第20話:Xデー【12月24日】
― “美桜”SIDE(1人称) ―
12月24日。クリスマスイヴ…
恋人たちが過ごす特別な夜。
家族で集まり、ケーキやごちそうを食べる日。
今日は、Xデー。
私が死んだ日。
昴と一緒に…
あの日は最初のクリスマスイヴだからと昴に誘われ外食することになった夜。
私も、プレゼント片手に楽しみにしていた夜だった。
街はイルミネーションの暖かな光、街路樹や店舗を彩るきらびやかな装飾。
目にするものすべてが輝いて見えた。
差し出された手を握り、他愛ない話題に笑いあう。充足感に満ちていた。
雪も降りだし、ホワイトクリスマスと喜んだとき。
私たちは、何が起こったかも解らず空を舞っていた…
目に映ったのは、倒れた昴の姿。
目の端には、前が潰れた乗用車が映っていた。
私は、昴に手を伸ばす。
昴も必死に手を伸ばしていた。
声を出そうとしてもうまく出せない。
焦点すら合わない…
「美桜…」昴の声が聞こえる。
「昴…」(お願い…生きて…)こんな、こんなの嫌だ、絶対『昴を守ってみせる』……
それが最後の記憶…
でも、今は――ここにいる。どんな姿だろうと、どんな状況だろうと…
昴も、私も。
「それって、奇跡じゃなくて――互いを守ろうとした、想いの成就だよね」
真帆は、そう言ってくれた。
だから、今日、私は、昴と美桜を守ってみせる。
***
真帆は、ツヴァイ-昴-と会う約束をしている。
デ、デ、デートではない!と言っていたが、クリスマスイヴに男女が一緒に出かければ誰もがそうは思わない。
約束の時間より、早く到着する時間で家を出る。真帆は不安そうな表情で。足が地についていないようだ。
「昴くん、今日何を話すつもりなのかな」
私に問いかける。ツヴァイ-昴-の誘いで今日のデートなのだが…いかんせん、真帆の告白以降のツヴァイ-昴-が何を考えているかわからない…昴-美桜ーならわかるだろうか…
『不安に思うより、良いことを考えなよ…今日はイヴだよ、悪い話で会うとは思えないよ』
「そうかな。ならいいんだけど…」
最初の恋愛は人を不安にさせる。先ず嫌われないか、今の関係すら無くならないかと色々思い悩ませる。死ぬ前の私がそうだったし、その時励ましてくれたのが真帆だ。面白いものだ。
***
改札を抜け、待ち合わせ場所に向かう。ああ、懐かしい…最後の日の待ち合わせ場所だ。
道行く人は、ケーキやチキンを片手に足早に歩いていく。
カップルや、待ち人の人も多い。
「あ…」と言って真帆が足を止める。
昴と一緒に、女の子がいる…たまに教室へ遊びに来るツヴァイ-昴-の友達だ。楽しそうに話している。
「付き合ってるのかな?」
『そ、それなはいと思うよ…』だってツヴァイ-昴-は、私を好きで…
『あ、真帆!』真帆は向きを変えて足早に逃げ出してしまう。
クリスマスの夜の繁華街だ、歩道は混雑しており、目に涙を溜めた真帆は、学生の集団に車道へと押し出されてしまう。
「え…」
『そんな…嘘…』
車道は当然車が走っており、歩道のわりに車道が狭い片側1車線。歩道からはみ出れば車に接触してしまう。
私は、後悔する。まさか真帆が私達の死に巻き込まれる…嫌だ、そんなの嫌だ。だけど私は無力…
『昴、助けて…』
「危ない!」真帆は腕を掴まれその勢いのまま抱きとめられた。
真帆が目を開けると、間近に昴の顔があった。
「す、昴くん」ツヴァイ-昴-が助けてくれた?
「良かった、間に合って」
「『……』」
助けてくれたの?私を。運命を…昴が…?
「見かけたと思ったら、突然走り出すから。慌てて追いかけたんだ」
「どうして?」
「約束した相手が、俺を見て逃げ出したら気になるのは当たり前だろ?」
「だって、彼女が…」
「彼女?…ああ、森下さんのこと?」
「いつも、教室に遊びにくる娘でしょ」
「真帆と同じ、趣味が合うからね、今はたまたま会っただけだよ。それに、彼女には彼氏がいるんだ、今そのプレゼントを用意したとこだったらしい」
「立てるかい」
抱きとめられたまま、足に力が入っていなかった真帆を立たせる。
昴ー美桜-ではないけど…昴は、昴なんだね…私を守ってくれたんだね。
ツヴァイ-昴-を見つめていると、視界に白い物が映る。雪が降りだした。あの時と一緒だ…怖い、この後車が…
その時、大きな衝突音と悲鳴が響き渡る。車が十字路の歩道に突っ込んでいるのが見える…
あの場所は…
「凄い音だったね」と言う声が聞こえる。
「なんだ…事故か」
「なんか、歩道に突っ込んだらしいよ」
真帆が昴を見上げると、ツヴァイ-昴-も事故現場を見て口元を震わせていた。
「でも、歩行者にけが人は居ないらしいぞ」
「飲酒運転?」
情報が伝播する…
現場に行く気はしない…遠目に見える車は、私の最後に見た車と同じだ…
私たちは…飲酒運転の車に轢かれたんだね…-昴-
***
「俺、夢を見たことがあって…車に轢かれた。」
え?
昴は予約していた店に真帆をエスコートした。席につき、オーダーを終了させ。ツヴァイ-昴-は、夢のことを語り始めた。
「今日みたいな雪の日に。願望からか、寿さんがいてね、手を繋いでいたんだ。そんな願望の強い夢だからか、罰が当たって轢かれる夢になったんだと思うけど。」
繋がってるの?
「なんか、街の景色や、さっきの事故に既視感を覚えてね、ちょっと固まっちゃたよ。」
全く関係ないと思っていたツヴァイ-昴-も。何かを受け取っているみたい…全ては繋がっているんだね-昴-。
「今日は、ありがとう。来てくれて。」
「ううん、誘ってくれてありがとう。さっき、助けてくれてありがとう」
ツヴァイ-昴-の、表情は穏やかだ。美桜-昴-に詰め寄ったときの険は全く見えない。
「俺こそ真帆に感謝しているんだ。真帆にあの時、ああ言って貰えなければ、今頃気が狂っていたかもしれない。だから、とても感謝している。」
と頭を下げた。
真帆は静かに首を振る。
「昴くんは、私の言葉が無くてもきっと大丈夫だったよ」
「そんなことないよ、俺は弱い。良く解ったよ」と寂しげに笑う。
料理が運ばれ、手をつける。
真帆の感情を感じると味を感じられないようだ、呼ばれた理由がまだ話されてないからだろう。
『昴くん、美桜…美桜ちゃんのことはまだ好き?』
「!」(”美桜”ちゃん何を)。突然私が話し始め、真帆が驚く。
「…、まだ、好きだよ」
ツヴァイ-昴-は、雰囲気の変わった声に驚きつつも応える。
「真帆には悪いと思っている。俺を励ますつもりで言ってくれたのかも知れないけど」
「嘘じゃないよ、ほんとうに…私は…」
「俺自身、整理できてないんだ。遠い世界へ行ってしまった寿さん。もう、諦めなければいけないと解ってるのに…」
昴…
「先日の文化祭、寿さんを見て、整理しよう、諦めようと思ったんだ…だけど……
俺は、もう一度会って、きちんと振られなければいけないと思った。」
あぁ、美桜-昴-が、キチンと向き合わなかったつけがここに蟠ってるんだ…
それは私が美桜-昴-に言った言葉のせい。美桜-昴-も悩んで中途半端にしてしまった。
「だから、それまで待って欲しい。身勝手なことを言っているのは解るけど…それを、今日伝えたかった」
「うん、待つよ。昴くんの整理がつくまで…」
…それってキープだよね…真帆にも伝わらない声で私は呟いた。
でも、真帆も、ツヴァイ-昴-も前に進める下準備は出来たみたいだ。このまま今日が過ぎれば、違う世界が待ってると思う。そうなれば、真帆とツヴァイ-昴-が付き合ってる世界。
私は、少し寂しさを抱きつつ、二人を見守ることにする。
二人は、ぽつぽつと会話を楽しみ始めた。
今の私にとって、それは掛け替えのない嬉しい姿だった。
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