幼馴染たちに裏切られた勇者がサクッと無自覚ざまぁするだけの話

茶電子素

最終話

魔王を倒して帰還した俺を待っていたのは、

凱旋の歓声でも王からの褒美でもなく、

幼馴染たちの冷たい別れの言葉だった。


「ごめんね、私……王子様と婚約することになったの」


「私も。公爵家から求婚されて……」


「研究を続けるには、侯爵家の後ろ盾が必要で」


「私は射撃大会で目にとまったらしくて、侯爵家に嫁ぐことに……」


聖女、女聖騎士、女賢者、女聖弓士。

魔王討伐の旅を共にした仲間であり、

幼馴染であり、

結婚の約束まで交わした彼女たちが、

揃いも揃って俺に別れを告げてきた。


俺は必死に引き留めた。


「やめたほうがいい。俺と離れると、常時発動していたバフが切れて能力も職業も美貌も劣化してしまうよ」


だが彼女たちは鼻で笑った。


「そんなわけないでしょ。別れたくないからってキモ」


そして、さらに追い打ちをかけるように

嘲笑交じりの言葉を次々と浴びせてきた。


「それに私たち、もう妊娠してるの。王族や貴族の子をね」


「あなたとは清い関係だったけど……まあ、それはそれで思い出かな」


「勇者としてはそれなりだったけど、男としての魅力は……正直、薄かったよね」


「顔も地味だし、戦い以外は退屈だったし」


笑いながら、彼女たちはドレスの裾を翻し、

俺を置き去りにして去っていった。


……その瞬間、俺の中で何かが弾けた。


彼女たちに与えていたバフが切れた反動で、

俺自身の能力が跳ね上がったのだ。

筋力は倍増、魔力は桁違い、

そして鏡に映った俺の顔は――中性的な超絶美男子。


「……え、誰?」


思わず自分に問いかけた。




翌日。

街を歩けば、通行人が振り返る。

商人の娘が赤面して手を振り、

兵士が敬礼し、

犬まで尻尾を振って寄ってくる。


「勇者様、サインください!」


「勇者様、握手を!」


「勇者様、結婚してください!」


昨日まで「普通過ぎる勇者」と呼ばれていた俺が、

一夜にして「国宝級イケメン勇者」に変貌したのだ。


そして、やはり危惧していた通り、

彼女たちのバフ切れは本当に発動していた。


聖女は治癒魔法の途中で魔力が切れ、

女聖騎士は力不足で大剣を振ることすら出来なくなり、

女賢者は呪文を唱えても魔法が発動せず、

女聖弓士は矢を放てば狙いとは逆方向に飛んでいく。


そして何より――彼女たちの美貌が、見るも無惨に劣化していた。


聖女の肌はくすみ、笑顔はどこかぎこちない。

女聖騎士の凛々しさは消え、ただの筋肉質な女に。

女賢者の知的な輝きは曇り、眼鏡の奥の目は淀んでいる。

女聖弓士のしなやかさは失われ、矢を持つ手だけが妙にごつい。


「……あれ? なんか顔がむくんでる」


「いや、ちょっと待って。私、こんなに普通だったっけ?」


「魔法陣が……歪んで出るんだけど」


「矢が……矢が私に刺さるんだけど!」


王族や貴族との婚約披露宴で、彼女たちは次々と失態をさらした。

しかも、絶世の美女として迎えられたはずが、

披露宴の最中に「中の下」へと変貌していく様子を目撃され、

会場はざわめきに包まれた。


「……あれ、思ったより普通じゃない?」


「いや、昨日まで絶世の美女って聞いてたんだけど」


「勇者と一緒にいたときだけ輝いて見えたのか?」




その頃の俺は、王城の謁見室に呼び出されていた。


「勇者よ。魔王を倒した功績に加え、その美貌……いや、存在そのものが国の宝だ。ぜひ王女と結婚してくれ」


「え、俺ですか?」


「そうだ。王女はずっと前からお前に夢中だ」


振り返れば、王女が頬を染めていた。


「勇者様……ずっと、あなたのことしか考えられなくて……」


いや、たしかにこの人だけは昔から熱烈なファンレターをくれてたけど……。




そんな噂は瞬く間に広がり、各国から縁談が殺到した。

隣国の女王、砂漠の踊り子、海の国の人魚姫まで。


「勇者様、私と結婚を!」


「勇者様、私の国に!」


「勇者様、私の海底宮殿へ!」


俺はただの勇者だったはずなのに、

気づけば「世界的イケメン勇者」として外交カードにされていた。




一方、幼馴染たちは焦っていた。


「ねえ、やっぱり勇者がいないとダメみたい……」


「婚約破棄されそう……」


「研究室から追い出されそう……」


「矢が刺さりすぎて、もう立てない……」


そして何より、鏡を見て絶望した。


「……私たち、もう絶世の美女じゃないよね」


「中の下……いや、下の上くらい?」


「勇者の言ってたことって本当だったのね」


「あの奥手な勇者なら、まだ間に合うかも」


彼女たちは俺のもとへ戻ってきて言った。


「勇者……やっぱり一緒にいてほしい」


俺は少し考えた。


「いや、俺君たちとの別れの悲しさを乗り越えたばっかだし、今さら無理というか」


「そんな……!」


泣き崩れる彼女たちを横目に、俺は王女に手を取られて城の奥へと歩いていった。




その後、彼女たちは「元勇者パーティー」として

酒場で愚痴をこぼす日々を送ることになった。


「なんであんなに美人だったんだろうね」


「勇者の美貌を分けてもらってたのかな」


「でももう戻れないんだよね」


「勇者、超絶美男子になって王女と婚約しちゃったし」


酒場の客が笑う。


「勇者を捨てて自滅した女たちか。ざまぁ」


彼女たちは顔を赤くして黙り込んだ。




俺はというと、王女との結婚式で世界中から祝福されていた。


「勇者様、万歳!」


「勇者様、麗しい!」


「勇者様、抱いて!」


……いや、最後の野太い声はちょっと違うだろ。


だが、俺の人生は確かに変わった。

魔王を倒した勇者から、世界を魅了する超絶美形勇者へ。

そして俺は思う。


――別れを切り出してくれてありがとう。

君たちの幸せも陰ながら祈っているよ――と。

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幼馴染たちに裏切られた勇者がサクッと無自覚ざまぁするだけの話 茶電子素 @unitarte

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