第12話 ピンクのお赤飯
横幅の広い道路がまっすぐに伸びている。
信号はない。
なかなか対向車は通らない。
60キロで運転していたら、大型トラックが追い抜きをかけてきた。
トラックからの風圧を受け、私が運転している軽自動車はオホーツク海まで吹き飛ばれそうだ。
「小さな車は事故にあったら一発で死ぬから、特に由紀ちゃんは雪道初心者だしなぁ。早く買い替えろぉ」
北海道に着いた一昨日の晩に叔父は言い、埃が積もったスバルの車を車庫から出してくれた。
叔父の二階建ての家は床暖房とガスファンヒーターがつけられ、半袖でも過ごせる温かさだった。
叔母は北海道の教師になった祝いだとわざわざ赤飯を炊いてくれていた。
北海道特有のピンクの赤飯。
去年の7月に行われた教員採用試験のときにも、この家に泊まらせてもらった。
そのときに小豆ではなくて大納言甘納豆で作る、ほんのり甘い赤飯を初めて食べた。
「いいかぁ、狐や鹿が飛びだしてきてもハンドルは切るなよぉ」
叔父が言い、
「ハンドルを切らなかったら、
私はお赤飯を口に入れた。
「轢けばいいさぁ。当たり前だろ」
「ハンドルを切ったらさぁ、ゆきちゃんが滑るか、対向車とぶつかってしまうからねぇ。ゆるくないけどねぇ。滑り出したらわやだから、わや。それにしてもゆきちゃんがこっちに来てくれてなんまら嬉しいわ。いつでも遊びに来ていいんだからね」
「ゆきちゃんは今年は横浜の試験は受けなかったんかい?」
赤飯を飲みこみ、うなずいた。
昔から二人とも私のことを「ゆき」と呼んだ。
どことなく、「雪」にも聞こえる発音だった。
二人の言う「ゆき」はいつまでも幼さが残る由紀のような気がする。
「ゆきちゃんの母ちゃんは、縛りがきっついからなぁ。逃げ出したくもなるべ」
「そういうわけじゃなくて」
「去年はどっか受けたんだっけか?」
「受けていないよ」
「なして? 就職活動してたんだっけか。全部だめだったかい?」
「お父さん、こうして北海道へ来てくれたんだからそんなことはどうでもいいっしょ。ゆきちゃん、おかわりは?」
私はピンクのお赤飯を三杯は食べた。
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