第6話 家の動向について
「ルーチェ、ちょっと良いかしら?」
寝る前に俺はあの事を訊いてみたくなった。
「はい、何でしょうか?」
「父上や母上はどんな状況でしたの?」
本当に俺を追放したくて、署名したのか。
確かに記憶のある限り、完璧な悪役令嬢ムーブをしていて、婚約破棄されるのは相応しいかもしれない。
でも、法の外に置かれるような爵位剥奪を認めたのだろうか。
遠回しに俺に”死ね”と言われるような事だろ。
だからこそ、屋敷の中にいたルーチェに訊いてみたかった。
平然としていたのか、それとも……
「……お二方とも平然としていました」
言い淀みながらルーチェは答えていた。
するとポップアップが表示された。
ーーーーーーーーーー
【真偽解析 発動】
対象の発言:『お二方とも平然としていました』
判定:虚偽
ーーーーーーーーーー
「やっと出てきたのね……」
あのスキル、飾りだと思っていたがちゃんと表示されるんだな。
判定の文字は赤くなっている。分かりやすいな。
でも、この赤い文字を見た瞬間、胸がちくりと痛んだ。
「どうしました?」
ルーチェがきょとんとしていた。
「ううん、何でもないわ」
平然としていたのは嘘だった。
つまり、二人とも色々とあったという事か。
「ねえルーチェ、平然としていたのって、嘘よね?」
「お嬢様……何故そう思うのですか?」
聞き返されたけれども、『UIに嘘って表示されたから』っていうのは通じないだろうし……
どう言えば良いのか。
「わたくしの側にどれだけ居たと思っているの。それくらいは分かるわ」
「そうでしたか……心配をかけさせたくなかったのですが」
今度はポップアップは表示されていない。
どうやら本当みたいだな。
もしもこの言葉まで”虚偽”だったらどうしようかって思ってしまったが。
優しすぎて嘘になった訳だな。
「逆に心配になるわ。だから、真実を言って」
「はい……お嬢様、アレクサンダー公は昨夜酒を酔い潰れるまで飲んでいました。私達にも当たりはしませんが、酒を要求いたしまして……途中には泣き崩れていました」
「それって……わたくしの追放が不本意だったみたいじゃないの」
完全に酒へ逃げている状態だ。ドラマとかで見たことあるやつだな。
本心で書いたのだったら、こんな状況になことはない。
むしろ嬉しく思っているはずだ。
やはり……
「奥様は憔悴しきっていて、お嬢様の肖像画を抱いて泣きすがっていました。朝には顔色が悪くて……」
「そうだったの……」
ルーチェの発言に対して、ポップアップが出ていない。
つまり真実なんだ。
二人にとって俺が追放されたのは、本心ではないという事。
「貴女はどこでわたくしが追放されたって事実を知ったの?」
「今朝です。アレクサンダー公は二日酔いになっていましたが、訊いてはっきりと真実を……」
遅かっただけなら、あの王子と楽しんでいたって分かるが……
朝になっても帰ってこないから訊きたくなるだろう。二日酔いになっていたけれど、話したんだ。
「ありがとう……良かった……」
本心で追放したわけじゃないって分かった。
それだけでも、俺にとっては嬉しい気持ちだった。この世界の両親は俺を捨てたわけじゃないから。
確かに俺の行動を問題視していたのかもしれないが、それでも追放されるほどじゃないって思っていたんだな。
なのに二度と会うことが出来なくなる。
そんなの……ショックでしかないよな。
俺だって同じになる。
いつの間にか目が潤んできた。
女になっているから、涙腺が緩いのかな……
目の奥が熱くなる。男子だった頃より、ずっと涙がこぼれやすい。
この身体は泣くことに抵抗がなくて、余計に耐えられなかった。
「大丈夫ですから。魔王を倒したら、戻れますよ」
ルーチェは俺を抱きしめてくれた。
優しくて温かみがある。
彼女はメイドとして寄り添っているのか、ルーチェとして抱きしめているのか俺には分からない。
それは彼女にも感じているようだった。
「ルーチェ……」
途中、力が入りすぎていた。
「申し訳ありません……」
だけどそれに気がついて、力を弱める。
抱きしめられているうちに、ルーチェの女性としての香りや温度が伝わってくる。
(凄え良い香り……しかも柔らかいな……)
男子としての気持ちなのか顔が紅くなってきた。
涙は流しているのに、赤面している。
女子としての部分と男子としての部分が混じり合っていた。
「でも、そうね……」
涙はしばらく止まらなかったけれども、悩んでいたことが一つ消えた。
俺を追放したくて署名したんじゃない。
騙されたんだって。
ルーチェが真実を教えてくれた。
俺は魔王を倒すためだけに旅をしているんじゃない。
王子に真実を突きつけて、家族に胸を張って帰るためだ。
だから、魔王を倒さないといけない。
無事に帰って喜ばせたい。
そう誓ったのだった。
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