神様が僕を裏切り続けるんだけど。最後に希望が残ってるのか、パンドラの箱に。
雉 るし
第1話 何にも持たない僕のこと
ジュード・マイアー、男性、百七十センチ、五十三キロ。髪も瞳も灰色。真面目。おとなしい。授かった能力は『詰まりを取る』こと。
この世界には生まれながらにして神様から特殊能力を授けられる者がいる。兄達は「魅了」「カリスマ」の能力を授かって生まれた。能力は授けられない者が殆ど。授けられる者は一割に満たない。
カレイド国の家具を扱う商会、マイアー商会は国内の最大手。ジュードは男ばかりの兄弟の末っ子、三男。父も母も兄達も派手な見た目をしている。推しも強い。何故か最後に生まれたジュードだけは、パッとしない見た目で生まれた時に授かった能力が『詰まりを取る』……。ジュードが生まれた時に既に父は愛人に現を抜かし、家庭を顧みなくなっていた。起死回生を狙った母が望んだのは、目を見張る様な能力の高い子供。だが、生まれたのはジュードだった。
全ての能力が裏表なので、『詰まらせる』事と、『詰まりを取る』事ができる。ただ、能力値も低かったので、大きな物には使えず、せいぜいがトイレや台所の詰まりを取るだけという、本当に
がっかりした母は育児を放棄し、メイドに任せ、メイドも軽く見て碌に世話を焼かれずに育った。元々関心のない父親にも、反応の薄い弟に興味のない兄達にも可愛がられることはなかった。家族と呼ばれる全員に、顔を見れば揶揄われた。
ジュードが最初に孤独に気がついたのは三歳の頃だった。話しかけられる事が少なく、言葉も遅いジュードが一人で庭で遊んでいると、母が庭先で友人達とお茶を飲んで笑っていた。その頃はまだ、家族に嫌われていることなど知らなかったジュードはキラキラした母や兄達が大好きだった。暖かい春の日に、庭の隅で見つけた一番の大きなタンポポを摘んで母の元に走って行った。
「泥だらけじゃないの!?」
近寄るよりも前に母は叫んだ。
「そこで待っていなさい。今はお客様なんだから」
ジュードはそのままその場で立ち尽くしていた。お客様が一人、また一人と帰って行き、今度は兄達が学校帰りに母に挨拶に来た。母は嬉しそうに一人一人にキスをして、兄達は残ったお客様と話していた。少し日が落ちてきて、母や兄達の金髪がキラキラ反射するのを立ったまま、見つめていた。
最後でいいから、ママは僕にもキスをしてくれないかな?
兄達が屋敷の中に戻り、残ったお客も次々と挨拶をして去ると、屋敷の中から母を呼ぶ声がして、そのまま母は屋敷へ。
ジュードは萎れたタンポポを持ったまま、メイドがテーブルを片付けるのを見ていた。
夜になる頃には、諦めなくては、と思った。それでも、今、ドアが開いて母が自分を抱いてキスしてくれるかも知れないとも思った。だが、そんな時は来なかった。翌朝、庭師が倒れているジュードを見つけた。
ひどい風邪と脱水で一週間寝込んだ。
庭で見つかったままの状態で自分の部屋のベッドに寝かされていたジュードは、医者の往診のために少しだけ綺麗にしてもらえた。体を拭いて、寝巻きに着替えさせられた。発熱で喉も痛み、水も飲めない状態だったが、医者以外誰も可哀想にとは言わなかった。何度か医者が来て、治療を施したので、三日後、やっと熱が下がった。ジュードが気がつくと、そばに医者と母がいた。
「ママ、お客様は? 帰ったの?」
それは、倒れる前の庭で待っていた時の話だった。母にはわかったはずだが、何にも言わなかった。医者は、熱で夢を見たんだろうと思った。
そこからは少し良くなった。お腹が空いて、ベッドサイドにあった、置いたままのパンを水で飲み込んだ。まだまだ喉が痛かったので、一口ずつ。また寝て、起きる度にどんどん楽になっていった。
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