第33話 学祭:脱出ゲーム1
それから俺たちは揃って校内を見回ることにした。行った先々で、二年と三年の先輩たちが麗子さんに声を掛けてくる。
「麗子先輩。うちのクラスの喫茶店に寄って行ってください」
そんな声が、あちこちから掛かり、麗子さんが慕われているのが、すごく伝わってくる。
「麗子さんはここの卒業生なんですね」
「そうよ。去年卒業したの」
へえー、緒方先輩たちの一コ上か。そう思っていたら、井上先輩が意外なことを教えてくれた。
「この学校に入ることに決めたのは、麗子さんに誘われたからなのよ。おもしろい学校だから、皆もおいでって」
そして、緒方先輩が自慢げに追加した。
「麗子は俺たちが入学した年の生徒会長だったんだ。そして俺が立候補した時の推薦者だ」
「凄いですね」
麗子さんが俺を見てコロコロ笑った。
「ヒロシ君だって次期生徒会長でしょ。まだ実感がないのね」
はあー。そうだった。
麗子さんは長い睫毛を震わせて、笑いながら俺を見ている。
グイッと肩の辺りを押され、里見先輩が割り込んできた。麗子さんの腕に掴まり、俺を追い払おうとする。
緒方先輩はその反対側にひっついている。
「ヒロシ、こっちに来い」
今井先輩に呼ばれた。
「麗子がいると、いつもあんな風なんだ。悪いな」
「二人ともお姉ちゃん子なのよね。今はそれだけじゃないでしょうけど」
井上先輩も苦笑している。
普段は見ることのない二人の様子に、俺は驚いていた。
「麗子さん、皆に慕われているんですね。素敵だもんなあ」
「そうでしょ。でもヒロシ、それ二人の前で言わないでよ」
エッと驚き井上先輩の方を向くと、今井先輩も、
「そうだな」と言う。
重症のお姉ちゃん子って!
午後になって、脱出ゲームが開場したと校内アナウンスが流れた。
先輩たちも見たいと言うので、集団でゲームのエリア1に向かうと、既に人だかりができている。
廃校舎は窓やドアが取り払われ、内部が見渡せるようになっていた。
興味深げに人々が周囲をうろついている。
「どうぞ、栄えあるトップランナーはどなたが?」
陸曹と、運営係の生徒が呼び込みをしている。
なかなか一番に手を上げるのはハードルが高いのか、皆周囲をチラチラ見て、しり込みしているようだ。
入口には、協賛: 陸上自衛隊(鬼役)と大きく書かれ、陸上自衛隊の旗が掲げられている。その横に注意事項が書かれている。
注意事項: 武器の持ち込み禁止
飲食物の持ち込み禁止
過度な攻撃禁止
十三歳以下はご遠慮ください
そして、『攻略ポイントは、俊敏さと判断力』とでかでかと書かれていた。
「お疲れさまです。準備は整っているみたいですね。人も集まっているし、いい感じです」
俺が声を掛けると、呼び込みをしていた陸曹が寄って来た。
「良い所に来てくれたね、企画者の田中君。どうですか、自分で試してみたいでしょ。トップバッタ―になってください」
陸曹が二カッと笑って言う。
そのまま俺は廃校舎の入り口に押しやられた。
バンっと、スタートの合図が鳴り響く。それと同時に周囲から声援が上がり始めた。
思いがけない事態に驚きながらも、入ってしまったものは仕方ないと腹を決め、じりじりと廊下を前に進む。
入り口から二つ目の教室から鬼が飛び出してきた。俺は咄嗟に一つ目の教室に窓から飛び込んだ。そのまま机の上を走って逃げる。
鬼は俺を追って教室に入ってくると、机に飛び乗った。
追われて反対側のドアから飛び出し、そのまま出口に向かってダッシュ。
ギリギリで出口をくぐった。
心臓がドキドキしている。
歓声がワーッと沸きあがった。
麗子さんが駆け寄って来て、俺の腕を軽く叩いた。
「ヒロシ君、凄いね。カッコよかったよ」
その横に緒方先輩と里見先輩がすぐに現れ、自分たちも出るとかなり力んで言い出した。
まるで自分も褒められたい子供の様だ。
この二人の、こんな様子を見るのは初めてだった。やはり麗子さんの前だと、二人は弟や妹になってしまうのかもしれない。
「さすが企画者。でも次は負けませんよ」
陸曹がちょっと悔しそうな顔で言いながら、通過証明書を手渡してくれた。
この分だと二番手は分が悪いかも、と思っていたら真田が手を上げた。
「次、私いきます」
「真田。スカートのままで大丈夫なのか?」
各方面に配慮しての注意だ。企画した立場として、モラル面も含めて事故は避けたい。
「このステージ程度なら大丈夫」
彼女は軽くジャンプして気軽な様子で入り口に立った。
バンっと、スタートの合図が鳴り、同時に入口のカーテンが引かれると、真田は全速で廊下を走り出した。
猪突猛進!
え? 馬鹿?
いや、この学校に入学できた以上、頭も良い、はず?
その時、三番目の教室から鬼が飛び出してきた。彼女を捕まえようと手を伸ばす。
「真田、逃げろ!」
思わず叫んだ。
真田は速度を緩めないままスッと体を沈めると、鬼の足を低い位置でナギ払い、そのままの勢いでゴールした。
後には、腕を前に伸ばして倒れた鬼が残された。
見ていた人々がワッと沸いた。
こちらに真田が戻ってくると、麗子さんが彼女を賞賛し始めた。俺は褒めるより先に疑問を口にした。
「何、今の。凄い身のこなしだったけど。本当に忍者?」
「私、運動神経には自信があるんだ。背後は任せて」
運動神経云々のレベルではないだろ、と思っている内に緒方先輩がスタートしていた。
余裕で鬼を撒き、余裕でゴールした。
そして麗子さんに駆け寄って来た。
なんだか、可愛らしい? ご主人様に褒めてもらおうと必死な犬みたいだ。
俺の目が変なんだろうか。
その後も、里見先輩、自分もやると言い出した麗子さん、井上先輩、今井先輩と続き、楽勝で突破。
「だから言ったでしょ。この学校は運動神経の良い生徒が多いって」
今井先輩に言われて、陸曹は唇をかみしめている。
「メンバーチェンジだ」
七人でチェンジだと、交代要員が足りるのかと、運営側として心配になった。
声を掛けようとしたら、陸曹がどこかに電話をしている。会話からして、応援を頼んでいるようだったので安心した。
次の挑戦者は中学生男子のようだ。
入った途端にあっさりと捕まっている。その後にも挑戦者が列を作っているので、ここは大丈夫だと次のエリアに移動することにした。
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