第16話 CM撮影1
俺はもちろん断るだろうと思っていた。
ところが緒方先輩が乗り気になったのだ。
「へえ、面白そうだな。やるか」
それに対して、今井先輩は、
「おお」と一言。
井上先輩は、
「面白そう」とはしゃいでいる。
里見先輩は、
「めんどくさい」と一人膨れていた。
「ヒロシ、お前は?」
「俺はお呼びじゃないですよ。一人だけ半分影になっていたし」
緒方先輩が里見先輩に、どうなんだ、という視線を送った。
「五人全員よ。もう一人追加するかもとは言っていたけどね」
「どう思う。やるか?」
俺は脇役だろうけど、脇役も必要だろう。
そうポジティブに考えてみたら気が軽くなり、頷いた。
そして話はトントンと進んでいった。
この四人は面白ければ、何でもやってみる派らしい。驚くくらいに腰が軽い。
まあ、つまり何でも出来るからだな。
そして撮影に入る前の打ち合わせが行われた。
その場でもう一人の出演者が紹介された。
彼女は野口ゆり、17歳。
売り出し中のタレントで、グラビアアイドルとしてはかなりの売れっ子。俺も雑誌で見た事があるので興奮した。
生で見る彼女は光り輝いている。頬なんかピカピカだ。
それだと彼女を中心の構成かと思ったが、そうでもないらしい。
「気楽にね。一応のシナリオはあるけど、普段通りに過ごせばいいからね」
CMプランナーがにこやかに言った。
シナリオに目を通すと、草原で遊ぶ様子を撮るらしい。秋の放映予定のようで、衣装は少し厚着になっている。撮影場所は清里。
全員で一緒の様子と、二人で一組でのカップル編を取るらしい。
組み合わせは、緒方先輩と里見先輩、今井先輩と井上先輩、俺と野口さん。
納得できるような、できないような。
唯一のプロを俺と組ませていいのだろうか。
俺の力不足を補うためか、引き立て役としての抜擢か。
そう思っていたら、里見先輩の事務所の営業が、声を上げた。
「この組み合わせですが、里見は田中君との組み合わせもいい感じになるんです。緒方君と組み合わせると大人っぽくなりますが、田中君とはすごく自然でいい顔をしてくれるんですよ」
俺としても、里見先輩との方が気楽なのでありがたい。
だからその言葉に大きく頷いておいた。
そんな俺を見る皆の目が生暖かい。
「まあ、当日に様子を見ましょうか。組み合わせもいくつか変えて撮ってみますから、決定ではありません。では、衣装の打ち合わせに移りましょうか」
プロデューサーの言葉で、衣装の選定に移って行った。
そこからは、いつもスタジオでやっている事と同じなので、気楽に臨めた。
それにスタイリング初心者の今井先輩にアドバイスもできて、いつもの恩返しが、少しできた気分になった。
撮影日当日、スタイリストさんにこねくり回された後、広々とした草原に放置された。
服装は無造作に見える、手の込んだカジュアル。
普段の二割増しで格好がついている。
俺でそれだから、他の方々のクオリティは半端じゃない。どう見てもモデルや役者の集団だ。
小物として周辺には自転車や、ボール、フリスビーなどが置かれている。
フリスビーに興じる若者たちとか、ベタというか、マジか。
だからと言って、スマホを見詰めて己の世界に浸る若者たちでは、爽やかさはみじんも無いから、仕方が無いのかもしれない。
そんなことを斜めになって考えていた割に、フリスビーにはまった。
緒方先輩が自転車に乗ってフリスビーをキャッチするのが受けて、全員仕事を忘れて楽しんだ。
野口さんもすぐに溶け込んで、まるで以前からの仲良しのようだ。
こういうところがプロなのだろう。
休憩して木陰で休んだ時、緒方先輩がダンガリーシャツの胸元をはだけて、ハンカチで汗をぬぐうと、里見先輩がすかさずタオルを渡した。
その様子は、長年付き合っているカップルにしか見えない。
それにしても、緒方先輩の首筋から胸元、なんかドキッとするほど色っぽい。
このシーンは、そのまま使われそうだ。俺は邪魔にならないよう、そっとその場を離れた。
……色っぽいって何だろう。
きわどいところまで露出した女性の胸や、ぎりぎりまで短いスカートなんかは、わかりやすい色っぽさだ。もちろん俺だって思いっきり見る。凝視する。
そういうのと、なんか違うな。
それって何だろうと首を捻っていたら、野口さんがやって来て隣に座った。
「何をまじまじと見ているの?」
「あー、緒方先輩がカッコいいなって思って」
野口さんはじっと二人を見てから、こっちを向いた。
「あの二人、凄く魅力的ね。コマーシャルの一番の顔は彼らかしらね」
「さあ、でも思わず目が行っちゃいますよね」
もう一度、緒方先輩たちの方を見てから、 野口さんは、ふうっと息を吐く。
「それはね、華があるって言うの。生まれつきのもので、真似できないのよね。芸能活動をしている私なんか、喉から手が出るほど欲しいものよ」
「俺からしたら、野口さんの華やかさはまぶしいくらいです」
「お褒めにあずかりまして、恐縮です」
いたずらっぽく言った後、俺に清涼飲料水を一本渡してくれる。それから、少し 照れくさそうな笑顔を浮かべた。
自分の分のキャップを勢いよく外し、グッと飲んでから空を向いて目を細めた。
「ほおーっ」
声が漏れてしまった。
さすがグラビアアイドル。全てが絵になる。
これを俺一人が、こんなかぶりつきで見ていいのだろうか。とにかく、眼福。
俺がポケッと彼女を見つめていると、なんだか強い視線を感じた。
そちらを振り向くと里見先輩と目が合った。こちらを睨んでいる。その横で井上先輩も睨んでいる。
鏡を見なくてもわかる。今の俺の顔は、間抜けな、でれでれ顔だ。
「チョロシ君、こっちおいで」
井上先輩のかわいらしい声が響いた。
はっきり言って怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます