5th day『形だけのG/Aの魂の叫び』
5-1
銀磁が目覚めてから数時間後――日付が変わって一時間ほど後。
銀磁たちは、エヌから教えてもらった財団A幹部『デビル』の拠点である施設の近くまでやってきていた。
都内……ではない。隣県の、海辺の小さな町にある、一見すると製薬工場に見える施設だった。
施設から少し離れた場所にある林の入口に、エヌの運転する車を止めた銀磁たちは、車内で作戦の最終確認を行う。銀磁の格好はいつもと違い、戦闘用のアサルトスーツや防弾チョッキ等で全身を固めていた。
それでも帽子を被っているのは、銀磁の譲れない部分だ。
「じゃあ、最終確認だ。まず、エヌが積み込まれた機材を使ってハッキングをかける」
「はい。機材の扱いやハッキングの仕方などについては完璧です。任せてください」
銀磁の言葉に、自信の籠った返事を返すエヌ。博士に作られた人工生命体として、情報処理能力に関する矜持が見て取れるのが頼もしい。
「エヌがカメラや防衛機構を封鎖したら、続いてアニムスが施設周辺で暴れる」
「久しぶりに何も考えずに武器を使えそうでありますですね」
アニムスは少しだけ楽しげに――あるいはわざとそういう言いかたをしているのかもしれないが――答える。
その返事が少し心配だったものの、銀磁は言葉を続けた。
「最後に、アニムスが警備を外にひきつけたところを狙って、オレが侵入する。アニマを救出して……仕事は終わり、撤収だ。だが、もしも、モルスが出てきたら……ヤツを、今度こそ叩いて、撤退の道を確保する」
「ご主人様の考えた『策』が通じるといいでありますですね。あの女に」
気軽に言うアニムスだったが、今回の作戦でもっとも負担が大きいのはアニムスのはずだった。
暴れて敵を引きつけるだけでもかなり危険だが、その上、モルスを倒すための『策』のためにも手を貸してもらうことになっている。
「やることが多くて悪いな、アニムス。また下半身と上半身バラバラにされるようなことには、ならないでくれ」
銀磁が心底心配そうな声を漏らすと、アニムスはふ、と笑みを漏らした。
「ご主人様は自分の心配をしている方がいいでありますですよ? メイドロボは、ご主人様が死なない限り壊れないものでありますですから。まずはご主人様が生き残ることを一番に考えているといいでありますです」
そうすれば自分も大丈夫だと言うアニムスに、銀磁は無言で頷いた。
「よし。行動開始だ! エヌ、オレたちが車の外に出たらすぐにハッキングを始めてくれ。もしもこっちにまで誰かが来たら、すぐに逃げていいから」
「わかりました、任せてください」
「行くぞアニムス」
「はいでありますです」
エヌを車に置いて、銀磁は耳にインカムをつけるとそっと車の外に降りた。
そして、小走りで、物陰を渡る様にしながらアニムスと共に施設の近くへ移動する。
十分ほど息を殺して待つと、エヌから通信が入った。
『予定通り、施設へのハッキングに成功しました。……すごいですね、この機械。こうもあっさりと侵入できるなんて』
「ワタシの開発者様お手製でありますですから。ご主人様……じゃない、サルにも使えるハッキングアイテムだそうでありますですよ?」
「おい、今オレのことサルと同列に扱わなかった? なぁ?」
突然悪く言われて銀磁はアニムスを半眼で睨みつけるも、アニムスはどこ吹く風で無視。
そんな二人の様子を通信機越しにも感じたのだろう、くすりとエヌは僅かに笑いを漏らすと、二人に対して言う。
「抜き出し終わりました。アニムスさんと、銀磁さんの端末に、それぞれマップを転送します。確認してください」
言われて、銀磁はポケットから取り出したスマホサイズの端末を起動させ、地図を確認する。アニムスは頭の中にデータが送られてきているので、目を閉じてそれを確認している。
マップには、目標であるアニマが囚われている部屋が真っ赤に表示されていた。そこに向かうまでのルートも赤。
それをしっかりと頭に叩き込んでから、さらに、銀磁は施設全体も可能な限り覚えていく。
「地下三階に潜水艦が泊めてあるな。潜水艦ドックの近くにある、所長室……っていうのは、幹部の『デビル』とかいうやつの部屋か?」
「エヌ様、所長室内部の状況はわかりますですか?」
『いえ、所長室内部にはカメラなどは一切ありません。また、外部と繋がっている機器も存在しない模様。ただ、鍵の状態だけはネットワークに繋がれていて表示されています。現在は入室状態、誰かはわかりませんが内部に人はいると思われます』
「清掃のおばちゃんが入ってた、なんてことはないだろうな」
エヌの言葉を聞いて銀磁が漏らした言葉に、アニムスは深く頷く。
「開発者様からの伝言にも、『デビルは殺してしまっていい』とありましたですし、部屋から出る前に始めるでありますですよ、ご主人様」
「ああ。頼んだぞ、アニムス。お前の働きにかかってる」
「モルスと名乗った女は、アニマ様の方に居る可能性が高いでありますです。ご主人様こそ、油断しないようにでありますですよ?」
「わかってるさ、予定時間までに、オレもオレの仕事をこなす。だろ?」
銀磁が帽子のツバを軽く指先で押し上げながら言うと、アニムスは苦笑気味に頷く。
「ノータリンご主人様はいつでもかっこうつけでありますですね。一周回って感心するでありますです」
「オレにはこれくらいしかないからな。――行くぞ」
「了解でありますです。エヌ様、カメラ等の操作お願いするでありますですよ?」
『お任せください』
銀磁とアニムスは、それぞれ分かれて移動を開始する。
銀磁は裏口へ。アニムスは、最も目立つ正面へ。
アニマを助け出すために、二人はそれぞれ全く逆の行動をとりはじめるのだった。
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