第21話 ほんとに俺っすか?

冬の冷たい風が吹くグラウンド。

外野の一年練習とは別に、

“投手候補だけがブルペンに来た。


集まったのは――

斎木晃大、高梨、大河内。

冬の空気がピンと張りつめていた。


高梨 ― 最高速110キロの三塁手

最初に投げたのは高梨。

もともと三塁手で肩の強さは一年の中でもずば抜けている。

ブルペンに立つと、無駄のないフォームから――

ズバッッ!!

キャッチャーミットが派手に鳴る。


「……110キロ。」


コーチが唸った。

山根監督も短く頷く。


「球威は一年のレベルじゃないな。

体も強い。投手経験は浅いのに素質がある。」


高梨は鼻で軽く笑う。


「まだいけます。」


再び投げる。

110、109、110……

安定して速い。

(すげぇ……)

斎木は圧倒されていた。


大河内 ― 元投手の“魔球スプリット”

次は大河内。

小柄だが、フォームが綺麗で完成度が高い。

投げる前、表情が妙に落ち着いている。


ストレートは――

97キロ、98キロ。

高梨ほど速くはないが、球筋が綺麗でコントロールが安定。


そして――

キャッチャーのミットが突然ストンと落ちた。


「……今のスプリットか?」


大河内は軽く頷く。


「一応、得意球です。」


落差は浅いが、

一年生としては十分すぎる鋭さ。

コーチがぼそっと呟く。


「これ、公式戦なら三振取れるぞ……」


山根監督も目を細める。

「球速が伸びれば面白いな。」


大河内は涼しい顔のままマウンドを降りた。


斎木 ― 新参者の“???”

最後に斎木の番が来る。

(110キロ……スプリット……

俺だけなんも武器ないじゃん……)

マウンドに立ちながら手が少し震えた。

ブルペン捕手が構える。


「力まず投げていいぞ。お前の球筋を見たい。」


斎木はうなずき、

胸の前で小さく深呼吸して――

投げた。

パンッ!!


「……ほう。伸びるな。」


速度は 101キロ。

(えっ?100超えた?)


投げる度にミットが後ろに押される感覚がある。

キャッチャー:「回転がいい。

リリースの瞬間に球が前に伸びるタイプだな。」


監督もメモを取りながら言う。


「フォームはまだ荒いが、球質がいい。

……肩さえ強化できれば十分戦力になる。」


もう一球。

103キロ。


「おお……」


一年生が少しざわついた。




投球テストが終わった後、

監督が3人の前に立つ。


「――今日から、お前ら3人を

“一年投手候補”として正式に登録する。」


斎木、高梨、大河内。

3人の名前が板書される。


「高梨は速球型。

大河内は技巧派。

斎木は球質型。」


監督は続けた。


「三者三様だが、全員に可能性がある。」


心臓が跳ねた。

(俺……マジで投手やるのか……)

高梨は腕を回しながら笑う。


「負けないからな、斎木。」


大河内も静かに言う。


「投手は数字の世界です。

速く、正確に投げられる者が勝ちます。」


その二人を見て、斎木も気持ちが決まった。

「……俺も負けない。」



その夜

デイリークエスチョンを終えたあと、

画面に新しい表示が出た。

【投手専用経験値:1日+1】

【小スキル解放:球持ち◎(仮)】

・球が前に押し出される

・初速と終速の差が少なくなる

・球質が上昇するが、体力消費が微増


(これ……投手としての才能ってことなのか?)

胸が熱くなる。

斎木は布団に倒れ込みながら、

明日が待ちきれなかった。

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