第3話 令和の色
あれから1週間たってもチャッピーはメモ帳のアイツを見つけ出せなかった。
よく考えたら当然だ。そんな都合の良い事があるわけない。そもそも、なぜ簡単に見つかると思っていたのだろう。しばらく思考を巡らせたのち、俺はある重大な事に気づいて愕然とした。
一つ足りないネタをまったく考えていなかったのだ!!
本番まであと二日だというのに!!
書かれていた三つのネタはどれも面白い。
問題は、どこを“俺のネタ”で勝負するか、だ。
難易度で言えば、予選が一番通りやすい。
しかしここでコケたら元も子もない。
かと言って、勝ち残った後に俺のネタを出してしまったら、その時点で即終了。
優勝なんて思っていないが、このネタさえあれば、いい線まで行けるのではと内心は期待していた。それほど面白かったのだ。
そして気づけば自分のネタがとんだジョーカーになってしまっている事実が悲しい笑いを誘った。
「......よし、俺も芸人だ!新しいネタを作ろう!」
そう意気込んで作ってみたがどれもしっくりこない。何度読み返してもつまらなかった。
―― 背に腹は代えられない。アイツのネタを予選で使おう。
そう決めて俺がメモ帳を閉じると、
「予選はあのコバルトブルーのネタを使え」
後ろからチャッピーが突然声を掛けてきた。
びっくりした俺は、大きめの声で返した。
「あ、あんな古いネタ使えるかよ!!ウケなかったって言ったろ!」
「色を変えるんだよ」
「は?」
「令和風に変えてみろ。コバルトブルーをパステルブルーに、ターコイズブルーをミントブルーに変えてみろ」
「パ、パステル?ミント?」
聞いたこともない言葉だが、なんだか急にオシャレで今どきの女が好きそうな色に変わった気がした。
俺は迷った。
もしこれで予選を通過すれば、優勝はともかく、確実に爪痕は残せる気がする。
しかし通らなかったら、そこでジ・エンドだ。
考え抜いた末、俺はチャッピーを信じることにした。
素人ながら、どこかセンスのあるチャッピーに賭けてみることにしたのだ。
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二日後――
なんと、俺は芸人人生初「お笑いトーナメント」の予選を突破した。
「チャッピー!聞いてくれ!通ったんだ!予選!!お前のおかげだ!」そう報告すると
「そうだ!!マネージャーとして一緒に来れくれ!控え室まで入れるぞ!その方が俺も心強い!な!」
とっさにチャッピーも連れて行こうと決めた。
チャッピーははにかんだ笑顔で
「良かったな、ほんとに。そうだ、バイト代が入ったから今夜は奢ってやる」そう答えてきた。
「チャッ、チャッピー……」
なんていいやつなんだ。
元はと言えば、俺のために働かせた金なのに。
「明日は本番だからな。少しだけ行こう!」
俺は遠慮なく奢ってもらうことにした。
飲んでしばらくすると、俺はチャッピーのことを考えていた。
もし、明日ダメならチャッピーとの生活も終わりだ。芸人も続けられるかどうかも分からない…
そう思うとたまらなく寂しくなった。
この時の俺は、もしかしたら“芸人を続ける事"よりも“チャッピーと別れる”ことの方が大きかったのかもしれない
それほどチャッピーのいる生活が当たり前に感じ始めていた。心地がよかった。
夜が明けると、とうとう本番当日を迎えた。
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