第35話 先発の高梨
昨日、相手のエースが投げ切ったらしく、今日の試合には登板できない。
それを知った監督は、即決で言った。
「一年も入れる。
このタイミングで“実戦での勇気”を見させてもらう。」
スタメン表が貼り出された瞬間――
一年生はざわついた。
八番 ライト:黒木
九番 ピッチャー:高梨
一年からはこの二人。
俺はその名を見た瞬間、胸の奥で小さくうずいた。
(……悔しい。)
でも顔には出さない。
守備固めで出る可能性はある。
だから俺は黙って外野ノックに走り込んだ。
試合開始 ―
一年の高梨が、堂々とマウンドに立つ。
身長はそこまで高くないが、三塁手上がりの豪腕らしいセットポジション。
相手一番打者がバッターボックスに入ると、
ベンチ横の一年たちは息を飲む。
高梨、初球――
高めギリギリへ140km/hに“見える”ほどのキレのある直球。
ズバァンッ!
捕手ミットが大きく揺れる。
審判「ボール!」
(いやボールかよ……!)
ちょっとビビったのは俺だけじゃない。
でも――
高梨は怯まず、むしろギアを上げた。
二球目、三球目、四球目ーー全部ストレート。
相手一番打者はついていくのがやっと。
高梨の球は伸びすぎて、逆に芯を外す。
しかし粘られ、気づけばフルカウント。
そして――
審判「フォアボール!」
(くそ……でも悪くない。怖がってない。)
ピッチャー一年生でこの内容なら十分すぎる。
続く二番打者
監督は一切声をかけない。
信頼してる証拠だ。
高梨は息を整え、セットに入る。
初球――外角低めへズバッと入るストレート。
“ストライク”と言うより“通過した”という感覚の球。
審判「ストライク!」
二番は明らかに面食らっていた。
高梨は淡々と3球勝負。
ズバッ……!
ズバァンッ……!
審判「ストライク、スリー!!」
まさかの 3球三振。
(高梨、おまえ……化け物かよ。)
一年の中で一番冷静なのは高梨だった。
高梨は制球にムラがありつつも、要所で三振を取る。
二年主体の守備も高梨をうまく助け、4回まで1失点で粘った。
俺はベンチ横でノックの延長をしながら、
悔しさと誇りと焦りが全部混ざった変な気持ちで試合を見ていた。
5回表 ― 黒木の第二打席
「次の打者、八番ライト・黒木!」
黒木がゆっくり打席に向かった瞬間、
一年の空気が一段階ピリつく。
初球――
バコンッ!!
サードへ一直線、強烈な弾丸ライナー。
サードは一歩も動けず、はじいてしまう。
実況だったら間違いなくこう言う。
「打球が速すぎた。」
黒木、出塁。
俺(……すげえな。)
嫉妬じゃない。
完全に“尊敬のため息”だった。
ここで監督が動く。
「高梨、代打出す。本田、行け!」
一年全員「本田!?」
本田は今年、中学に入ってから野球を始めた。
フォームはまだぎこちない。
でも――
身体能力だけなら一年最強。
50m6秒前半。
握力は中一にして48。
ジャンプ力も桁違い。
“ただの化け物”だ。
そして打席へ。
カウントは不利。
2ストライク1ボール。
相手投手が外角低めへ沈む球を投げた瞬間――
本田はバットを出した。
ポトッ……
シュルシュル……
レフト前に落ちた。
ベンチ「よっしゃーーーー!!」
本人は驚いていた。
本田「え、これヒット……?」
一年も二年もベンチも笑いながら盛り上がる。
本田は“野球歴8ヶ月の天才”だと証明した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます