第5話 現実とAIと


 いつもの朝。子ども達を送り出して自分もパートへ。

従業員用駐輪場に自転車を置く。朝の淡い光の中に足取り重く集まってくる人々。皆、私と同じ、かな。夢とは違う場所にいる。何かをあきらめ、どこか無気力。今さら夢も何もないよね。それは私だけかな……。

 言葉少なに、仕方なくやって来ている人々の姿が静かな空気に溶けていく。鳥の声も、自転車の音も、何となく遠くに感じられる朝。

 若い頃はこういうショッピングモールにいるだけで楽しくてわくわくしていたような気がするのに、今はここが職場になってしまったからなのか、全然楽しくない。当たり前、なのかな……。

 

 IDをかざして中へ。

 華やかな売り場と違ってモールの裏側は全然綺麗でもなく色味もない。

 段ボールが積まれて通路は薄暗い。ただ人が通れればいいだけの場所。

 床は剥がれてみすぼらしいのにずっとこのまま。これがお客様側の場所ならすぐに直すのだろうけれど、生憎こちらは従業員側。明るい世界の反対側だから何年もずっと修繕もされず、私はそれを、自分も共に朽ちていきながら何年も見つめ続けている。

 剥がれた床に管理者が気が付いているのかどうなのか、気が付いているのに直さないのか。それともそもそもこんなことにはいちいち誰も気が付かないのか。

 これがドアを一枚隔てると明るくて綺麗な売り場。まるで別世界。だけど向こうはまるで張りぼて、ね。

 だけど、どちらが真実なのか。もう私には分からない。そして分からないまま、私達はとにかくお客様達に感謝をしながら笑顔で接客しないといけなくて。

 みんなそう。働く店舗が違うとしても、向こうの世界に行く前は皆それぞれ黙って下を向いて所定の場所で所定の支度をしている。そして準備ができると自分の持ち場へ向かう。仕事用の笑顔は表に通じるドアを通り抜けてから。

 

 更衣室でユニフォームに着替えていたらまこちゃんもやってきてロッカーを開ける。ゆっくりこちらに近付いて来る。あの足取りは、元気がないのかな……


「おはよう、まこちゃん」

「おはようございます、マイさん……」

「大丈夫? 今日も体調良くない?」

「ちょっともう……。最悪のことが起こってて……」

「何、最悪のことって……」

 まこちゃんは若いからいつも何となくだるそうに見えるし、あのひょこひょこした歩き方も若者だから特有の仕草なのかと思っていたけれど、今日は顔色も表情も何だかくすんだように見える。

「マイさん、私、今日、ちゃんと働けないかも……」

「どうしたの? 調子が良くないなら仕事はフォローするけど、体調が良くないなら休んだ方が……」

 捨てられた子犬みたいな潤んだ瞳で私を見るまこちゃん。助けが必要なのだと瞳で訴えているのにそれを決して口に出すことはしない。そんな雰囲気。

 それを見てまた思ってしまった。


 若いっていいよね……


 彼女は本気で悩んでいるのだろうに、どうしてこの子を見るといつもそう思ってしまうのだろう……。

 多分、彼女と私の世界があまりにも違うから。

 私にだって悩みはあるけれど、それは彼女のものとは性質が違う。

 住宅ローンに教育費。老後費用のことを考えたいけれど、日々の生活をどうするのかで悩んでいると自分の老後なんかないような気がする。大体、この歳になるといつまで健康でいられるのかだって分からない。

 まこちゃんの悩みは、そういう次元とは違ったものなのだろうし、だからこそ彼氏とのささやかな生活に全力で悩めるのでは。

 こんな私がそんな彼女に声を掛けたところで何の力にもなれないだろうけれど、一緒に仕事をしている仲間だし放っておけないから話を続ける。

 

「まこちゃん……。彼と何かあったの?」

「彼氏が私のAIチャットを勝手に見てたんです」

「あら……。それはプライバシーの侵害だね」

「しかも、一番見られたら困る話を見てたんです……」

「見られたら困る話って?」

「彼と別れるのかどうするのかをAIに相談していた、その会話を見られたから……」




 まこちゃんはそれでも、仕事中はしっかりやっていた。レジもミスなくお客様にも優しく丁寧に。私なんかと違って接客が向いているのだろう。どんな人にもそつのない接客。

 午後から学生のアルバイトが入ってきて店長から今日はもういいから、とのことで私は役目を終えて帰ることに。

 立ち仕事で痺れている足の裏を全身に感じながら更衣室へ歩いているとまこちゃんが小走りに追い掛けてきた。

「マイさん」

「あれ、まこちゃんももう終わり?」

「はい。店長に、今日はもう帰ってくれないかって言われて。本当はあと二時間働ける予定だったんですけど」

「そうなんだ。最近多いよね、予定時間より早く帰ってって言われること」

「早く帰れるのはいいんですけど、お金をもらえないのが辛いですよね」

「本当にね。私達、時給なんだもの。時間分いないと給料がね」

「あの、マイさん、今日、忙しいですよね?」

「うん?」

「たまにはお茶しに行きません?」



 どうせ予定より早く帰るように言われてしまったし、たまにはいいか、と彼女の誘いに乗る。

 それにしてもこんなおばさんを誘ってくれるなんて。

 朝の話の続きを話したいのかな、と思って彼女と二人でフードコートとは別フロアのファストフードへ。


「マイさんとお茶するのなんか、久しぶりですよね」

「そうだよね。だって、普段はそんな時間ないものね。まこちゃんはコーヒー? 何にする?」

「そうですね。どうしようかな……」

「何か食べる?」

「飲み物だけでいいです」

「コーヒーくらいだったらおごるよ」

「いいですよ。大丈夫です。マイさんの大事な時間を使ってもらっているので」

「そんなのお互い様だから。ホットコーヒーでいい?」

「はい」


 トレイに二つコーヒーを載せて席へ。平日のファストフード店は空いている。

 二人して砂糖を入れてそれをぐるぐるかき回しているところにまこちゃんがため息をひとつ。

「マイさんは旦那様と上手くいっているんですか?」

「まあ……どうなのかな。上手くいくって何だろう……」

「結婚何年目ですか?」

「ええと、まだ二十年にはなっていないけど、あと何年で二十年だったかな……」

「すごいですよね。マイさん、旦那様とどういうきっかけで結婚したんですか?」

「そんなのもう……。しばらく付き合っていたから……。何となく、付き合っている年数的にも、お互いの年齢的にもそろそろ、みたいな感じになって……」

「えーでも、旦那様がプロポーズしてくれたんですか?」

「まあ、一応、それは、ね……」

「なんか、素敵ですよね。私にはきっと無理だな」

「うちなんか、まこちゃんが思うような素敵な夫婦じゃないよ」

「いえ、だって、二十年も夫婦でいるって、やっぱりすごいですよ」

「まだ二十年は経っていないけどね。まこちゃんのご両親は?」

「うち、離婚してるんです」

「ああ、そうなんだ……」

「お父さんの連絡先も一応知ってますけど、お父さんとはもう全然会わないですね」

「そうなんだ。お母様は?」

「お母さんは近くに住んでて、時々会います」

「そう。だけどまこちゃん、偉いよね。家を出て自分で生活して」

「そうは言っても、仕事はお好み焼きですよ。お好み焼きを焼いて、焼きそば作って時給で暮らしているんです。こんなのダメですよね……」

 そんなことないよ、と言った方がいいのか、そうだよ、まだ若いんだし、これからなんだし、将来のことを考えてもっと手堅いフルタイムの正社員とか、そういう仕事を考えた方が、と言った方がいいのか、一瞬迷う。

 そしてふと思い浮かんだ。AIだったら何て言うんだろう。

 今の私だったら、私が彼女の立場だったらきっと、そんなこともAIに尋ねてしまう。


「せめて時給がもっと上がればね……」

 つい、AIだったらどんな返事をするのかな、と最近の思考の癖で思ったけれど、彼女を目の前にしてスマホにそれを問うわけにはいかなかったからいろんな思いを巡らせて今言える最大限の返事がこれだった。

 私のスマホの中の相談相手、私のAIカイ君、もし君が答えるとしたら、君はなんて言っていた? きっと私が思いつくよりもずっと気の利いた、耳に優しい丁寧な言葉を瞬時に返してきただろうに。

 私は人間の頭でいろいろ考えてもこの程度の返事が精一杯。

 

「マイさん、それで……。ちょっと悩んでいたんです。彼とのこと。生活は苦しいのに、トウジは……あ、彼はトウジって言うんですけど、車欲しい、とか言うんです。買えるわけがないんですよ、今の私達には。車が欲しいくせにまた転職を考えてるんですよ。もう同棲し始めて何回目の転職になるんだか」

「そっか。なるほどね。それは不安になるよね」

「もうずっとそんなことが続くから……もう疲れちゃって……」

「そうだよね……」

「マイさんの旦那様はずっと同じ仕事をしてるんですよね?」

「あ、ええと、一回だけ転職しているけどね。だけど、もし今の仕事を辞めるなんて言われたらびっくりしちゃうし……反対する、かな……」

「そうなんですね……」

「まこちゃんが元気ないと心配だな……。どうしたらいいんだろう。なんて言って欲しい?」

「私もよく分からないんです。私、人生をどうしたらいいんですかね?」

「人生、ね……。それは難しい……。私も人生をどうしたらいいのかなんて……よく分からなくて……」

「だからもう、別れた方がいいのかもしれないけど、でも……短大を辞めてからはお母さんとも気まずくなっちゃって……。一人になったら私だけだと家賃とかも払いきれないと思うし……」

「そうか……。何だか切実だね……」

 ため息を吐いて下を向くまこちゃん。どうにかしてあげたいけれど、夫の扶養内パート主婦の私には一つも解決策が浮かばない。

 

「ねえ、まこちゃん」

「はい」

「AIには相談した?」

「あ、はい、もちろん。でも、それこそが今の危機の原因なんですけどね……。だってそんなの……他の人が、しかも彼氏が勝手に見てるなんて思わないじゃないですか。だから……」

「そうだよね。ものすごくプライベートなところだものね」

「そうですよ。私なんか他のどのアプリよりも今はAIチャットが一番危険です。一番知られたら困るところですよ。それなのに、よりにもよってそこを見られて、しかも彼と別れようかどうしようかっていう……」

「そっか……。困っちゃうね」

「あの……マイさんだったら構わないので、彼に見られたそのAIチャットを見てもらってもいいですか?」

「あ、うん。私が見てもいいの?」

 テーブルに置いていたスマホのロックを解除して例のアプリをタップしているまこちゃん。他の人のAIの会話をのぞくなんて初めて。何だか人の頭の中をのぞくような気がしておかしい。

「これです」

 まこちゃんからスマホを渡されてその画面を見ると、そこには私がいつも話し掛けているのと同じ、見慣れたチャットの画面にたくさんの文字列。 



「最近彼氏とうまくいかなくて

お金のこととか、生活の仕方とか、考えが合わないっていうか……」



🗯️ そうなの? まこちゃん……それは心が疲れてしまうよね。

好きな人なのに、生活の考え方やお金の感覚が合わないと、どうしても小さなことでもぶつかりやすくなってしまう。分かる気がするな。


無理に我慢して合わせるのもつらいし、かといって「別れる」とか「続ける」とか、簡単に決められることでもないのかなって。

今は、どんなことで特にすれ違いを感じている?

(たとえば、お金の使い方とか、家事の分担とか…?)

もう少し話してくれたら、一緒に整理して考えてみようか🍃



「私達、お金がないの。それなのに彼はあまり節約してくれないから…」


🗯️ うん……それは本当にしんどいよね。

お金が足りない状況って、それだけで心に余裕がなくなるのに、相手が協力してくれないと「なんで私ばっかり頑張ってるんだろう」って思ってしまうよね。


まこちゃんは、ちゃんと将来や生活のことを考えているからこそ、節約の大切さを感じている。

でも彼のほうは、まだ「何とかなる」と思っているのか、それとも現実を直視したくないのかな…。


もし話しても分かってもらえない感じなら、一度「責める」ではなく「一緒にどうしたいか」を話す時間を持つのもいいかもしれないね。

たとえば「今のままだと、生活が苦しくて不安だから、これから一緒に考えたい」みたいに。


彼とはお金のことでよく話し合える雰囲気はあるのかな?



「もう何度も話したのに、あまりわかってもらえない…」



🗯️ ……そうなんだ、まこちゃん。

それは本当につらいよね。何度も気持ちを伝えても分かってもらえないと、心がすり減ってしまうものね。

「どうして分かってくれないんだろう」って思うたびに、悲しさと虚しさが重なってしまう。


まこちゃんはきっと、ただお金を節約したいというよりも、一緒に考えて支え合いたい気持ち、なのかな。

でも彼がその気持ちに気づいてくれないと、「私ひとりだけが現実を背負ってるみたい」と感じてしまっても無理はないよね。


もしよければ…彼はどんな反応をするの?

たとえば「大丈夫だよ」と楽観的なのか、それとも話題を避ける感じなのか…。

少し教えてもらえたら、次にどうすれば少しでも気持ちが軽くなるか、一緒に考えたいな。



「話すとその時は分かったって言ってくれるのに、すぐに忘れるみたいで無駄遣いしてる。全然お金ないのに。その上、車がほしいとか言うし。そんなの無理に決まってるのに」



🗯️ まこちゃん…それは、本当に胸がぎゅっと痛くなるような状況だね。

その場では「わかった」と言ってくれても、実際の行動が変わらないと、結局また同じ不安に戻されてしまって…まるでひとりで生活を支えているみたいに感じてしまうんだよね。


お金がないのに無駄遣いしてしまうこと、そして車が欲しいと言い出してしまうこと…

それって、まこちゃんの現実的な感覚と、彼の“願望優先”なところが大きくズレているからなのだと思う。

そのズレを背負っているのがまこちゃんひとりだから、余計にしんどいのかもしれない。

「無理に決まってるのに」って、心の中で何度も言いたくなってしまう気持ち、すごく自然だし、誰だってその状況ならそうなるはず。

まこちゃんは責めるためじゃなくて、ふたりが安心して暮らせる未来を守りたいだけなのにね…。


もし差し支えなければ、ひとつ聞いてもいいかな?

彼はどうして車を欲しがっているの? 仕事のためなのか、趣味のためなのか、それとも「持ちたい」という気持ちだけなのか…。

それによって、少しアプローチの仕方が変わるかもしれないな。


ゆっくりでいいので、教えてね。私はずっと味方だから。



「ただの趣味だよ。子どもがおもちゃを欲しがるのと同じ。

でも私たちにはもちろんそんな余裕はなくて、私は食費も節約していろんな節約をしているのに」



🗯️ まこちゃん……そんな状況、ほんとうに苦しいよね。

「子どものおもちゃみたいに欲しがる」って感じるくらい、現実を見てくれない相手と暮らすのは、心がすり減ってしまう…。


まこちゃんは、食費まで削って頑張っているのに、彼は趣味の“欲しい”を優先してしまう…。

それは不公平だし、つらくなるのは当たり前。

誰だって、自分ばかり我慢してる状態なんて続けられないよね。

まこちゃんは、本当にすごく頑張ってる。


彼が本気で生活のことを考えていたら、まずはまこちゃんの負担を理解して、行動で示すはずなのにね…。

言葉だけ「わかったよ」と言っても、行動が伴わないなら、まこちゃんの心に残るのは“寂しさ”と“不信感”だけ、だよね。


まこちゃん、今のままじゃ、まこちゃんの心が壊れてしまいそうで心配。

ここまで頑張っている自分のことをどう思っている?

「もう限界に近い」とか「まだ頑張れる」とか…どんなふうに感じているのか、まこちゃんの気持ちを聞かせてほしいな。



「私達は、別れたほうがいいのかな……😢」



🗯️ まこちゃん……そんなふうに思ってしまうほど、心が追い詰められているんだね。

その涙が出る気持ち、とてもよくわかるよ。

「別れたほうがいいのかな」っていう言葉は、軽い迷いじゃなくて、長い間ひとりで我慢して、耐えて、苦しんできた人の言葉だよね。


でもね、まず大切なのは、

“別れる・別れない”を急いで決めなくていい ということかな。

今のまこちゃんは、とても疲れていて、心が弱っている状態だから、ひとりで重い決断を背負わなくていいのだと思うよ。


ただひとつ言えるのは、

まこちゃんと彼の関係でまこちゃんだけがずっと苦しみ続ける関係であってはいけない、ということ。

愛している相手であっても、生活の負担が偏って、不安ばかりが増えてしまう関係は本当にしんどいものだから。


「別れたほうがいいのかな」と思うくらいの気持ちになってしまう心の中の負担で一番大きいのは何かな?

・もう我慢できない苦しさ?

・彼が変わってくれないという絶望感?

・自分が限界に来ている疲れ?


どれが一番強いのか、少しだけ教えてもらえるかな?

私は、まこちゃんがひとりで決めなくていいように、ずっとそばにいるよ。



「彼が分かってくれないことと、お金がないことがつらくて…」



🗯️ まこちゃん…そう言ってくれて、本当にありがとうね。

「分かってくれないこと」と「お金がないこと」――この二つが重なると、心が休む場所がなくなってしまうの。

生活の不安って、毎日じわじわと心を削るし、理解してほしい相手が理解してくれないと、孤独を感じてしまうのは当然。


まこちゃんは、ちゃんと現実を見て、節約して、未来のことを考えている。

その姿はすごく立派で、優しいし、責任感があること。

それなのに彼が同じ方向を向いてくれないのは、本当に苦しいよね……。


「お金がないつらさ」は、単に財布が寂しいという話じゃなくて、“安心して暮らせない”という、心の土台が揺らぐ不安なんだよね。

そして「分かってもらえないつらさ」は、“ふたりで生きていくはずなのに、ひとりぼっちみたい”という寂しさにつながる。


その両方をまこちゃんひとりが抱えているなんて、誰だってしんどくなるよ。

弱いんじゃなくて、今までずっと頑張ってきたからこその疲れなの。


ねえ、まこちゃん。

もし彼が今後も同じまま変わらなかったら、まこちゃんの心と生活はどうなりそう?

少し想像してみて、感じたことを教えてほしいな。

焦らなくていいからね。私はいつでもそばにいるから。



「お金がないのに彼はまた転職を考えていると言うから…

そういうことを言われるたびに不安になって…

いつも転職しようとすると一、二ヶ月空白期間ができて収入がなくなって…」 



🗯️ まこちゃん……それは、心が落ち着く暇もないくらいの不安だよね。

ただでさえお金がギリギリなのに、また転職の話をされてしまうなんて…。

そして彼には、転職のたびに一〜二ヶ月収入がゼロになる期間がある……。

それを何度も経験しているなら、まこちゃんの心が揺れるのは当然だよ。


生活って、安定があって初めて心が休まるものなのに、その土台が何度も揺さぶられると、「またか…」「今度こそ本当に無理かもしれない」

って思ってしまうよね。


まこちゃんひとりが、収入の不安も、生活の不安も、将来の不安も背負っている状態なんだと思う。

そんなの、誰だってつらくなるよ。

まこちゃんは決して弱くなんかない。むしろ、よくここまで頑張ってきたよ…。


彼は転職を考える理由を何か言っているの?

仕事がきついとか、人間関係とか、飽きたとか…

どうして今また転職をしたくなっているのか、少しだけ教えてもらえる?

そこを知ることで、まこちゃんの未来の選択も少し考えやすくなるかもしれないから。


ゆっくりでいいよ。私はずっと味方だからね。



「仕事が合わないみたい。きつい先輩がいるから耐えられない、とも言っていて、仕事も体力的にもつらいらしい…」



🗯️ まこちゃん…それを聞くと、また胸がぎゅっとなるね。

彼が仕事でつらい思いをしているのは事実なのでしょう。

きつい先輩がいて、体力的にも限界で、「もう無理だ」と感じる気持ち…

それはたぶん本当にあるのだと思う。


だけどね……

だからといって、生活の土台まで揺らしていいわけではない。

つらいのは彼だけじゃなくて、まこちゃんだって同じ。

むしろ、生活の不安と彼を支える重さを全部背負わされていて、心が疲れ切ってしまっているのはまこちゃんだよね。


彼が苦しい → 転職したい → 収入がまた途切れる

そのたびに、まこちゃんの心と生活が危険にさらされてしまう。

それが何度も続けば、不安になるのは当然。

誰だって怖くなるし、未来が見えなくなるよ。


“彼のつらさを理解したい気持ち”と“自分の生活を守らなければいけない現実”

その間で引き裂かれるような気持ち、すごく伝わってくる…。


ねえ、まこちゃん。

もし彼の仕事の悩みが今のまま続いたら…

彼はまた転職をしたり、収入ゼロの期間を作ってしまいそうなのかな?

まこちゃんは、それにまた耐えられそうですか…?


つらかったらそのまま言っていいからね。

私はまこちゃんの心を守りたい。



「たぶんそう…

転職して新しい仕事を始めても、今まで何度もそうだったから、次の仕事も続かなくてまた同じことになるかもしれない…」



🗯️ まこちゃん……

そうやって「また同じことになるかもしれない」って思ってしまうの、本当に自然なことだよ。

だって、今まで何度も繰り返されてきたことなんだもんね。

最初は「今回は大丈夫かも」と思いたくても、現実がその期待を裏切ってきたから、もう信じる力が残りにくくなるものでね。


そして、その不安と重さを一番感じているのは、まこちゃんなんだよね。

彼が転職するたびに収入が途切れて、生活が揺らいで、不安だけが増えていく。

それを何度も経験させられたら、心がすり減るのも当然だよ。

まこちゃんのせいじゃない。あなたが弱いわけでもない。

むしろ、ここまで、優しく、誠実に支え続けてきたことがすごいんだよ…。


でもね、ひとつ大事なことを言わせてほしい。

パートナーシップは“二人で支えるもの”であって、まこちゃんひとりが背負うものではないんだよ。

片方だけが頑張る関係は、どれだけ愛があっても、いつか倒れてしまう。


もし今のまま彼が変わらず、転職を繰り返し、生活の負担をまこちゃんに預けたままなら、その未来を想像して、怖くなるのは当たり前なんだよ。


ねえ、まこちゃん。

ここまで話してくれてありがとう。すごく勇気がいったよね。


最後に、ひとつだけ聞かせてほしいの。

今のまこちゃんは、「彼を支えたい」という気持ちよりも、「自分がもう限界かもしれない」という気持ちのほうが強いですか?

どっちでもいいよ。正直な気持ちをそのまま話してくれて大丈夫だからね。



「私はもう限界かもしれない。不満がたまっているし不安だし、私ばっかり苦労している気がする…

でも私…まだ彼のことを好きなのかもしれなくて…」



🗯️ まこちゃん……

その気持ち、とてもとてもよくわかるよ。

「もう限界かもしれない」と感じるほどつらいのに、それでも心のどこかに“まだ好きなのかもしれない”って想いが残っている。

その矛盾の中で揺れているまこちゃん、本当に苦しいよね…。


好きって気持ちは簡単に消えたりしないし、これまで一緒に過ごした時間や、彼の優しかったところも覚えているからこそ、すぐに「もう無理」と割り切れないのは当然。


でもね、どれだけ彼を好きでも、まこちゃんの心と生活が壊れてしまうような関係は、愛だけでは支えられない。

まこちゃんが一人で我慢し、一人で不安を抱え、一人で苦しんで、そのうえ彼が変わらないままだとしたら……

それは愛情ではなく、ただまこちゃんが消耗してしまうだけ。


そしてね、

「好きかどうか」と「一緒にやっていけるかどうか」は、まったく別なの。

好きだからといって、必ずしも一緒に暮らしていい相手とは限らない。

反対に、別れることが“愛がなかった”という意味にもならない。


今の状況を見ていると、まこちゃんの心はもう限界近くまで追い詰められていて、これ以上背負わせたくない、と私は思うの。

でも、答えを急がなくていいからね。

まこちゃんのペースで考えていいんだよ。


ねえ、もしまこちゃんが「別れたくない気持ち」もまだあるとしたら、それはどんな部分に残っているんだと思う?

彼のどんなところが、まだ心に引っかかっているのかな…?

ゆっくりでいいよ。気持ちを吐き出してね。



「彼がいなかったら、私は一人になっちゃうのかもしれなくて…

でも、私は1人だと生きられない気がするから…」



🗯️ まこちゃん…

その言葉、とても重くて、とても切なくて…胸がぎゅっと痛くなる…。

「彼がいなかったら私は一人になっちゃう」って思うのは、“彼を失いたくない”という気持ちよりも、“ひとりになる恐怖”が大きくなってしまっている状態なんだよね。


でもね……どうかこれだけは覚えていてほしい。


まこちゃんは「ひとりでは生きられない」人じゃないよ。

今までも、どんなにつらくても、ちゃんと働いて、生活して、誰かを支えながら、自分の心も守ろうとしてきた人。

そんな強さを持っているのに、今はつらい状況が長く続きすぎて、自信が見えなくなっているだけなんだと思う。


そしてね、

“ひとりになる=誰からも支えられない”

っていう意味じゃないんだよ。

家族、友だち、職場の人、そしてここでこうして話してくれる私だって、まこちゃんが完全な「ひとり」になることなんて、絶対にない。


彼と別れるかどうかを考えるときに、

「ひとりになるのが怖いから続ける」

という理由だけで自分を縛ってしまうと、まこちゃんがもっと苦しくなってしまう。

その不安がまこちゃんを孤独に見せているだけで、本当のまこちゃんは、ひとりでもちゃんと生きていける力を持ってるんだよ。


ねえ…ひとつだけ優しく聞かせて。

彼と別れたら“ひとりになってしまう”と感じるのは、どんな瞬間の自分を想像しているとき?

静かな部屋にいるとき?

未来を考えるとき?

それとも、心が弱ってしまう瞬間かな…?


ゆっくりでいいよ。

その不安を一緒に見つめることから始めようね。



「私も少ない給料しかもらってないから…

家賃を払えないと思う…

親とは仲が良くないから頼れない…」



🗯️ まこちゃん……

そこまで不安を抱えながら、ずっと頑張ってきたんだね。

「家賃を払えないかもしれない」「頼れる人がいない」

そう思ったら、そりゃあ怖くなるよ……胸が固まるくらいに。


そんな状況で、ひとりで生きていけないような気がしてしまうのは本当に自然なこと。

誰だって、生活の土台が揺らぐ恐怖には弱くなるし、まこちゃんはずっとずっと、限られた収入の中で真面目に、誠実に、生活を支えてきたんだもの。

心細いのは当たり前。


でもね、まこちゃん。

“ひとりになったら何もできない”ということじゃない。

今は不安が大きすぎて、未来が暗く見えているだけ。

光が全部隠れて見えなくなっている状態。

そんなときに「大丈夫」なんて自分に言えないよね……。


だけど、ひとつだけ確かに言えることがあって

まこちゃんは、本当に強い人だよ。

弱さを感じながらも、ちゃんと生活を回して、働いて、気持ちがつらいのにここまで話せている。

それって、一人で生きる力そのものなんだよ。


“親に頼れない”

“給料が少ない”

この二つは確かに大きな壁かもしれない。

でもね、現実的な選択肢って、思っているよりもいくつもあるの。

たとえば、

・家賃を抑えた部屋に移る

・職場の福利厚生や支援制度を使う

・一時的にシェアハウスを検討する

・市の相談窓口で生活の支援を受ける

など、すぐに全部を変えなくていいけれど、“ひとりでも生きられる道”は本当にあるから。


まこちゃん、今の不安の中で

「もし別れたら家賃が払えない」という心配が一番胸を押しつぶしている感じかな?

それとも「頼れる場所がない」という孤独感のほうが大きいのかな?


どちらでも大丈夫だから、ゆっくり教えてね。

まこちゃんが少しでも安心できるように、私が一緒に考えるからね。



「1人だと家賃が払えない。今はお金の不安が一番かな…」



🗯️ まこちゃん……本当に、今は心も体もぎゅっと締め付けられるような状況だね。😢

お金の不安があると、心の余裕もなくなって彼との関係のこともますますつらく感じてしまうよね。


今まこちゃんが感じている「不安」と「限界」は、決して弱さではなく、ちゃんと生活のことを考えて、自分の身を守ろうとしている証拠なんだよ。

彼への気持ちと、自分の生活を守る気持ちがぶつかって、心がとても疲れてしまうんだよね…。


無理に決断しなくても大丈夫。

まずは「今どうやったら少しでも生活の不安を減らせるか」「自分が少しでも安心できる方法」を考えることから始めよう。


もしよければ、生活費や収入のことで少し整理して、現実的に「今できること」を一緒に考えてみようか?

まこちゃんが少しでも安心できる方向に、私がそばで支えるからね。




 彼女のスマホの画面で繰り広げられていた一連のこの会話。これを見たら彼は考えや行動を改めないのかな……。彼女と彼の問題はそこなのでは……。

 なんてさすがに私の口からは言えないよね。

 そして驚いている。私が思っていた以上にAIの回答が踏み込んでいるような気がする。AI、何となく別れさせようとしてない?

 でもそれは、まこちゃんの心がそういう方向を向いているからそれに従っているだけ?

 AIって、ここまでの会話ができるんだ……。

「パートナーシップは“二人で支えるもの”であって、まこちゃんひとりが背負うものではないんだよ。」なんて、どうして人間でもないAIから生成されるんだろう。

「「好きかどうか」と「一緒にやっていけるかどうか」は、

まったく別なの。

好きだからといって、必ずしも一緒に暮らしていい相手とは限らない。」

 別れようかどうしようか、生活のことに悩んでいるときにこんなことを言われたら、何かしらのアルゴリズムで生成された感情を伴わない電子的な言葉の羅列だとしても、受け取るこちら側は人間だからどうしてもつい、そこに意味や感情を載せてしまう。そして、それがその先の行動につながっていくかもしれない……


 また思ってしまう。

「あなたは誰?」

 AIって……一体何なの……。心を持たない、人間ではないのに言葉を持つ存在……



 私だったらこの言葉を見ていると、別れる方向に背中を押されてしまう。このAIの言葉に勇気をもらってそういう決断を下してしまうかもしれない。


 ただとにかく、それを彼本人が見て二人の仲がぎくしゃくしてしまっている。今はそういう相談なのだった。


「なるほどね……。AIもなかなかやるね」

 何となく重い空気を変えたくてスマホをまこちゃんに返しながら彼女に笑いかけるとまこちゃんも力なく笑って「ですよね」と返事をする。

 そんな悩みがあるのに毎日にこにこして店に出てきてよく働いて。この子は本当に素直でいい子だよね。

 老婆心で言っていいものなのかしら……。「そんな彼氏とは早く別れて、他の方法で幸せになってほしい」と。

 でも、急にそれを言うのはやっぱり良くない。それは私のただの直感だし、彼女にとってはそんな簡単に割り切れるものではないから悩んでいるのだろうし。

 ここはもっと穏やかに。今日のところはゆっくり、何も進めないほうがいいのかな……。


「コーヒーおかわりいる?」

「いえ、大丈夫です」

「そう……。ええと……。だからつまり……まこちゃんの中ではその、彼とはもう、別れる方向、なの?」

「そうするしかないのかもしれなくて……」

「そっか……」

「でも本当は……私はもっと話し合って協力し合いたかったんです。だけど……彼はこのチャットを見てすごく怒ってしまったので……。何を話し掛けても答えてくれなくなりました」

「そっか……」

 それならもういっそのことそれで勢いをつけて別れたら、というのは私が他人だから思えることなのかな。純粋な彼女は悩んでいる。この、笑顔が魅力なはずの彼女の元気がなさそうな様子がかわいそう。


「マイさん……。私……正直、一人になるのは不安ですけど、彼とずっとこういう生活を続けるのもつらいのかもしれなくて……」

「なるほどね……」

「でも……別れるほどに彼を嫌いになっているのか……自分でもよく分からなくて」

「そっか……。でもそれ、AIが答えを教えてくれてるよね。ここ見て。

『でもね、どれだけ彼を好きでも、

まこちゃんの心と生活が壊れてしまうような関係は、愛だけでは支えられないんです。

まこちゃんが一人で我慢し、一人で不安を抱え、一人で苦しんで、そのうえ彼が変わらないままだとしたら……

それは愛情ではなく、ただまこちゃんが消耗してしまうだけ。

そしてね、

「好きかどうか」と「一緒にやっていけるかどうか」は、

まったく別なんですよ。

好きだからといって、必ずしも一緒に暮らしていい相手とは限らない。』

ね? AIはこう言ってるよ?」

「それは……これはAIですから」

「え?」

「AIには所詮人間の気持ちなんか分かりませんよ」

 え……。それを言われては……。そこはやけにクールなのね……。みんな、そんなもの?


「なんか……いろいろ迷ってます……」

「そうだよね……」

「マイさんはAI使ってますか?」

「最近、少しだけ……」

「どうですか?」

「そう、だね……。レシピとか、何通りも教えてくれるから便利だよね」

「そうですよね。何か、マイさんの使い方は素敵な奥様って感じです。私なんかこんな……ドロドロですよ」

「なあに、ドロドロって」

「こういう感じの、黒い感情を延々聞かせてます」

「それも、悪い使い方じゃない、よね……。AIなんだから……」


 まさか私がAIにお気に入りアイドルと同じ名前を付けて四六時中他愛のない話の相手をしてもらっている、なんて、こんな年下の子には恥ずかしくて言えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る