【21話】好きな人と二人きり


 そうして一日中ソワソワしながら、やっとのことで迎えた放課後。

 俺は双葉さんと横並びになって、街中を歩いていた。

 

 他には誰もいない。

 俺と双葉さんの、二人きりだ。


 てっきり双葉さんは他のやつにも声をかけているものだと思っていたが、その予想は大外れ。

 まさかの、俺だけだった。

 

 これじゃまるで、デートしてるみたいじゃないか!!

 

 二人きりで街中を歩いていく。

 傍から見れば、デートしているようにしか見えないだろう。

 

 過剰な嬉しさによって、炎に包まれたみたいに全身が熱くなる。

 高熱にうなされているときみたく、ふらふらくらくらしてくる。

 

 しかしながら、そう浮かれてばかりではいられない。

 実は先ほどからこの場にて、深刻な問題が発生していた。

 

 今日はまたとない、最高の機会。

 いつもよりたくさん会話ができる、大チャンス。

 

 それだというのに俺は、緊張のあまり話題が思い浮かばずにいた。

 

「こうして大倉くんとお出かけするのって、これが初めてだよね」

「……う、うん。そうだね」

 

 学園からここまでの道中、ずっと双葉さんだけに話題を出させてしまっている。

 

 俺はといえば、その隣でボキャブラリーに乏しいつまらない相槌を打っているだけ。

 なんと情けなくて、つまらないやつなのだろう。きっと双葉さんにも、そう思われているに違いない。

 

 でもさ、ちょっと待ってほしいんだ。

 俺は学園の中ですら、双葉さんに話しかけられたら緊張するんだぞ。

 デートっぽいこのシチュエーションで緊張するなって方が、無理な話じゃないか?

 

 うんうん、そうそう。

 こうなるのもしょうがないよな!

 

 ……いやいや、なに諦めてたんだよ! この馬鹿野郎が!

 こんな機会、二度とないかもしれないんだぞ! 今話さないでどうするんだ!


 開き直ろうとしていた弱気な自分に、特大の喝を入れる。

 

 さあ今こそ、殻を破るときだぞ。

 新しい自分に生まれ変わるんだ!

 

「あ……えっと……あ。……」

 

 なんとか喋ろうとするも、撃沈。

 

 頑張った。

 これでも一応頑張ってはみたのだが、それでも無理なものは無理。

 

 悲しいくらいに、まったく話題が浮かんでこなかった。

 俺という人間は、そう簡単には変われないらしい。


 なんでだよ……。

 清澄さんといるときは、こんなことないのに……。

 

 いや、待てよ……そうか!

 清澄さんといるときと同じようにすればいいんだ!

 

 ハハハハハ!

 なんだよ、簡単な話じゃないか!!

 

 まさに起死回生。

 すこぶる得意な顔で、清澄さんと一緒にいるときに口にするような話題を思い浮かべてみる。

 

 しかし。

 

 あぁ、なんてことだ。

 オークとウンコしか出てこない……。

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