第11話 プレイヤーの定義

月曜日。

世間は登校日だけど、俺には関係ない。


昨日の一回戦。


黒木のホームラン。


そして帰り道のライバル宣言。


その全部が頭から離れず、

今日は朝からステータス画面を開いていた。


技術・筋力・知能…これ、どう作用してんの?


画面には3つの“基礎能力”が並んでいる。


技術:58

筋力:30

知能:30


でも俺には、この数字がどう野球に影響してるのか分からない。


技術が高いからって守備が上手いわけじゃない。


昨日のレフトでの反応は、“守備力36”のおかげだ。


パワーだって12。

ミートも12。


「じゃあ……技術って何だよ?」

50もあって、ミート12?


数字の意味が繋がらない。

筋力だってそうだ。


筋力30なのにパワー12って、どういう関係なんだ。


知能は……もっと意味不明。


「これ、本当に関係してんのか?」


ノートにメモをしながら、俺は自問自答を繰り返した。


黒木のことが引っかかる


部屋の端で、昨日の黒木のフォームを思い出す。

細身で、腕も太くない。


身長は高いが、筋肉の量は俺と変わらない。


なのに——あんな綺麗な軌道の打球をレフトスタンドに。


(あれ……筋力だけじゃ絶対無理だろ)

普通に考えればパワー不足。

なのにホームラン。

……もしかして。



(黒木も“プレイヤー”なんじゃないか?)



そうとしか思えなかった。

構えが綺麗すぎる。

打球が綺麗すぎる。

一年生のスイングじゃない。


「もし黒木も俺と同じで、

ステータスを持ってたら……?」


喉の奥がぎゅっと詰まる。

ライバル宣言の重みが、急に現実味を帯びた。


考えて、書いて、並べてみたけど——

技術・筋力・知能の関係性は、結局何も分からなかった。


ただ1つだけ分かったのは、

ミート、パワーなど“表示されているステータス”が

直接プレーに影響している。


なら、考えるより上げた方がいい。

昨日の試合で稼いだ12ポイントが

画面に表示されていた。


「とりあえず……やるしかねぇな」


まずは“ミート”に6ポイント。

そして“パワー”に6ポイント。

振り分けると同時に、

身体の奥がじんと熱を持つ。


ー通知ー

ミート:17(+6)=19

パワー:12(+6)=18


「……よし」

これで何かが変わるかもしれない。

変わらないかもしれない。

でも、不思議と後悔はない。


「黒木……絶対負けねぇ」


画面を閉じると、外から聞こえる

カラスの鳴き声だけが妙にうるさく響いた。

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