第23話 すっごい急に真顔になるんですね

「うっし。それじゃあジャガイモはキロ単価で銅貨十二枚、ニンジンとカブは銅貨十五枚やな。内容に間違いなかったらここにサイン頼むで」


「えっと……はい、間違いありません。これでお願いします」


「ありがとさん。いやーこんなえぇもん仕入れられるなんて嘘みたいや、今後ともよろしゅうたのんまっせ~」


 エリーゼさんが作った契約書に隈なく目を通してサインすると、エリーゼさんは大事そうに書類を懐に仕舞って右手を差し出してきた。友好の証、ってことかな。私の方こそ集落の皆さんによくしてくれてたエリーゼさんとは仲良くしたいし、躊躇いなくその手を取る。


 ……ん? 何だろうこの感じ。なんか今までに感じたことのない魔力の流れというか、色? みたいなのを感じるんだけど……?


「なんや王女殿下、さっきの契約になんかあったか?」


「あ、いえ。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」


 いけないいけない、つい気が逸れちゃった。こういうのつい気になっちゃうんだよね、もうちょっと時間があるときにゆっくり確認させてもらおう。


 そんなこんなで、領民の皆さんに手伝ってもらって麦五俵と野菜類をエリーゼさんの馬車に積み込む。引き換えにいただいた銀貨を各家庭に分配して、お仕事完了だ。


「すげぇ……これ、俺らの金なんだよな……?」


「まさか、支援金以外でお金をいただける日が来るなんて……」


 配った銀貨をしげしげと眺めたり、感慨深げに握り締めたりしている領民の皆さんを見ていると、【目覚まし】をやった甲斐があったなぁって思う。……良かった。私、ちょっとは役に立てたかな。


「いひひっ、これはめちゃくちゃ儲けになるでぇ♪ いくらで売れるか楽しみやなぁ♪ 今まで散々馬鹿にしてくれたやつらの驚く顔が目に浮かぶでぇ♪」


 ついでにエリーゼさんが物凄く黒い顔で笑ってた。……うん、見なかったことにしよう。


「時に王女殿下、ここでのことはどこまで広めてええんかいな?」


「すっごい急に真顔になるんですね」


 うん、切り替えすごい。商人さん怖い。


「真面目な話、いきなりここでの収穫量が増えたってなると相当怪しまれるはずや。いくら魔法で生育を早められるっつーても限度があるし、王女殿下の着任からほとんど間を置かずにこうなったとなると探りを入れられたり何やりで騒がしいことになる。やから前もって、王女殿下の方針を聞いておこう思ってな」


 こっちから話そうと思っていたこと、全部先回りされちゃった。なんて言うか、こういうのをこちらから聞かずとも察してくれる辺りにエリーゼさんの能力の高さというか、頭の回転の速さを感じる。


「そうですね。なので当面は、ここでの収穫物だってことは伏せておいて欲しいんです。私の魔法も無限に使えるかはわかりませんし、そもそも私頼りな状態で広めるのはリスクが大きすぎますから」


「ま、それが妥当やろうなぁ。……とはいえ品物を流す以上はバレるもんにはバレる。うちの行動範囲も限られとるからな。そこは勘弁してくれや」


「わかりました。ありがとうございます」


 エリーゼさんの心配りに感謝しつつ頭を下げる。トマスさんたちが信頼しているだけあるなぁ、今後ともできる限り長く関わっていけるように頑張ろう。


「……ちなみに、いつまで伏せておくかの目算はついとるんか?」


 エリーゼさんが探るように問いかけてくる。まぁそうだよね、やっぱり産地を明らかにした方が売りやすいだろうし。それでも私の事情を最大限慮ってくれたわけだから、できる限り答えたい。


 ……とはいっても現状調査もあんまり進んでないし、ほんの少ししかお伝えできることはないのが歯がゆい。


「不作が根本的に解決したら……って思ってるんですけど、こればっかりは何とも。原因にめぼしはついているんですけど、解決法はまだ見つかってなくて」


「まぁ難しいわな。でなきゃこんな死屍累々になんて……って、は?」


 ついトーンが落ちてしまう私の声に、うんうんわかるよって感じで頷きながら聞いてくれていたエリーゼさんが不意に固まってしまった。あれ、何かマズいこと言っちゃったかな……?


「き、聞き間違いちゃうよな? おとぎ話になるくらい昔からの不作の原因に、来てそんな経っとらん若い嬢ちゃんがもうめぼしをつけとるっていうたか?」


「え? えぇ、そうですけど……多分今までに開拓を試みた人も、原因はわかってたんだと思いますよ?」


 だってあんなにわかりやすく魔力がせき止められてるし。……あぁでも、ローザは一般人にはわからないって言ってたっけ? まぁでもわざわざ開拓に来るくらいだから、魔法にも詳しい人だって一人や二人来た事はあるよね。


 それに、わかったところで人間にはどうしようもない問題だからねこれ。世界を巡る魔力の流れに干渉するだなんて、それこそおとぎ話に出てきたような大精霊様や神獣様の領域だもん。……あ、逆に言うと、そのお二方がこの地を離れた理由を探せばいいのかな? そうなると、トマスさんやミラちゃんにこの地の伝承とかそういうのをもっと聞いてみるのもありかもしれないね。


「……なぁ姉ちゃん、なんで王女殿下は追放されてきたんや」


「誤解と思考放棄、妬み嫉み思い込みその他もろもろによる失策ですね」


「王女殿下、うちにできることならなんでもやるから遠慮なく言うてや」


「へ? あ、はい、ありがとうございます……?」


 私がちょっと思考を逸らしてると、荷運びの手伝いから戻ってきたローザと最近どこかで見たようなやり取りを行ったエリーゼさんがやけに悲しそうな顔でポンポンと私の肩を叩いてきた。


 急にどうしたんだろう? まぁ、味方してくれるっていうことなら全然悪いことじゃないし、ここは素直に受け取っておこうかな。

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