おもちゃ職人の俺が異世界で偉業を成す!
走り書き次郎
第1話
【第一巻 プロローグ+第1話 試し読み版】
タイトル:『ゼンマイ一つで異世界を回す ~おもちゃ職人のカラクリ無双~』
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プロローグ 知らない天井
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
白い天井じゃない。石の天井だ。
しかも、薄暗くて苔むしてる。
ベッドも布団もない。硬い板の上に寝かされていた。
「……マジかよ」
俺、佐藤悠真、三十二歳。
日本の玩具メーカーで働く、ただの残業戦士だ。
昨日、いや、もう何日前かわからないけど、
終電を逃してタクシー代をケチって歩いてたら……トラックが来た。
で、気がついたらここ。
異世界転生。
ラノベで読み飽きたテンプレそのまんまだ。
とりあえず体を起こす。
手足はちゃんと動く。痛みもない。
服は見慣れない麻のチュニックに着替えさせられていた。
部屋の隅に置かれた木の椅子。
その上に、小さな布袋と水差し。
袋を開けると、中には硬パンと干し肉。
そして、一枚の紙切れ。
文字は読める。日本語じゃないけど、なぜか頭に直接意味が入ってくる。
『ようこそ、転生者よ。
お前には特別なスキルは与えなかった。
なぜなら、お前が持っている“それ”だけで十分だからだ。
楽しんでくれ』
署名はない。神様の悪戯ってやつか。
俺はため息をついた。
「……スキルゼロって、最低じゃねえか」
でも、すぐに気づいた。
俺が持ってる“それ”って、一体なんだ?
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第1話 ゼンマイは世界を変える
転生してから三日目。
俺は小さな村の宿屋で、ようやく落ち着いて自分の状況を整理していた。
この世界の名前は「アステルリア大陸」。
魔法はある。冒険者ギルドもある。
でも、時計がない。
正確な時計が、まるでない。
村の広場には日時計があるけど、曇ったら終わり。
教会の鐘は一日に六回しか鳴らない。
商人たちは砂時計をひっくり返しながら「だいたいこのくらい」とか言ってる。
……不便すぎるだろ。
俺は宿屋の二階、六畳一間の部屋で独り言を呟いた。
「だったら、作るしかないよな」
俺が昔、会社の開発部でやってたこと。
ゼンマイ仕掛けのおもちゃ。
特に得意だったのは、小さな機械式時計。
子供向けの安物だけど、誤差は一日十秒以内。
それが俺の“それ”だったらしい。
材料は……ある。
宿の下が鍛冶屋で、親父が暇さえあれば鉄くずをくれる。
木は裏山にいくらでもある。
真鍮板は、昨日拾った古いランプを溶かして再利用した。
そして今日。
俺は三日徹夜して、完成させた。
手のひらに乗るサイズの機械式懐中時計。
文字盤は貝殻を削って作った。
針は鳥の羽根の軸。
ゼンマイは……宿の娘が捨てた古いコルセットの鯨骨を熱して曲げて作った。
カチ、カチ、カチ。
初めて聞いた、この世界で鳴る“正確な音”。
俺は震えた。
これは、俺にしか作れない音だ。
試しに、宿の下に降りて、鍛冶屋の親父に見せた。
「おい親父、これ見てくれ」
「なんだ、変な金属の塊か?」
蓋を開ける。
チクタク、チクタク。
親父の目が点になった。
「こ、これは……時を刻む音じゃねえか!?」
「そうだよ。正確な時計だ」
「ど、どうやって作った!? 魔術か!?」
「違う。ゼンマイだ」
俺はにやりと笑った。
「これ、売れると思う?」
親父は一瞬考え、それから大声で叫んだ。
「売れるどころじゃねえ!!
村中の奴が欲しがる!!
いや、王都の貴族だって欲しがるぞ!!」
その瞬間、俺は確信した。
この世界は、まだ始まったばかりだ。
俺の手の中の小さなゼンマイが、
やがてこの世界を、全部回し始める。
「よし、決めた」
俺は空を見上げた。
「俺は、おもちゃ職人として生きていく。
そして、この世界に“正確な時間”を、全部ばらまいてやる」
チクタク、チクタク。
ゼンマイが回り始めた。
俺の物語は、今、ここから始まる。
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