第三章 4
その週の土曜日、劉はいつものように地下の防音室に行くと、手下の者を遠ざけて部屋に籠もった。なかには誰も入れず、彼一人だ。
そして専用の電話を取り出すと、国際電話をかける。
彼女とは、週に一度しか話せない。貴重な時間だ。だから、劉は土曜日を心待ちにしている。誰も知らない、二人の逢瀬。
数度の呼び出し音ののち、彼女は電話に出た。
「もしもし、李花かい。兄さんだ」
『ごきげんよう、こっちはいい天気だぜ』
電話に出たのが彼女ではなく、まったく知らない男の声であったので、劉の声がにわかに緊張を帯びた。彼は前のめりになり、男に尋ねた。
「もしもし、お前は誰だ。李花はどこだ」
『李花ちゃんは俺の横にいるぜ。劉さんよ』
「誰だ。名を名乗れ」
『俺はあんたが一億の賞金をかけた首の持ち主さ』
劉はぎりぎりと歯噛みした。
「柳泉≪りゅうせん≫か」
『しゃれた名前で呼んでくれてどうも。早速だが、取引がしたい』
「なんだ」
『俺にかけた賞金を取り下げろ』
「それだけか」
『今のところはな。だがなにかおかしなことを考えれば、俺の刀がかわいい李花ちゃんの首を刎ねる』
「……」
『返事を聞かせてもらおうか』
劉は携帯を取り出して、手下の短縮番号を呼び出した。
「私だ。柳泉の賞金を取り下げろ。今すぐにだ。つべこべ言うな。……そうだ。ああ」
手下との会話が終わると、劉は泉との電話に戻った。
「これでいいか」
『上出来だ』
「これでお前が李花の命を保証するという保証がない」
『俺は誰かさんみたいな冷血漢じゃない。卑怯者でもない。余計な殺しはしないよ』
電話が切れた。
「くそっ」
劉は受話器を叩きつけた。そしてすぐに思い直して、香港の信用している人物に知らせて李花の住まいを移させるよう手配した。ひとに知られたのなら、もうあそこに住まわせるべきではない。警備も、つけなければ。目立ってはいけないと手薄にしたのが却って裏目に出た。
忌々しい殺し屋めが。私を本気で怒らせたな。
劉は立ち上がると、防音室を出た。
頭のなかは泉をどうしてくれるか、彼の始末をどうしようか、そのことでいっぱいだった。
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