第5話 仕事探し
Ωだって? とんでもない。
単発で探す仕事。それでも申告しなくてはならなくて、Ωだと言うと、ダメダメ!ダメに決まってんだろう? と、断られる。安定していない
時間と共に、体も変化していた。髪や瞳の色は変わらないが、肌は透明感を増し、元々男性っぽくは無く子供のようだった体のラインも細く丸くなっていった。やはり、男性というよりは、女性に近い色気が出てきていた。
小さい商店とか事務所とか他に誰もいない場所で面接を受ける時に、セクハラを受ける事が増えてきた。例えβであっても立場を利用して、Ωを試してみようと思うらしい。手を握るとか、体に触れようとするとか、酷い時は襲われそうになった。Ωなんだから、ちょっと誘われたらその気になるんじゃないか? 世界中の人が自分のことを役立たずでどう扱ってもいい人間だと思っているような気がする。……そして自分でも、自分自身が全く価値のない人間だという気がする。
設計事務所の営業時間の終わりに事務の面接を受けていた時のことだった。聞いていたのは経営者夫婦で面接ということだったのだが、行ってみると中年の経営者の男性一人だった。話している間にだんだん近づいてきて、椅子に座ったジュードの顔の前にズボンの前から勃った物を突き出してきた。肩を抑えられて身動きが取れなかったが、手に持ったペンを相手の太腿に力一杯突き刺した。ペンは肉に刺さりはしなかった。それでも痛みは与えたらしく、相手の手の力が抜けた隙に逃げ出す事ができた。
外に飛び出してまだ明るい街の中を夢中で走った。広場の噴水の縁に腰掛けて、頭を抱えた。生きている間に絶望は何度も何度も襲ってくる。どうしたらいいんだろう? どうやったらこんな目に遭わずに済むのかな……。
夏の夜は遅い時間まで明るい。面接に行ったのが十八時、気がつけば、今は二十時だった。噴水で顔を洗って、もう帰ろうとした所へ、小さな女の子を連れた妊婦さんが沢山の荷物を持って噴水前のベンチに座った。
「あぁ、もう無理……」
「もしよろしかったら、荷物お運びしますよ」
ジュードはできるだけ元気に声をかけた。
「え? ありがとう、いいの?」
二十代前半? くらいの妊婦さんに聞かれた。
「暇ですから、いいですよ。ご遠慮なく」
ジュードは応えて、荷物を持って、三歳くらいの女の子の手を取った。
「助かるわぁ。もうどうしようかと思ったのよ」
妊婦さんは再来月出産予定で、小さなレストランのオーナーだった。旦那さんがシェフ。レストランは噴水から五分ほどの場所にあった。繁華街と住宅地の境目くらいに。白い、可愛らしい建物だった。一階がレストランでその上に住まいがあるようだった。
「どうしても必要なものだけ買えばいいのに、ついつい他のも買っちゃうのよねぇ。それでなくても、お腹に重い物がくっついてるのに」
店の入り口の横にある住宅側の入り口ドアから入って、荷物と女の子も二階へ運んだ。
「ありがとう。よかったら、ご飯食べて行かない?」
少し荷物を運んだだけで、図々しいかな? と思ったが、ありがたくいただく事にした。
ダイニングの椅子に腰掛けて、なんとなく身の上話をした。
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