渋谷スクランブルX

鹿子畑 佑

プロローグ:白き雷光



 ──宇宙に雷鳴が轟く。


 闇を切り裂く一閃。遠い星々の光がかすかに震える。

 巨大な龍が咆哮を上げた。長い首に、わずかに太い胴、長大な尾。

 龍の全身は白く、光り輝いていた。神話から抜け出たような存在は、すべての生物を超越する。

 龍の首は長く、頭は小さい。小さいといっても、宇宙艦艇を丸ごと飲み込むほどだ。

 体を覆う鱗には、そのすべてに複雑な紋様が浮かび、遺物のように見える。

 宇宙空間にひらひらと、分厚い背びれのような天うねがなびく。その動きが龍の巨体を一層大きく見せていた。

 そんな星の如く巨大な龍と、ひとりの人間が戦っていた。


 真っ白なスーツに身を包み、ヘルメットもまた、白。

 たったひとり、槍を携え龍に挑んでいた。

 人間──白い狩人は槍に雷を纏わせ、龍へと突進する。槍が閃き、龍の胴を裂き、首を穿つ。その軌道に容赦はなく、無駄もない。龍は身を悶えさせ、苦痛によって唸り猛った。龍の体から黄金色の血が噴き出し、無重力の宙で玉となって浮遊した。

 龍の頭は狩人を捉えようとぐるりと動き、天うねがぶわりと広がる。龍にとっては小さな点に等しい者を捕捉しようと動く龍は、その巨体を感じさせないほど素早く、鋭い。

 それでもなお、狩人は即座に軌道を変え、龍の口へと突撃する。再び、雷が迸る。雷鳴が轟く。


 「〈雷光〉──、一閃」

 激しい稲光と共に、龍の頭部は貫かれた。たったひとりの人間を前に、龍は沈黙した。

『一等星:カラグィ沈黙! 討伐を確認!』

 ヘルメット内に音声が響いた。人間から千キロメートルほど離れた場所に、宇宙艦艇が留まっていた。

『──お見事。これで九体目の一等星の討伐ですか』

「ああ。大台が見えてきたよ」

 突如、大音量でアラートが鳴り響いた。ヘルメット内が真っ赤に染まり、警告の文字が大きく表示された。

「なんだ? 龍はもう──」

『──龍が、三光年先に、イヅーカムが! 新星:イヅーカムが出現しました!』

「イヅーカム? なんでそんな大物が……?」

 遥か遠い宙域に散る星々が、ぐにゃりと捻じ曲がった。現れた光源は一点。どの星よりも眩く、強烈な光。


『イヅーカムより、エネルギーの収束を確認! 光源が一点、恐らく、〈槍〉の一撃です!』

『ブリッジからも確認。狙いは……なぜ、星を狙わない?』

 龍は人類を脅かす存在だった。人間を喰い、文明を破壊し、星を飲み込む。

 その存在の中でも頂点に立つような存在が、星ではなく、たったひとりの人間に狙いを定めていた。

『まずいですね。戦闘を終了してください。今すぐ宙域を離脱して──』

「艦はそうしろ。私は残る」

『何を……相手は新星の龍です! あなたほどの人でも、ひとりで戦って勝てる相手ではありません!』


「目の前に龍がいる。それなら、戦う他の道はない──それが〈龍狩り〉の仕事だ」

 狩人は、巨大な龍の亡骸を背後に、遠くに輝く一点の光を見つめた。

 龍は白く、光り輝く。その光はどれほど離れていても分かる導きのような星だった。

『イヅーカム、槍を射出! 結界術師は艦全体に結界を! 全クルー、対ショック体勢!』

 眩い光芒が漆黒の宇宙を貫いた。

 一瞬の輝き。きらきらと輝く、その軌跡。闇の中で煌めきだけが宙を駆け抜けていった。


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