お菓子の国の無秩序【創作短編小説】

くす太【短編小説作ってます】

お菓子の国の無秩序【創作短編小説】

ある日、この世界のモノがすべてお菓子になってしまいました。


町も、森も、大地さえ…おいしいお菓子になってしまったのです。

見た目はみんな変わらないから街並みはそのまま。建物が急にへにゃへにゃで崩れてしまうことはありません。硬いものは硬いままで、スマホも機械もちゃんとそのまま動きます。モノの性質はそのままだけど、味覚だけが変わった…そんな奇妙な変化でした。

なんでも齧れば甘い味が口いっぱいに広がり、舐めれば甘い香りをまき散らし溶け出す。夢のようなあまーい世界になってしまいました。


世界の変化に、始めはみんな歓喜しました。

ご飯に悩む必要がなくなったのです。

ある砂漠の国の人々は、土壌が痩せていて今日のごはんを探すのも一苦労でしたが、その砂すら食べられるようになりました。さらさらであまーい、砂糖のカーペッド。こぞって皆、地面を舐めるようになりました。

「甘くて、おいしい!こんな幸せな味、初めてだよ!」


ゴミで溢れていた街は、山盛りお菓子の町に大変身!

人々はがじがじ、ペロペロと次々に食べ尽くしていきます。この世界にもはやゴミなんてありません。ゴミ山のスイーツパラダイスは、あっさりと人々の口の中に消えていきました。

「もっともっと食べたい!もっとゴミをもってきてくれ!」


希望に満ち溢れていた世界は、飴玉のように少しずつ溶けていきます。

始めに苦い思いをしたのはシェフたちでした。あらゆるレストランが閉店になってしまったのです。

カレーも、パスタも、ステーキも…みんなあまーいお菓子になってしまいます。いくら高級なお店に行ってお金を払っても、お皿をかじって味わう甘さと大差ないのです。もはやみんな、甘さ以外の味を忘れてしまいました。

「俺が好きなのは、こんな味じゃないのに…もう、甘ったるい味しか思い出せない…」


やがて街はあらゆるものに歯形や舐め跡がたくさんついていきます。

見渡す限りの街並みは、かじりかけのウエハースのようにボロボロです。誰もが一口ずつ、世界をかじって生きていました。

車も、建物も、道路すらもお菓子なのです。常に目の前にお菓子をぶら下げられている世界では、我慢なんてそう簡単ではありません。

街は日に日にボロボロになりました。りっぱな高層ビルも、溶けかけのチョコレートのように歪んでしまっています。

「どんどん世界が歪んでいく…。んむっ…でもお菓子食べるの、やめられない…。」


抗いがたい甘味の誘惑に苛まれたのは人間だけではありません。

動物たちもお菓子の世界に舌鼓を打っていました。

何を食べても困らない動物たちは遠慮なく色んなものに口を出しました。鉄道や水道は犬やアリに齧られ、電線はトリにつつかれます。もはやその役割は失われていました。人間の食欲が届かない場所にも、あらゆる生物の食欲が押し寄せ、生活のライフラインが崩壊していきました。世界はまるでスポンジケーキ。穴だらけで、簡単に沈んでいきます。

「電気も止まっちゃった…。あは、あははっ。お菓子は、あるから、いっかぁ!」


街の様子はどんどん苦くなっていきます。

秩序を保っていた街でも、犯罪者がどんどん増えていきました。

お金を守る金庫も、悪人を捉えておく檻や手錠も、今となってはサクッと砕けるお菓子です。

金庫は食いしん坊が一人いれば容易く砕け、刑務所はもはやおやつだらけの軽食場。街中に犯罪者があふれ、どんどん治安が悪くなっていきます。

「やりたいことなんでもやり放題だなぁ!最高のお菓子パーティだぜぇ!」


夢のようなお菓子の世界は、人体そのものも甘さで溶かしていきました。

まっとうに生きていた人も、そうでない人も、皆病気にかかりました。糖尿病です。お菓子だけの世界ではどうやっても治すことのできない不治のとして人々を苦しめました。

また、それと同じように虫歯も流行しました。歯ブラシすらも砂糖の塊の世界では、歯の健康を保つことなど不可能です。糖尿病も虫歯も不治の病となり、あらゆる人を死に至らしめました。

「痛い!痛いっ!甘いお菓子、食べたいのにっ!食べて、全部…忘れたいのにっ!」


ふんわりあま~い夢は、もう絶望そのものでした。

どんどん人が亡くなってしまいました。亡くなった人は、やがてこんがりと焼かれて煙を街にまき散らしました。生き残っている人々も皆、正気を失ってしまっていました。荒れ果てた街で人々は甘味を求めます。全てを忘れるために。

「あぁ…いい匂いの煙だなぁ!焼き菓子の匂いかぁ!?へへへっ!」


甘い甘い、おかしの世界。

人々の欲望があふれ出した、おかしくなった世界。

甘い匂いに包まれて、世界はとろけて崩れ落ちていきました。

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