第二章 定め

勇者になった日(1)

「―――勇者よ!ソナタに魔王討伐の使命を与える!」


 王様からそう言われた日、僕は『勇者』になった。


「ぼ、僕が勇者ですか?それに魔王討伐って……」


「そう、お主は勇者として選ばれたのだ」


「そんな事をいきなり言われても……僕が魔王討伐なんて無理ですよ。剣だってまともに握った事がないのに」


 そうだ、僕は×××村で生まれ育った普通の人間で、とても勇者なんて称号の見合った人間じゃないんだ。それなのに、どうして。


「安心しろ。仲間の1人や2人は付けられるように配慮はする」


「そ、そういう問題じゃ……僕は嫌ですよ!まともな魔物も倒せないのに魔王だなんて恐ろしい……」


「問題はない。そなたは


 そして僕の意思は尊重されることはなく勇者としてその責務を果たすことになった。


「……銀貨5枚に銅の剣しか与えられないなんて。これだけで魔王を倒す旅に出ろなんて無茶だ」


 旅立ちの際に王様からの支援として貰ったのは宿代代で言えば8回、武器で言えば今手にしている銅の剣をの二本買うと同程度のお金であった。


 はした金という訳ではないが、銅の剣と銀貨5枚の価値は農民がひと月働いた時に貰えるお金を同程度だ。


 これから僕がさせられる行いと与えられた支援との度合いがまるで釣り合っていない。


 ―――とは言え、『勇者』という称号を貰った以上は自分に何か特別な才能がある事に僕は期待してしまった。僕の魔王討伐の旅をする事を選択した。


 ◇


「……それにしても仲間か。王様は旅の仲間が出来るように配慮するとは言っていたけど」


 僕は魔物が出没する草原へ出る前に、まずは旅の同行者を探すことにした。

 やはり危険な旅に出ることを考えると、多く人が集まる酒場を目指すのがいいだろうか?

そんな考えで、多くある酒場の1つへと僕は足を踏み入れた。


「……お邪魔しま〜す」


僕が酒場に入るのはこれが初めて。冒険者でも無ければ、お酒を飲めない年齢ではわざわざ来る場所でも無いから。


「なんだァ?こんなガキが昼間から―――ってお前もしかして勇者様か?」


 そして酒場に入ると、案の定昼間から酒を飲んだくれたガタイのいい1人の男の人が僕に絡んできた。自分よりも一回りも大きい大人がいるのだから怖い。……ってあれ。


「なんで僕が勇者だって……知ってるんですか?」


「そりゃあ辺りの衛兵達が勇者様に関する紙をここらに貼り付けてるからよぉ。ほら、あれ」


 実際に男の人が指さした方を見る。なんとこの酒場の壁にも僕の顔や身長、特徴などが詳しく書かれた紙が貼られており、加えて僕の仲間として魔王を討伐した暁には報酬に大きな領地が与えられるとも書かれている。

手を回すのがあまりにも早い。


 ……それにしても僕には銀貨5枚と銅の剣しかくれなかったのに、あの紙に書かれた報酬のなんと大きいこと。まぁ、実際に魔王を討伐すれば改めて撲も報酬は貰えるとは思うけどそれでも不満だ。


いや、そうじゃなくて僕がここに立ち寄った目的を思い出せ。旅の仲間を探さないと。


「あの、もし良ければ一緒に魔王討伐に来てれませんか?」


 目の前の男の人も見たところガタイは良いし、少なくともそれなりの実力……多分僕よりも強いだろう。


「いいぜ!俺はエーだ、よろしくな!」


 ▶エーが仲間になった


「ありがとございます!じゃあもう少し仲間になってくれる人を探さないと……」


まずは1人。これじゃあ少ないからあと2人は欲しいところだ。


「お、そういうことなら―――おーい!勇者様の旅についていく奴いるかー?」


 そう、エーさんが呼びかけると酒場にいた1部の人が一斉にこちらに視線を向けた。


「おう!俺も着いてくぜ!俺はビーだ!」


「おれも!おれはシー!よろしく」


「俺もだ!俺はディー!頼りになるぜ?」


「俺は―――」


 意外なことに、旅の同行者として複数の男の人が着いてくることになった。

その数は7人。どうやら皆エーさんの友人らしく、冒険者としてそれなりの仕事もしているらしい。

 

想定以上の人数ではあったけど、これだけ多くの旅の同行者が入れば安心だ。ということで僕は街を出て最初にある草原へと向かうことにした。


 ▶ビーが仲間になった

 ▶シーが仲間になった

 ▶ディーが仲間になった

 ▶イーが仲間になった

 ▶エフが仲間になった

 ▶ジーが仲間になった


 ◇


「キュキュッ!」


 ▶スッライムが現れた


 草原に出ると早速魔物が目の前に立ちはだかる。このスッライムは『スッ』と音も無くいきなり現れてくるライム色をした小型の魔物で小さい子でも石が投げれば討伐出来る。

 僕が倒したことのある唯一の魔物だ。


「おうおうおう!勇者様やっちまってくれよ!」


「うん、分かった!」


 ▶勇者の攻撃

 スッライムは消滅した


「よし!」


ひとまず最弱の魔物を倒した。すると……あれ?不思議と力が湧いてきた。


「勇者様!そんな所に突っ立てないで早く行きましょうよ!」


「あ、うん……って、あれ!?スッライムに囲まれてる!?」


自分の身体に起こった不思議な感覚にボーっとしていたらいつの間にか8体ものスッライムが僕らを囲んできていた。


 ▶勇者達はスッライムの群れに囲まれた


「勇者様、スッライムを分からせてやろうぜ!」


 ▶エー、ビー、シー、ディー、イー、エフ、ジーの攻撃

 7体のスッライムが倒れた


「へっ、スッライムなんて大した事ないぜ」


「後は一体だけ!勇者様やっちまってください」


「よし!くらえー」


 ▶勇者の攻撃

 しかしスッライム?に攻撃は当たらない


僕はスッライムに対して剣を横から斬りこもうとしたが、避けられしまう。


「なーにしてんだ!どんくせェ!」


 ▶エーの攻撃

 しかしスッライム?に攻撃は当たらない


同様にエーさんが叩き潰そうと腕を振り下ろすがそれも当たらない。


「な、なんだコイツ他のやつよりも強いぞ!」


「あぁ!動くスピードが段違いだ!」


 二人の言う通りスッライムとは思えない速さだ。似ているだけの別の魔物なのか?

そう考えていると、目の前のスッライムはいきなりどこかへと走り去ってしまった。


 ▶スッライム?は逃亡した


「ん?逃げ出しやがった!とりあえず先に進もうぜ!」


「そうですね」


 そうして、途中途中で現れるスッライムを討伐しながら僕たちは草原を進んでいく。

 スッライムを倒す程、僕の身体が軽くなっていった。


……確か魔物を倒すと、それまでに魔物が蓄積してきた『エネルギー』が行き場を無くして倒した本人にいくんだっけ?

 でも、スッライムなんてまともなエネルギー持ってないと思ったんだけど。


 ▶勇者はエネルギー吸収効率10倍を持っていた


 草原を進むこと数分、遂に僕達はスッライム以外の魔物と遭遇した。


 ▶牙ウサギが現れた

 牙ウサギは突然エーに噛み付いた


「痛デデ!この野郎離しやがれ!」


「エーさん!」


「おいおいエー、牙ウサギの攻撃くらい避けろよー」


「うるせぇビー!」


 エーさんの左腕に鋭い牙で穴が……倒せるかは分からないけど何とかしないと!


 ▶勇者の攻撃

剣を思い切り振り下ろした

 牙ウサギは消滅した

 牙ウサギのキバがドロップした


「勇者様!助かったぜ」


「エーさん大丈夫?」


「おう!腕が残ってるだけマシだっての」


 ―――それから、何体かの魔物を倒しながら僕たちは草原を抜けることに成功した。


「ふぅー疲れたぜ」


「疲れた疲れた」

(以下同文)


 僕たちは草原を抜けた先あるフタツメノ街の宿にて休息をとることにした。……僕を含めて8人もいるせいで王様から貰った銀貨が全て無くなった。これからは野宿かな?


 ◇


「―――なぁ勇者様よ、ここまでのドロップしたやつを売らねぇか?」


 それはディーさんからの提案だった。


「もう金ないんんだろ?ここまでにドロップしたもん全部売れば銀貨20枚くらいにはなるんじゃねぇかな」


「銀貨20枚!?それは凄いな……ディーさんありがとう」


あの草原にいる魔物を倒すのでもそれだけお金を稼げるなんて。危険な冒険者を仕事にする人が多いのも納得できる。


 こうして、ドロップしたアイテムを売ることで宿代なら賄えるようになった。宿がある街にいるのに野宿することに……なんて心配は無くなった。旅の間に魔物はたくさん倒せるし、強い魔物から落ちるアイテムの方が価値もある。いつかお金の余裕ができたら今の装備よりももっといい物も買おう。


 ―――そんなことで、僕は7人の仲間として共に時には喧嘩したり、時には恋バナなんかもして友情を育みながら旅を続けた。

 幸い7人とも大きな怪我をすることも無く冒険は順調。そんな時に僕は次に立ち寄った街で僕はとある提案を皆にした。


「この街で依頼を受けたい?」


イーさんの言葉に僕は頷く。


「はい、勇者として少しでも多くの人を助けたいと思って」


こう思ったのは昨日の夜に食事を取った酒場が理由だった。壁に貼られた冒険者に向けた任務依頼の紙。内容はこの街から少し西に向かった場所にあるウバワレの森で行方不明になった人の捜索依頼。


「勇者様は真面目だな!俺はいいと思うぜ」


「それに俺らはこんな元々依頼で生活を送ってた訳だしな。やってやるぜ」


エフさん、ジーさんも乗り気みたいだ。

そうして僕らは次の目的地をウバワレの森へと向かう事にした。


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