第50話 化け物球児
4月24日 —— 部活体験会
グラウンドに人が溢れていた。
(うわ……なんだこれ。新川中ってこんな人気だったっけ?)
一年生の体育着が、まるでイベントみたいに並んでいる。
新川中野球部のユニフォームを見て、
キラキラした目で話してる子も多い。
——その中で。
「……え、あいつら来てるじゃん。」
二年の間で噂になっていた **二人の名前** が聞こえた。
◆ 来島 陽平
一目見ただけでわかる。
肩幅が広くて、無駄な力が抜けてる走り方。
スイングも音が違う。
(標準以上っていうか……
全部トップクラスじゃねぇか……)
打球はライナー気味で、
角度さえつけば一発で外野の頭越える。
あれでまだ一年とか、意味がわからない。
作楽 潤一
こちらは別方向の怪物だった。
来島のパワー型に対して、
作楽は “当てにいくタイプ” で、ミート能力が異常。
インコースもアウトコースも、
軽く合わせるだけで前に飛ばす。
しかも肩が強い。
遠投を見ただけで、(一年であの距離……?)ってなる。
(……今年の一年、パワー高すぎだろ。)
正直、胸の奥がズキッとした。
今までスタメン争いは二年の中でだけだったのに、
あっという間に “後ろから追われる側” になる。
(……俺らの出場機会、減るかも。)
怖い。
でも、ちょっとワクワクする自分もいた。
黒木、最速で仲良くなる
不安になってた俺の横で——
「おーーい!一年!!来島って言ったよな?
お前の打球、マジでエグかったって!」
黒木、速い。
いや、いつ仲良くなったんだお前。
来島も作楽も、
すでに黒木の冗談に普通にツッコミ入れてる。
「先輩、声デカすぎです。」
「すぐ仲良くなるな、黒木さんって。」
「だろ〜?新川のライトって呼ばれてるんだよ俺」
(誰が呼んでんだよそれ……)
本田が苦笑し、
川越は普通に混ざって一年と話していた。
(黒木……相変わらずコミ力の化け物だな……)
一年の実力を見せつけられる
体験メニューは軽めの
* キャッチボール
* トスバッティング
* 守備体験
だけど、一年達は普通に上手かった。
来島なんか、トスでも金属音が違う。
作楽は、ヒットゾーンに綺麗に打ち返す技術を見せつける。
(……ヤバい。普通にスタメン争える。)
三井先輩と長勢先輩も
「今年の一年は当たりだな……」
「いや当たりどころじゃないぞ……」
って真顔でつぶやいていた。
体験会が終わって
帰り際、黒木が俺の背中を叩いた。
「なぁ斎木。
今年の一年、面白ぇな!」
「……まぁ、すげぇよな。」
「でもさ、こういうやつらが来たほうが楽しいじゃん。
負けたくねぇってなるだろ?」
黒木はニッと笑った。
その顔を見たら、少し肩の力が抜けた。
(そうだな……負けたくねぇよ。)
心の奥で、ゆっくり火がつく感じがした。
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