第51話 強豪浜田中学校

月日が流れて ——


4月の体験会からしばらく経ち、

一年生たちが本格的に練習に参加し始めると、

驚かされることばかりだった。


来島や作楽以外にも——


* 足だけなら黒木と張り合えるやつ

* 内野守備が異様に柔らかいガキ

* 投げるたびに球速が伸びてるピッチャー候補


(……今年の一年、マジで強ぇな。)


二年としてのプライドが、少しだけ刺激される。

負けてられねぇという気持ちが、毎日喉奥でざわつく。


そして、明日は練習試合。

相手は強豪と名高い **浜田中学**。


(やべぇ……ちょっと緊張する。)




翌朝 —— 遠征へ


まだ少し眠気が残っている朝5時台。

集合場所にはすでにみんなが揃っていて、

黒木は相変わらずテンションが意味わからない。


「おい斎木!今日は打つぞー!なぁ川越!!」


「うるさいよ黒木……朝から声でけぇな……」


作楽や来島も、

今日が初めての遠征なのにもう馴染んでいた。


電車に乗り込むと、ビルの少ない景色が次第に広がっていく。

県境に近い駅を通過するたび、

普段とは違う空気を肌が感じた。


(佐山県ってこんな感じなんだ……)


1時間半ほど揺られ、

寝たやつ、景色見てるやつ、黒木の話に笑ってるやつ、いろいろだ。


俺はというと——


(浜田中って、確か去年全国ベスト8だよな……

 今日のオーダー、二年が多いし……絶対にミスできねぇ。)


緊張でスマホを握る手が少し汗ばんだ。




電車を降りた瞬間、空気が変わった。


道沿いに巨大なスタンドとネットが見える。


(……白川第一。

 あの全国常連校がここにあるんだ。)


黒木がテンション高めに言う。


「うわ、これ白川第一のグラウンドじゃね?

 やべぇ、オーラ強ぇ……俺もう帰りたい」


「お前が言うなよ……」


そんな冗談言えるのが黒木の強みだ。


その近くに、今日の対戦相手 **浜田中学** の校舎が見えてきた。


どこか、グラウンド全体に緊張感が漂っている。




試合準備


荷物を置き、軽くアップして、

シートノックを見た瞬間、俺は息を飲んだ。


(……うま。)


浜田中の内野手のボール回しは速いし、

外野の返球は低くて伸びる。


黒木も珍しく、


「……普通に強いじゃん」


と真顔で言った。




オーダー発表


この前の試合とほぼ同じ。

変わったのは投手だけで、

二年の出場機会が明らかに増えていた。


俺は **九番・二塁** のまま。


(よし……今日も守備で流れ作る。)




いよいよ試合開始。


ベースを軽く叩いてポジションにつく。

一二塁間から、相手打者の動きと視線をチェックする。


初回の守備。

一番バッター。


カンッ。


キレイな打球がセンター前へ抜けた。

そのまま盗塁も成功される。


(くそ……これが浜田か。)


だが、二・三・四番は

こちらの投手・長勢先輩の球威に押され、凡打で切り抜けた。


(よし……最初の山は越えた。)


胸の奥の緊張が、

ほんの少しだけ和らいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る