第25話 久しぶりのバスケ

 



 それから対戦が始まった。


 俺は必死だった。いつものバスケ。しかも相手は本職(バスケ部)。思いっきりいかないと、相手にならないだろう。


 そう思っていたのに、相手は思いの他、大人しかった。

 俺が思いっきりぶつかっていくと、簡単に蹴散らせる。

 何だろう、あっけなくディフェンスを破れるし、当たりも弱い。


 でも考えたら、それが当たり前なのかも。

 普段はこんな乱暴なプレイをしていないだろうし、これをやったら、即ファウルを取られる。

 本職だからこそ、それが気持ちの上でストッパーになるのだろうな。


 いつもは怖い先輩たちが味方になっている今、怖いものは無い。

 井上先輩が相手チームのディフェンスを、ドリブルで突破してポイントを決める。

 相変わらず当たることを恐れない、果敢な突っ込み方。それに当たってもビクともしない、ボディバランスと体幹の強さは健在だ。

 自分に向かってこなければ、安心して見ていられる。


 今井先輩が突進すると、男のディフェンダーたちが吹っ飛ばされた。この二人がカップルなのは怖いな。

 ちょっとビビる。

 実は優しい今井先輩、最終的には優しい井上先輩。そうわかっていても、怖いものは怖いのだ。


 俺はパスを受けると、リングにボールを叩き込んだ。

 女子相手には、荒っぽいことはできないが、そこはこっちの女子たちが対応してくれた。

 井上先輩も、里見先輩も、さすがに俺にしていたようなラフプレイはしないようだ。そこは安心した。

 それでも、かなりガシガシと当たって行っている。そうなるとスタミナ勝負なんだけど、相手はもうへとへとの様だ。

 もしかして対戦相手のギラギラした目は、怯え?


 結局、ゲームは生徒会チームの圧勝に終わった。


「お疲れ。ヒロシ、強くなったな」

「うん。偉い。頑張ったね」

「なあ、やり足らないから、五人でもう一回やらないか」

「え、嫌です」

 せっかくいつもより楽だったのに、また?


 結局もうワンゲームすることになった。高校生になった今では、男子の先輩も手加減なしらしい。

 そしてなぜか俺への集中攻撃が始まった。味方のはずの緒方先輩も、気軽にぶつかって来る。 

 なんでだ。

 

「田中君。頑張って~」

 同級生の緩い声援が上がる。


 緒方先輩に肩からドガっと当たられて派手にコケ、今井先輩に、胸でぶつかられて弾きとばされるのを見るうち、同級生の声援が、だんだん変わって行く。

「田中君、大丈夫~」


 井上先輩に頭突きをくらい、里見先輩がドリブルで突っ込んできて吹っ飛ばされたあたりで、また変わっていた。

「田中君、逃げて~」


 今度へとへとになるのは俺だった。

 そして、翌日、クラスメイトたちに労わられた。



 そんなある日、隣の席の女子に驚くことを聞かれた。


「田中くん、やっぱり生徒会長に立候補するんだ。役員の候補は決めたの?」


「はー? 生徒会長に立候補って何?」


「数日前から教員室前の廊下に貼ってあるけど。……何で本人が知らないの?」


「……なんでだろうなあ」

 俺は授業が終わると、慌てて廊下に飛び出した。


『生徒会長、立候補者』


  ◆ 一年C組 田中ひろし


 先頭に俺の名が書かれている。その下に推薦者名として、緒方先輩たち四名の名が列記してある。

 その横は空白。

 まだ出揃っていないのかと、張り出された紙の左に目を移した。

 立候補締め切り日は一昨日。

 立候補者 : 一名 

 投票日  : 十月二日(金)

 立候補者一名のため、信任投票となる。

 以上、と締めくくられている。


 立候補者、俺だけ⁉


 おかしい、なんで。

 俺はそのまま教員室に駆け込み、生徒会顧問の教員の元に向かった。


「生徒会長選挙の告示、おれの名しか出ていませんけど、あれって本当ですか」


「そう、今年も一人だけだ。だから信任投票になるな」


 え、俺に決定?


 呆然とした。

 でもぼんやりしている場合ではない。  

 俺は抜けそうになる力を振り絞って粘った。


「先生。これ何かの間違いだと思います。俺は立候補した覚えはないです。おかしいです」

 先生はゆっくりと俺の顔を見上げた。

 しばらく間があり……


「推薦だよ。現生徒会役員四名からの。聞いていなかったの?」 

 聞いていた。


 聞かなかったことにしようと頑張っていただけだ。拒否はできると言われたけど、絶対に越えられないハードル(井上先輩の許可)を設けられ、俺は諦めた。


「全く聞かされていなかったなら、私から事情を聞いてみるけど、そうなの?」

 ……聞いてる。言い訳できない。


 首を振る俺を見て、先生は察したようだ。


「うーん。つまり田中は断ったのか?」

「一応」

「で、結果どうなったの?」

「……辞退の条件を出されて、あきらめました」

「じゃあ、受けたってことだろ?」

「はあ、そう……ですかね」

 先生は立ち上がり、俺の腕を軽くポンと叩いた。


「君の働きぶりは、私も見ている。中学からずっとやってきただけあって、動きがすごく良いし、安心して任せられる。生徒会長になるだけの能力は、十分あると思っているよ」

 

 驚いて、俺はぎくしゃくと礼の言葉を述べた。  

 それからのろのろと教員室を後にした。


 思いがけない褒め言葉に、胸の奥が熱い。気持ちはざわついたままだったけど、その熱が全身を温ためてくれた。



 生徒会室に行くまで、授業そっち除けで、俺は考え続けた。


 やりたくない。

 でも、もう立候補済みだ。


 この状況でグダグダ言うのは、格好が悪すぎないか?

 昼休みの、先生との間抜けな会話を思い出す。あれを先輩たちとリプレイしたら黒歴史になる。


 頭をかきむしって机に突っ伏した。


「田中君、どうしたの?」

 さっき立候補の掲示を教えてくれた、隣の席の真田が声を掛けてきた。


 俺はあらためてちゃんと彼女の顔を見た。ショートのおかっぱ頭、キュートな顔の中で、生き生きとした目がキラキラしている。


 その表情は、優しげでも心配げでもない。

「何やってんだ、こいつ」

 そういう顔だ。


 ということは信用できる、多分。

「あのさ、俺に生徒会長が務まると思う?」

 眉を寄せる真田。


「できるでしょ。今だって役員しているんだもの。それに中学でも生徒会長やってたじゃない」

 真田は同じ中学出身なのに、どういう勘違いだ?


「俺、やってないよ。サポート役員のまとめ役をしていただけだよ」


「あれ? 生徒会長だと思っていた。私の周りもそう言ってたけど」


 ……なんで?

「まさか影の生徒会長とかいうバカげた噂、信じていた?」


「だって皆そう思っていたよ。サポート役員の元締めとして色々と活動していたし、顎でこき使っている様子を見たし。凄く目立っていたもの」


 ……マジか!

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