BL

「言ってくんなきゃ分かんねえよ! 俺、そんな器用じゃねえから……だからちゃんと、言えよ、言え! お前が好きだって言えよヘタレ! 世界中の愛の言葉は全部俺の為にあるんだって思えるくらい、そんくらい言え! 俺はお前が好きだ、馬鹿野郎!」


「皆様に首を刎ねられること覚悟で申しますが、小生は殿下と人生の伴侶になりとうございます」


「たとえこの恋が許されざるものだとしても、貴方と歩みたいと思った全てを捨てる気には到底なれませぬ」


「……好きじゃない。好きじゃないさ。あいつのことなんて。……あ〜もう、好きじゃないのに。好きじゃない筈なのに! じゃあなんでこんな気持ちになるんだよ〜!」


「今日部屋行ったらイヤ、ッスか……?」


 その細く長く美しい指が僕の身体を伝う度、あなたに一つ、恋をした。


 なんとなくあいつが好きだった。そんな時だった。流されて、僕はあいつにそれを許した。あいつは知ってた。僕が押しに弱いのも、耐性が低いのも。

 手綱を握られてたのは分かってた。けど、妖艶な彼の魅力に抗うことなんてできなかった。


 ふぁさ、と音を立て帯が落ちた時「ああ、ついに私はこの人の中を暴くのだ」と胸が高鳴った。


 頭髪の乱れ、服装の乱れ、刀の乱れ、感情の乱れ……その一切を許さない自分に厳しい彼は今、乱れている。俺の手で、俺の腕の中で。

 几帳面で真面目な性格で、彼の周りはいつも凪のように大人しかった。そんな彼のこんな顔を見れるのは、後にも先にもきっと俺だけなんだと思うと嬉しくなる。誰にも見せたくない、渡したくない。そんな風に思ってしまうくらい魅力的で。独占したい。


 私が彼を抱きしめると、それに応えるように彼が声を洩らす。いつもは憎たらしく思えるその口が、何故なのだろう……今日は不思議と愛らしく思えた。


〈貴方の記憶は消えないで〉

 目まぐるしく移り変わる世界で、過去の記憶は一つ二つと消えてゆく。それでもただ一つだけ、消えぬ過去がございます。あの日あの夜、貴方はどうして拙者を抱いたのですか。

 雨を凌ぐ為に入った洞穴ほらあなで、私達は火を焚いて温まった。特に身を寄せ合うこともなく、このまま夜が明けるのだと思っていた。そんな時、不意に近付いてきた貴方が触れるから……。

 初め抵抗しようとしたけれど、受け入れた。肌の温もりが恋しかったのだろうか。それとも貴方が欲しかったのだろうか。それとも……何だったのだろう。貴方も、自分の身体も……全てが熱く、馬鹿みたいに求め合った。

 ――あの日のことが、いつまでも忘れられない。貴方はもういないと分かっておりながら、こんなことを時折考えては胸が寂しくなるのです。ああ、貴方に会いたい。千歳ちとせを生きたとて、もう出会えはしない貴方に。白の神子だったとか、そんなことはどうでもいいんです。ただ一度。もう一度だけ。触れられずとも、見つめるだけでいい。貴方は確かに居たのだと、思い出させてくれるだけで、それだけでいいんです……。


 こんなこと、面と向かってはとても言えない。とても言えないけど……とても抱きたい……。

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