第18話 貧民街の闇〈後編〉①

 全滅からの依頼失敗という屈辱から数日。

 今日もダレットは冒険者ギルド〈銀の錨〉に向かっていた。

 失った信頼は積み重ね直すことでしか挽回できない。もちろん、やり直す機会が与えられればの話だが……。


(なんか依頼があるといいんだけどな)


 ギルド前の広場に差し掛かると、またしても見慣れた3人組が……いや、2人と球体がいた。

 よく見ると、球体に見えたのは着膨れに着膨れたみるふぃーちゃんであった。

 もこもこの防寒着を世界記録にでも挑戦する勢いで重ね着しており、まるで毛玉のようになっているのだ。


(いや、あれでよくここまで歩いてきたな。転がされて来たのか?)


 当然ながら着せたのはアーシェラであり、「かわいいわ!」を連発しながら毛玉みるふぃーちゃんをもふり倒している。

 クレインはその横でいつも通り頭を抱えている。


(あれで冒険に行く気か? 無理だろ……)


 ダレットが重い足を引き摺りながら2人と毛玉に近づいていくと……。


「く、苦しいぴょん……」


 毛玉が、いや、みるふぃーちゃんが転がるように倒れた。


「きゃーーー!! みーちゃん、どうしたの!?」


 アーシェラが悲鳴を上げ、通行人が立ち止まる。


(どうしたもこうしたも、着せ過ぎなだけだ!)


「嬢ちゃん、うさころの服を脱がしてやれ」

「こんな人前でなんてこと言うのかしら!?」


「はぁっ!? そういう意味じゃねぇよ! 着せ過ぎだから減らしてやれって言ってんだよ!」

「ダレットさんにそんな趣味があったなんて!」


「違うって言ってんだろ!?」

「……お花畑が見えるぴょん」


 そこにさらに、お馴染みのリボンエルフがやって来て更なる混乱を巻き起こす。


「みんな聞いて! ついにギャング組織の本部に突入するみたいだよ!」

「いや、ちょっと待ってくれ!」


「幹部のレオナルドを逮捕するんだって。報酬は1人あたり1500Gだよ。生け捕りにすれば、追加で500Gだよ」

「だからちょっと待ってくれって!!!!」


 ダレットの悲痛な叫びが辺りに響いた。


───────────────────────────────────


 それから1時間ほど経った頃。


 着膨れたみるふぃーちゃんはアーシェラと手を繋いでご機嫌で歩いている。

 その後ろにはアリアドネ。

 なぜか既に疲れ切ったダレットとクレインが、最後尾をのそのそとついていく。


 あの後、たまたまギルドに入るところだった女性冒険者が見かねてみるふぃーちゃんの防寒着を脱がせたため、事なきを得たのだ。

 みるふぃーちゃんが落ち着いてから5人はギルドへ入り、ギルドマスターであるアルノーから詳しい話を聞いた。


「俺たちは前回の依頼を失敗しているんだぞ。回してくれるのはありがたいが、いいのか?」

「悩むところではあったが、やはりこれまでの経緯を知っている方がいいと思ってな。次は失敗するなよ」

「当たり前だ」


 ダレットたちはアルノーの好意に感謝して、依頼を受けることにした。

 内容はアリアドネが言っていた通り、ギャングの幹部であるレオナルドの捕縛だ。


 アーシェラはほんの少し曇った表情を見せたが、その後は普段通りだった。

 そしてすぐに出発し、貧民街にある治安維持隊の詰所へ向かっているのだ。

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