第一章「囚われの銀姫」
第2話「メンヘラだらけの世界で」
【前回までのあらすじ】
精神科医シンイチは、患者のストーカーに刺されて命を落とした。
闇の中で出会ったヤンデレ女神カルミナによって異世界に転生し、「カイラス」という名と美しい顔を与えられる。
奴隷牢で目覚めた彼は、隣の牢で剣を抜き差しする奇妙な儀式を繰り返す銀髪の少女を見つける。
―――――――――――――
石の床で目覚めた朝、体中が痛い。
朝食として与えられたのは、黒く硬いパンと濁った水。
この世界ではカップ焼きそばは夢の食べ物か。
カチャリ。
……カチャリ。
隣の牢から金属音が、今朝も聞こえる。
「おい」
鉄格子越しに声をかける。
「その動作、何回目だ?」
反応はない。
「辛かったら、手助けできるかもしれない」
銀髪の少女は、まるで俺が存在しないかのように、剣を抜いて納める動作を続ける。
虚ろな瞳。血と煤に汚れた肌。
でも、その銀髪だけは月光のように美しい。
「お前の力になりたい」
我ながら、お節介な性分は死んでも治らないらしい。
「名前は? 俺はカイラス。元……いや、医者だ」
カチャリ。
完全に無視された。
まあ、初対面の患者なんてこんなもんだ。
信頼関係の構築には時間がかかる。
焦らない、焦らない。
◇
翌日の昼、俺たち奴隷は闘技場の掃除に駆り出された。
血と砂を掃きながら、隣の中年奴隷に聞いてみる。
「あの銀髪の女、知ってるか?」
「ああ? お前、狂姫の隣の牢か」
男は哀れむような目で俺を見た。
「『白銀の狂姫』。この闘技場の稼ぎ頭さ」
「狂姫?」
「試合前に剣を抜いたり納めたりする。
観客はあれを『死の儀式』とか呼んで面白がってる」
胸糞悪い。
病気を見世物にしているのか。
「でも強さは本物だ。
あの細い体で、熊の獣人も一撃で斬る」
へえ、と相槌を打ちながら、闘技場を見渡す。
観客席には貴族らしき連中。
奴隷の血を見て興奮している。
前世の患者を思い出す。
誰も理解してくれない中で、必死に生きていた人たち。
この世界も、変わらない。
「それよりも、今夜どうだ?」
男がニヤリと笑って、俺の尻を撫でて来た。
「なんだよ、皆まで言わせるなよ」
俺は全身に鳥肌がたった。
◇
夕方、水汲みから戻ると、牢の前に昼間に話した中年の奴隷を含めて、奴隷が三人立っていた。
一人は筋肉の塊のような大男。
腕は俺の太ももより太い。
「おお、お前の言う通りの上玉じゃねぇか」
リーダー格の男が、舌なめずりをする。
「白い肌、長い睫毛……まるで女みてぇだ」
「悪いが、俺にはそういう趣味はねえ」
「そういう奴を、屈服させるのが、たまんねえんだよ」
「精神障害としての性的サディズム
診断基準は
6か月以上、反復して他者に苦痛・屈辱を与えることで性的興奮を得る空想・衝動・行為がある
それが本人または他者に実際の苦痛や障害をもたらしている
行為が同意のない相手に向けられている、あるいは衝動を抑えられない」
男が俺の顎を掴む。
タバコと酒の腐った匂いが鼻を突く。
「何をわけがわかんねえ事を言ってるんだよ」
三人は下卑た笑いを浮かべて去っていく。
おいおい、ほんとにメンヘラ世界じゃねえか。
カルミナ、顔面偏差値に全振りって、こういうことかよ。
「災厄でしかねえ」
隣の牢から、じっとこちらを見つめる視線を感じた。
銀髪の少女が、初めて俺の方を向いていた。
でも、また目を逸らされた。
◇
深夜。
石の床で寝ていると、牢の鍵が開く音がした。
「へへ、待たせたな」
あの三人組だ。
どうやって鍵を?……看守を買収したか。
俺は飛び起きて後ずさる。
でも逃げ場はない。
「やめろ!」
「いい声だ。もっと聞かせてくれ」
男たちが迫ってくる。
前世でも腕力はなかった。
この細い体じゃ、なおさら勝ち目はない。
絶体絶命。
そして、俺は叫んでいた。
「カルミナ!」
―――――――――――
この小説はフィクションです。
登場する精神疾患はデフォルメされています。
診断は専門医の診断を受けるようにしてください。
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