第13話 幸せが怖くて
手にしてしまったら、失いたくないと思ってしまう
二日間は二人共ジュードのアパートで過ごした。
「愛」と「欲望」は違うのだと言う様に、クリストファーはジェードに手を出さなかった。その間、眠る時にジュードを抱きしめる事があっても。
ただ、お互いの今や過去の話をしたり、何もせずに見つめ合ったり。二人の中のそれぞれの「愛」を育んでいる様に。
度重なるキスは流石に深くなっていたけれど。そんな事がジュードの脅えを遠ざけて行った。
ジュードは年始まで休みだったが、クリストファーは三日目には仕事に出なければならなかった。食材も尽きて来たので、どうせ買い物に外に行くならとジュードを自分のホテルに連れて行った。クリストファーのいない間はホテルにいればアパートよりも安全。また、変な男が来るのが心配だからホテルにいて、と説得された。
僕がいない間にホテルの外に出ないで。退屈なら、フロント奥のライブラリーから何か本を借りて来てもいいし。お昼ご飯はレストランで部屋付で食べてもいいし、ルームサービス頼んでも……。クリストファーが支度をしながら次々と言ってくるので、ジュードはまた笑ってしまった。今日は挨拶だけだから、夕方には戻る。そう言って、キスをして出て行った。
ホテルのクリストファーの部屋は、隣だ。外からは独立しているこの二つの部屋は、コネクティングルームで、お互いのリビングルームにあるドアで繋がっている。
「心配性だな。あんな処を見せたせいか……」
Ωになってから身体つきまでひ弱になってしまって。護身術とか学ぶべきかもしれない。
その日クリストファーは帰ってくるなり、ジュードを連れてホテル一階のテーラーへ行った。
「彼にブラックフォーマルを」
ホテルの年末年始のレストラン営業がパーティーの為、必要なんだそうだ。靴まで全身分のフォーマルウエアーを手配することになった。
「僕、アパートに帰るんでもいいのに。それか、ルームサービスで年越しでも」
「いや。僕が一緒に参加したいんだ。綺麗な君を見せびらかそう」
日にちが無くて、既製品を手直しすることになったけど、スーツの仕上げは素晴らしかった。
「お金は、あの小切手を現金化してからでいい?」
「いらないよ。僕が君にここにいて欲しいからいてもらうんだし、一緒にパーティーに出たいからスーツも買うんだし」
大晦日と新年のパーティーは夢の様だった。ジュードは実家ではいない者扱いだったし、その後は学校の寮住いで休みにも全く家に帰らなかった。華やかな年越しなんて初めてだった。
恋人と参加するニューイヤーとイブパーティー! 音楽、料理、二人でダンスも参加した。
「ジュード、ダンスは? できる?」
「オーソドックスな物何曲か。授業で何回か習ったんだけど、男子校だったから僕は小柄な方だから……」
「エクセレント!」
百七十㎝、Ωになってから色素が抜けて、ほとんど白に近いプラチナブロンドの長髪を頭の後ろに結んで、瞳は薄いグレーのジュードと百九十㎝、黒髪短髪、空色ブルーの瞳のクリストファー。二人は二日間のパーティを目一杯楽しんだ。
パーティがお開きになって部屋に戻る途中の廊下やエレベーターでジュードは陽気に捲し立てた。
今まではただの音だったダンスミュージックが恋する心に響いたらしい。
「僕の人生で音楽なんて五月蝿いだけで、全然興味を惹くものじゃなかったんだけど、こんなに心を打つとは思わなかったよ。すごいよ。月にも連れて行って欲しいいし、幅一マイル以上の月の川も見てみたい、ずっとそばにいて欲しいし、海の彼方から来た君と恋に落ちずにいられない……」
話しながら、最後の方は声が震えて、手も脚も震えていた。
「ジュード、饒舌だと思ったら……泣いてる?」
もう立っていられなくてジュードは廊下に崩れ落ちた。
「全部、全部僕にとって、君のことなんだ。君に優しく愛して欲しいし、君だけだし、泣いてるんじゃなくて煙が目に……」
クリストファーはジュードを抱き起こして、肩を抱いて、瞼に頬にキスをした。
「泣かないで……」
「怖いんだ……このまま幸せなわけないんだ。僕にそんなことないんだ」
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