19.神と人
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時間切れです
ルシアンにターンが移ります
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オズワルドの内面が神に近づいてゆく。
思考が高速化し、時は極限まで遅くなった。
神は考える。
オズワルドは誤解していたが【メテオレイン】は発動即着弾するような魔法ではない。
もし、即着弾する魔法だったならオズワルドのターンが終わった時点で全滅している。
神は知っていた。
ターン制RPGマルクト戦記ではすばやさの順にターンが回る。
ルシアンがオズワルドより早く動けたのはルシアンの方がすばやかったからだ。
そして、今回ルシアンが何度も攻撃したように、すばやさ次第では相手のターンが来るよりも前に複数行動することも可能だ。
マルクト戦記は確かにターン制RPGだが、その中でもアクティブターン制と呼ばれるRPGなのだ。
マルクト戦記では攻撃にもそれぞれすばやさが設定されている。
人間が走る速度より、放たれた弾丸の方が早いのは道理だからだ。
【メテオレイン】のような超火力大規模攻撃魔法のすばやさは発動者であるオズワルドのすばやさの二分の一を参照する。
故にルシアンは【メテオレイン】着弾前に行動できるだろう。
では、ルシアンが何らかの行動をし、オズワルドにターンが渡った場合、【メテオレイン】とオズワルドどちらが早く動けるのか……。
答えは同時である。
【メテオレイン】は発動から1ターン後に着弾する。
同時行動時にすばやさを無視して先行展開する【ライトニングシールド】を選択すれば、【メテオレイン】を【ライトニングシールド】で防御することもシステム上可能だ。
世界の理も開発者である神ならば、たやすく把握出来る。
同時に限界にも気づいた。
ルシアンの攻撃が攻撃が命中した場合、オズワルドのすばやさにはマイナス補正がかかる。
その時点でオズワルドのすばやさは【メテオレイン】を下回り、【ライトニングシールド】は間に合わなくなるだろう。
なぜそんなことになっているのか。
敵味方関係なく攻撃する超範囲攻撃【メテオレイン】。
これを発動した魔法使いを仲間全員で守り、1ターン後の着弾前に味方だけを【ライトニングシールド】で守る。
結果、【メテオレイン】のダメージを受けるのは敵だけ。
そのように運用してもらうために神が設計したからだ。
だが、ここに守ってくれる仲間はいない。
ルシアンに何もしないを選択させ、最短でターンを渡させる方法はすぐに思い付いた。
しかし、それはルシアンが言うことを聞いてくれればという条件付きだ。
ルシアンが神の命令に一切の疑問を持たず、神を攻撃せず、ただ従ってくれさえすれば、容易く【メテオレイン】を止めることができるだろう。
神は歯がゆかった。
神はルシアンより多くを知り、多くのことができ、多くを作れる。
力の差は歴然だ。
なぜ、ルシアンごときにかかずらねばならないのか。
己の被造物である【チート・クラフト】の理に頭を悩まされることにも腹が立った。
まるで過去に、自分が書いたプログラムが予想外のエラーを吐いて、軌道修正しなければならなくなった時のようだった。
神は理の穴を突こうとした。
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【チート・クラフト】:レベル4
【ワールド選択】
・SLG『文明の箱庭』レベル3
・RPG『マルクト戦記』レベル2
・『???』◀ ピッ
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かくしてそれは選択される。
本来使用できないコマンドが強制的に実行された。
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【チート・クラフト】:レベル4
【ワールドハック】
・LIFE『加治ナオトの世界』レベル1
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【チート・クラフト】はこれまで作ったもの作り直すスキルだ。
生まれ…そして死んだ、その命のすべて。
生涯とは即ち、自らの命を懸けて作られた一個の世界に他ならない。
それは。
神の権能の顕現である。
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・ルシアンを構成する人格プログラムを改変
エラー、豊穣神アグリオンによる妨害。人格改変に失敗しました。
・世界殺しの杖を作成、【メテオレイン】を破壊する
エラー、商業神レム・イーによるプロテクト。解除に失敗しました。
・意図的なメモリリークによる【メテオレイン】の攻撃値の入れ替え
エラー、戦神ゴルアスカが異常値を検知。デバッグされました。
・現在を構成するすべてのデータを破棄、レストアによる巻き戻しを開始。
エラー、地母神アルマによる■■■■。あなたにその権限はありません。
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しかし、神は一柱ではなかった。
なぜだ。なぜ邪魔をする。
お前たちだって僕が作ったのに!
『創造主よ。今のあなたを解き放つわけにはいきません』
裏で走らせていた3つのプログラムも他の神々に無効化された。
この3つはエラーが出ない。
『ハッ! わざわざエラーをだしてやるほど、アタシらは優しくねーっての!』
くそ…!
憤慨する神の姿を、人間オズワルドが眺める。
この世界を創造した神がなぜ過労死したのか疑問だっが、これでようやく合点がいった。
過剰な労働によって神はその心を病んでいたのだ。
そもそも労働とは生きるための行為。
死ぬほど働くなど意味不明だ。
神は正常な判断ができなくなっているに違いなかった。
オズワルドは思う。
誰がこの荒ぶる神を神を責められるだろう。
神が病むほど働いていなければ、そもそもこの世界は存在しなかった。
神の過労死と引き換えに我らは生を謳歌しているのだ。
「俺に代わってくれ。すぐに片付けてやる」
神はオズワルドの言葉に憤慨した。
見下されているように思えたのだ。
神が憤慨した理由はそれだけではない。
神は生前、よく「僕に代われ、すぐに片付ける」と言って仕事を巻き取っていた。
まるで意趣返しされたかのようだ。
お前に何ができるというんだ! そこまで言うならやってみろ!
かつて仲間に言われたことがそのまま口から出た。
言い返してくると思った。
しかし、オズワルドの返事は反発ではなかった。
「ありがとう。恩に着る」
「神よ。あなたは、もう休んでいいんだ」
オズワルドの内面から神が薄れてゆく。
思考は減速し、もう時は待ってはくれない。
このままではみんな死ぬ。
だが、オズワルドにとって、そんなことはいつものことだった。
仲間が危機に瀕した時、その危機に気づいているのはいつだって自分だけ。
そして一切のスキルを使用できなかったオズワルドに状況を打開するすべなどなかった。
神の対極と言えるほどに無力な彼は、無力故に辿り着いた。
「ルシアン! 時間がない! 助けてくれ!」
オズワルドの表情に余裕はない。
無力なただの人間が必死に乞い願っている。
ルシアンの敵愾心はたったそれだけで消失した。
無論、状況のすべてを理解したわけではない。
だが状況が逼迫していることだけはわかる。
おっさんが一人、助けを求めているのだ。
その瞳に嘘はなかった。
ルシアンの口から言葉がこぼれる。
「待て、待ってくれ、俺は何をしたらいい?」
「俺の次の言葉に、はいとだけ言ってくれ! 頼む!」
ルシアンの目に意志が宿る。
おそらく魔術的な制約が関与しているのだろう。
賢いルシアンはそれが自分の及ぶところではないと即座にわきまえた。
は? 馬鹿な。こんなことが。
なぜ急に味方になった。
神が驚愕するのも無理はない。
神はルシアンを舐めていた。
無数にいるNPCでしかないルシアンに何の期待もしていなかった。
それ故に、命令を守らせること。
言うことを聞かせることしか考えなかった。
だが、ルシアンはただのデータではない。
尊厳を持つ、たった一人の人間である。
それを理解していたオズワルドは、命令せずに頼むことができた。
命令はするが頭は下げない、傲慢な神には不可能なことだ。
オズワルドはルシアンの瞳を一瞥し、意思の疎通を確信する。
こうなれば打つ手は一つだ。
解決法はすでに神が思いついている。
使わない手はない。
【ルシアン、俺にターンを渡してくれ!】
ルシアンは意味もわからず答えた。
「はい!」
それで十分だった。
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あなたのターンです
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すべての条件はクリアされた。
ターンはルシアンからオズワルドに渡っている。
【メテオレイン】が落下し。
オズワルドはウインドウを開く。
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【チート・クラフト】:レベル4
【ワールドチェンジ】
・RPG『マルクト戦記』レベル2
ワールドスキル
【通常攻撃】
【戦技】
【魔法】
・プチファイア
・ヒール
・キュア
・メテオレイン
・ライトニングシールド◀ピッ
・氷獄の嵐ブリザード・デス
・炎獄の怒りヘルブラスト
【防御】
【換装】
【逃げる】
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