には赤いリングが落ちていた。


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