第26話 生徒会長への立候補
放課後、生徒会室に入るなり、俺は頭を下げた。
「皆さんに生徒会長に推薦していただけて光栄です。ありがとうございます」
驚いたのか、皆しばし無言だった。
それから井上先輩が、俺にドーンとぶつかって来た。
去年より絶対にパワーアップしている。身長は165センチで止まったと言っていたけど、筋力の増加は止まっていないらしい。
「ヒロシが大人になった」
攻撃されたのかと思って怯えていたら、何か変な事を言われた。
「お前、面白いな。そう来るとは思ってなかった」
緒方先輩も驚いているみたいだ。やった。一矢報いた気分だ。
この記憶と引き換えなら悔いはない。一年間、生徒会長の仕事をきっちり務めよう。
俺は初めて自分で前に一歩進み出た気がした。
そして緒方先輩が俺の前に立った。
「改めて聞く。やるか、ヒロシ」
「やります」
パチパチと拍手が湧き上がる。
それから俺は改めて疑問をぶつけてみた。
「なぜ今回の立候補者は俺だけだったんでしょう。ここの生徒会に入りたい人がどれほど多いか、今なら知っています。それだけに、これ、おかしいと思うのですが」
「あーそれな。たぶん俺たちが四人揃ってお前を推薦したせいだろうな」
どういうことだろうと思っていたら、今井先輩が丁寧な説明をしてくれた。
「立候補するにしても、強い推薦が付いたほうがいいだろ。俺たちに推薦を頼んでくる人間は多かったんだ。それを全員が全て断って、全員でお前を推薦した。だから諦めたのだろうな」
そう言えば、四人からの推薦だって、先生が言っていた。
他の立候補したかった人たちに申し訳ないような気分になったが、それを振り払った。
この四人に推薦されるのは、それだけ凄い事なんだ。
だから俺はやれるし、やる。
その重みをかみしめて力む俺の横で、緒方先輩があっさり言った。
「CM出演したのは、このためもあったんだ。派手に顔を売っとけば、他の生徒は太刀打ちできないと思うだろ」
ものすごく納得。
テレビで人気のタレントさんとかで、議員になっている人、多いもんな。
「それでも、これほど見事に全員が引きさがるとは思わなかったよ。CMの威力は凄いな」
「うん。特にヒロシは大注目されてるものね。これじゃあ、皆、出ても無駄だと思うよね」
緒方先輩が、ニカッと笑った。
「さらに追い打ちで、バスケでお前の力を見せつけたんだ」
「え、あれ、そういう意図だったんですか? 俺はてっきり息抜きなんだとばかり思っていました」
「俺たちのラフプレイを知っている奴で、付き合ってくれる相手はそういない。対戦相手を捕まえるのは大変だったんだ。それで言うと、俺達にずっと付き合ってきたお前は凄いよ」
あれから、周囲の目が少し変わった気はしている。
俺自身だってそうなのだ。
先輩たちとばかりやっていたから、いつも最弱だった俺。それが他のメンバーと対戦したことで、結構強いのかもと思うようになった。
バスケがではなく、あの半格闘技系バスケに関してだけど。
「もう一つ聞きたい事があります。なぜ俺を生徒会長にしたいんですか」
それには井上先輩が答えてくれた。
「ヒロシはやらなくていいと思うと、すぐ引っ込むタイプだよね。私たちが卒業したら、きっと何もしようとしない。やれば出来るし、伸びしろもあるんだから、それを埋もれさせてはもったいないよ。だから、こうしたの」
俺のこの先の事も考えてくれたんだ。これは感謝しないといけない、そう思った。
「それにさ、吊り合うようにならないと、この先が大変だしね」
窓を開けながら、井上先輩が小声でつぶやくのが聞こえた。
「え、何がですか?」
「ん? 何でもない」
それから具体的な話になり、緒方先輩が、副会長以下の役員候補を十名ほど挙げた。
何故か全員男だ。
今までは半々だったから、女子も含むと思っていたので意外だった。
「誰かさんが、ヒロシの周囲に女を置くのを嫌がったのよね」
井上先輩が俺の顔を覗き込んでニヤニヤする。
「もうチョロシじゃありません。ちゃんと寄ってくる女子を判別しています」
井上先輩の顔が曇った。
「そういう話じゃないんだけどな」
「そういう話よ。まだまだ危なっかしいもの」
里見先輩が話に入ってきた。
「全く過保護ね。母親か」
じゃれ合い始めた二人から離れると、緒方先輩に懇願した。
「男ばっかりの生徒会って、むさ苦しいです。一人くらい女子を混ぜたいけど、どうでしょう」
「誰か心当たりがあるのか?」
そう聞かれて、真田の顔を思い浮かべた。
「まあ、そうですね。クラスの女子なんだけど話しやすいので」
意外そうだ。他の三人も寄ってきた。
「どんな子? っていうか誰」
「真田っていう同中の女子です。俺に対してすり寄ってくる感じは全く無いんで、安心して話せます」
今井先輩がプッと吹き出した。
「その判断基準、おかしくないか?」
「俺も色々と考えて、相手を見るようになったんです。今の所は、それが俺の判断基準です」
だって、もう小山さんや瀬木さんみたいな女子は嫌なんだ。
思い出すと、未だに胸の奥が痛む。
あれは、ある種の失恋だったのだろうか。
「女子を入れるなら、一人より二人のほうがバランスいいな。二年で数人見繕うよ」
緒方先輩が約束してくれた。
その後は学祭の話に移った。
学祭には外部の企業や大学、その他のコラボ参加が可能だ。
手を上げている企業なり大学なりに、学生側が企画を出して、相手側からOKが出たら、コラボ企画を登録する。
工学クラブは、ある大学のロボット研に企画を送った。
即刻話がまとまり、すでに準備にかかっているという。
タイトルは、『ロボットにメイド喫茶は出来るのか』という挑戦的なものだ。
具体的には、エプロン装着の猫型ロボットが接客をして、「ご主人様」と迎えてくれ、冷食のオムレツにハートを書いてくれる。
俺も見てみたいから、絶対行く。
他にも面白そうな企画がいっぱいだ。
既に各学級、各クラブがいくつもの許可申請を出してきている。
ダンスクラブは某エンタメ企業と組んでダンスパフォーマンスをすることになった。その他にも、合唱部、軽音部、演劇部、その他、体育館で活動を披露したいグループがいくつもある。
体育館使用の時間調整は、俺の担当になった。
一日目と二日目の十時から四時までが使用期間になる。
「私がサポートにつくよ」
里見先輩が声を上げた。
「サポートがいるほど、難しいことじゃないと思うのですけど」
そう言ったら、やってみたらわかると言われた。
実際に始まったら、これが予想外に難しい。時間割の調整でかなり揉める。皆、 我儘なんだ。
で、それを全部聞いていたらきりがない。
俺は一年生なので、どうしても強く出られないところがある。そういう時に、里見先輩がガツンと言ってくれる。
「あんたのクラブに三時間も当てたら、他のチームに配分する時間が何時間残ると思うの? わがまま言ってんじゃないわよ」
それまで嵩に掛かって、持ち時間を伸ばせと言っていた三年生が、大人しく引く。
こういうのを見ると、自分の力不足を嫌というほど思い知らされるんだよな。
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