第19話 貧民街の闇〈後編〉②
詰所に到着すると空気がいつもとは違い、ピリピリと張り詰めていた。
出迎えてくれた官憲もいつもの制服ではなく、金属鎧に身を包み、巨大な両手武器を背負っている。
その目は鋭く、まるで歴戦の戦士のような気迫を感じさせる。
「……ついに、連中を叩きのめす日が来たようだ」
「……みーちゃん達より強いかもしれないぴょん」
官憲をじっと見ていたみるふぃーちゃんがこっそりと一行に呟き、全員が改めて官憲をまじまじと見る。
「どうしたんだ、そんなにじろじろ見て。意外だったか? そうか、冒険者なら味方の戦力を知ることも大事だな」
ダレットたちの不躾な視線に気付きつつも、官憲は気を悪くすることもなく1人で納得している。
官憲が〈通話のピアス〉を差し出してきたので、ダレットが受け取る。
「レオナルドは今、混乱の中で指揮を取っている。奴が倒れればギャングは崩壊するだろう。正門は俺たちが引き付けるから、君たちは裏門から潜入して奇襲をかけてほしい。奇襲が成功すれば奴を倒すのは難しくないはずだ」
作戦を淡々と説明していく官憲を見て、アリアドネが目を丸くしながら小声で呟く。
「……官憲さん、もしかしたら元冒険者? かっこいいかも」
「アリアドネちゃんはああいうタイプが好きなのかしら!? 後で詳しく聞かせてほしいわ!」
それを耳ざとく聞きつけたアーシェラが反応し、場違いな恋バナの約束が取り付けられた。
「ところで、俺たちはクリスティーヌを連れてこれなかったんだが、どうやって進展させたんだ?」
「ああ、そのクリスティーヌが自らここへやって来てな。必要な情報を証言したんだよ」
「そうなのか」
クリスティーヌにどんな心境の変化があったのかは分からないが、ギャングと手を切る決意をしたようだった。
「まず彼女の証言で、貧民街の廃墟にあるギャング組織の内部事情が判明した。なんでもトップであるリカルドは急病で姿を消しているそうだ。そのためレオナルドが代理を務めているが、新体制への移行で組織は混乱の最中にあるそうだ。つまり、今がチャンスということだ」
「なるほどな。その廃墟にある本部を制圧するってわけだな」
「そうだ。本部の正門は24時間体制で見張りが立っている。さっきも言った通り、そちらは我々が引き受けるから、君たちは裏門に忍び込んで奇襲をかけてほしい」
ダレットが一行を見ると、みんな頷く。
「わかった。作戦の詳細を教えてくれ」
「ああ。さっき渡した〈通話のピアス〉で突撃の合図をするから無くさないでくれよ。あと、終わったら返してくれ」
「わかった」
「作戦の実行は明日未明だ。我々治安維持隊は正門付近で待機し、君たちは裏門付近に潜伏をしておく。我々が陽動で正門から攻撃を仕掛けるから、その隙に君たちが裏門を解錠して内部へ潜入するんだ。そしてそのまま幹部の部屋に突入し、拘束してほしい。なにか質問はあるか?」
「クリスティーヌさんは、今はどこにいるのかしら?」
「彼女は神殿に戻ったよ」
「そうなのね」
アーシェラ以外に質問はないようだったので、一行は詰所を出た。
「まだ日没まで時間があるよね? 神殿へ行こうよ」
アリアドネがアーシェラの気持ちを代弁するように提案した。
まだ昼下がりで、今から神殿に行っても日没までに詰所に戻れそうだ。仮眠を取った後、作戦に参加することになるだろう。
「私たちはレオナルドと戦うことになるんでしょ? クリスティーヌに色々と聞くのは気が引けるけど、可能な限り情報は集めた方がいいと思う!」
そう言われると反対する理由はなくなる。一行は神殿へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます