第12話 ペナルティ

その日の夜。

俺はソファでスマホを握ったまま寝落ちしていた。

目を覚ますと、室内は真っ暗。

時計を見ると——

23:58

(……あ)

心臓がひっくり返るように跳ねた。


——デイリークエスチョン。


今日、やってねぇ。

素振りをしていない。

壁当てもしていない。

チューブトレーニングもしていない。

昨日の疲れと、今日の解析で頭がいっぱいで……


完全に忘れていた。


「うそだろ……?」


その瞬間だった。


ピシィン!

白い光が弾けるように視界一面を覆った。

胸を掴まれるような感覚と共に、体が浮く。


「うわ、ちょ……っ!」


落ちる感覚でも、飛ぶ感覚でもない。

ただ“移される”。


次の瞬間——

俺は知らない場所に立っていた。


白い“ホログラム空間”


床も、壁も、天井もない。

真っ白。


だけど光っているというより、


“デジタル処理された白”。


遠くにグリッド状の線が走り、

まるでゲームのフィールドだけが取り出されたみたいだった。


風も温度も、匂いもない。

声すら吸われそうな世界。


(……どこだよここ……?)


そのとき。

上空に巨大なホログラムウィンドウが開いた。


ーー警告ーー

《デイリークエスチョン未達成》

《ペナルティモード 発動》

《クリアするまで時間進行ロック》


画面が一度チカチカと揺れ、

新たな文字が浮かぶ。

ーーPENALTY 内容ーー

「165km/hの直球を、3球以内に打て」

(は……?

165……?)


プロでも読んでやっと当たるかどうかの球速。


中学生の俺がなんで——


と思うより先に、ウィンドウが閉じた。

そして背後に、

“ガシャン” と鉄が起動する音が鳴る。


振り返ると——

黒い筒状の巨大な投球マシンが据え付けられていた。


無駄のない金属の塊。


赤いライトが点滅している。


その前の地面にはバッターボックスのライン。

人工的に描かれた白線。

(……ここで……打つのか)


震えそうな手を必死に抑えながら、

俺はバットを握った。

軽い。


空気の抵抗すらない。

まるでゲームの中のバットみたい。


ピピッ——


マシンのライトが緑に変わる。

次の点滅で投球開始。

理解した瞬間。

心臓が狂ったように打ち始めた。


(クリアするまで、出られない……

ここから……出られない……)


喉が乾く。

手汗が止まらない。

足が勝手に後ずさろうとする。

だけど。 


(……やるしかねぇだろ)


足を踏みしめた瞬間——

赤いランプが一瞬だけ光った。

次の瞬間。

空気が裂けた。


ドッ……ッ!!!


視界に入らない。

音だけが耳の奥を殴る。


(はやっ……!!

見えねぇ……!!)


腰が抜けそうになった。


“165km/hの球を1球だけ打つ”


言葉にすると簡単だが、

実際は“見える”ことすら許されない。

再びピピッ。

第二球準備の音。

(……くる……!)

今度は視線を置き、

狙うのではなく“感じる”つもりで構えた。

心臓の鼓動が一拍遅れる。

赤い点滅。

空気が震えた——。

バシュゥッ!!!

一瞬、

バントが頭の底からよぎる

もし仮に、

同じところに飛んでくるのであれば、

俺はバントの構えを取る



カァン!!!!

乾いた金属音が白い空間に響き渡った。

球は打ち上がり、

地面にパトンと落ちた


その瞬間、

ウィンドウが再び開く。


ーーPENALTY CLEARーー

《デイリークエスチョン:免除》

《時刻解除》

《特別報酬:技能値+2》

俺はその場で膝をつき、

息を荒くした。


(……二度と、忘れねぇ……

マジで死ぬかと思った……)


視界が白く揺れ——

次の瞬間、俺は自分の部屋に戻っていた。

時計は 23:59 を示していた。

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