Rogue of non-life world~英雄の条件~
秋乃紅茶
序章
第1話 日課
マリウスは、傾斜の上から眼下に広がる森を見渡した。木々の隙間から覗くルフナ大森林は、山間部から平野部へと果てしなく続き、どこまでも深く青々としていた。
ちょうど二年前、十歳になったマリウスは父に教わりながら本格的に採集や狩りを覚え始めた。最初は慣れない山道に何度も足を取られたが、それでも父の後を追いかけるのが楽しかった――今では父から「訓練だ」と言われて山菜がぎっしりと詰まった籠を背負わされている。
「父さん、もういっぱいだよ」
「そんなに集めたか。すっかり早くなったな」
「私も頑張ったからね!」
「ミリアの方がマリウスより山菜探しが上手いかもな」
「そうだね、薬草を選ぶのもうまいし」
「えへへ、そうかな~」
泥だらけの顔で照れ笑いを浮かべるミリアが、なんだか誇らしげに見えた。
小休止に入ったとき、マリウスはふと横目で彼女を見る。そして、ゴクリと喉を鳴らした。
――口から漏れる長い吐息。白い素肌を伝う汗。
「なーに?」
「なんでもないよ」
そう言って視線を戻したものの、頭の中ではミリアのことを考えていた。
少し前、二つ年下の
(この山道だって、女の子には厳しいはずなのに)
けれどミリアは弱音を吐いたことすらない。マリウスより先に動物の足跡を見つけ、山菜の採集場所まできっちり覚えている。その観察眼や記憶力は父にも褒められるほどだ。
(いつも頑張ってるよな)
驚きと悔しさを感じつつも、マリウスにとっては可愛い弟分ができたことのほうが嬉しかった。
「それじゃあ二人とも、引き上げるぞ」
「時間あるなら、少し川で遊んでもいい?」
「私も水遊びしたーい!」
「元気なもんだ。日暮れまでには村に帰るからな」
「「やったー!」」
父が一度だけ呆れたように眉を上げ、すぐに笑顔で「じゃあ遊ぶぞ!」と親指を立てた。
マリウスは手のひらですくった水をミリアに向かって飛ばし、彼女は「冷たーい!」と声を上げつつも負けじと水を跳ね返してくる。父がミリアの味方についた瞬間、マリウスはたちまち不利になった。
春先の水の冷たさも忘れて、三人の笑い声が川面に広がっていった。
帰り道、父の背中でミリアはスヤスヤと寝息を立てていた。
「マリウス。そろそろ魔物退治を覚えてみないか?」
「夜回り隊?」
「そうだ。初めはついてくるだけでいい。と言っても、この辺りで出るのは
魔物は動物とは違う。魔石を持ち、
だから——。小さな頃から「魔素が濃くなる夕暮れ以降は絶対に家から出ないように」と、耳にタコができるほど言い聞かされてきた。
「わかった。参加してみるよ」
父から大人として見られたことが、マリウスには嬉しかった。
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