第10話 決戦①

 決戦が始まった。

 ところどころ轟音がするなか、皆家は何とかして退路を確保をしようとした。だが四方八方をバイクで囲まれている中、逃げられる状況では無い。

 悟と背中を合わせてこそっと呟いた。


「いま、昴の状況がつかめない」


「それで?」


「俺はそっちの安否を確認したい。ここ、しばらく頼めるか?」


 悟は苦笑した。


「誰だと思ってんだよ。俺は阿賀嶺高校の番長だぞ」


「ああ。そうだな。頼りにしているぜ」


 皆家は南の方角に全速力で走った。

 バイクのコール音。お前は通させないという気概が感じられる。

 それでも行かないといけない。

 鉄パイプを振り回しながらなんとかバイクの壁を突破した。

 そこから走った。


 喘鳴を吐き出しながら坂城に教えてもらった昴の家。インターホンを鳴らす。

 誰も出なかった。

 この家は木造アパートなのだが、この家で半身不随の父親と三歳の弟と暮らしていると思うと気が引けた。彼女の苦労には同情してしまう。


「昴ちゃんなら怖そうな人とどこかに行ったわよ」


 気さくなおばさんにそう言われて皆家は詳しい事情を尋ねた。


「どういった人に連れていかれましたか?」


「なんかタトューが入っていて怖かったわ」


「警察には?」


「…………ほら、その、面倒なことに巻き込まれたくないからね。ごめんなさい。力になれなくて」


 皆家はかぁっと熱くなる。

 昴はまだ学生だぞ。

 それなのに、誰も頼れる大人がいないってどういうことなんだよ。

 皆家はその気さくだと勘違いしていたおばさんに別れを告げて、木造アパートから去った。

 そして、煙草に火を点けた。

 紫煙が昇る。


「待ってろよ」


 また兄に連絡を掛けた。すぐに繋がった。


「どうした」


「単刀直入に言う。ocsに女が連れ去られた」


「……分かった。調べてみる」


「ありがとう」


「どうせその女、学生だろ。ほんと、半グレはロリコンが多いからな」


「ありがとな兄さん」


「そのノリで許してくれよ」


「それはまだ無理だ」


 とは言いつつも実はもう半分許していたりもするが。

 兄が電話越しで笑った。


「そうだよな。じゃあ分かったら連絡する」


 今度は坂城に連絡を掛ける。


「いま兄に協力をお願いした。ちょっと足貸してもらえねぇか?」


「おう」


「実はさ……」


「なんだよ」


「八号線沿いにつぶれたパチスロ店があるんだが、そこがocsの若年構成員の温床になっているんだよ。そこに昴は拉致されたかもしれねぇ」


「……その根拠は?」


「北川組はいわゆる賭博系と呼ばれる暴力団だ。関東圏のギャンブルの利権を握っているという情報もある。経営しているスロット店の一つや二つはまだつぶれず残っているだろうと思って調べていたらそこがあったんだ。一応、兄に裏取りもしてある」


「さすがだ。でも、どうする? 学生同士の喧嘩が大人も混じった混沌とした戦争になるぞ」


「ははっ。言っただろ。俺は初めから」

「――?」


「戦争だろ、って」


 坂城が大笑いした。


「さすがだよ」


「あと、一応安全策も用意する。俺が以前に在籍していた高校のOBが警察官でな。その伝手で麻薬取締部とマル暴を動かせるかもしれない」


「いいね。とりあえずバイク回すわ」


「おう。急ぎで頼むわ」


 通話を切って、天を仰いだ。

 少し雨粒が降りてきた。

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