第29話:そして日常に帰る
そう言えば書いてなかったけど、ルーラシアにも暦はあるし週末と言う概念も休日の概念もある。
ただ、週末が完全に休みなのは主に学校だ。それ以外は週末でも開いてたり休んでたりまちまちだ。公共機関とか銀行は開いてたりする。休みは週二日休まないと違法だから計画的に取れるらしい。
とはいえ休日の繁華街は人も多い。僕はメダとジグザと一緒にその繁華街の立派な造りの店にきていた。
「緊張するわねー……」
ジグザは硬くなっている。いや僕もだけど。
「学生に縁がある所じゃないのよね……」
メダの言う通り、普通の学生ならまず入らない店……向こう側で言う家電を扱う店にきていた。というのも僕の用事なんだけど。
「こういうとこにしかないらしいしさ……」
寮母さんに聞いてもチルさんに聞いてもザラ騎士団長に聞いてもファルル卿に聞いてもこういう店かマジの専門店(そっちのが高い)にしかないルルク=ビゼカ(ルビゼ)を買いにきている。
と言ってもスマホサイズのルビゼは既に持っている。求めているのはパソコン型のルビゼだ。
何故そんなものがいるか。今後のことというより僕個人の事情による。
ラカラクト侯爵邸での会食の後、寮に帰ると僕ら十二人には褒賞金が入っていた。騎士号を得たことでも俸給が入るんだけど、それ以上に目玉が飛び出たのは僕の冥獣討伐の褒賞金の金額だ。
単発で十万メント。
金貨十枚と考えると少なく感じるけど、まず王都で普通に生活するなら月五百メント(=銀貨五枚)あればいい。
日本円に直すと月五万円で生きられる人間が一千万円手に入れたと考えて欲しい。
一人暮らしを普通にするなら十年以上それだけで暮らせる計算になるとんでもない額だったりする。
これでも騎士団長は少ないと思うって言ってたの本当に不思議。
で、ケクママに使い道を聞いたら「自分の為に使え」と言われ、十分の一ママの口座に送ったけどなおあまりが九万メントあった。
九万もあれば家が買えるんだけど、手入れとか考えると現時点では幾らか使ってあとは溜めておいた方がいい。
のでバイトに使うルビゼを買うことを方々に相談してここにきた。バイトの認可が引き続き下りたってチルさんに話したら泣いて喜んでくれた。異世界翻訳シリーズはマジで売れてるらしいし、僕が騎士になったら辞めるものと思ってたらしいので。
で、問題はどれを選ぶかってこと。
「見ても全然分かんないな……」
一応色分けはされてるんだけど、色以外が大きさだけなので普通に困る。
「学生の方ですか?」
店員さんが声をかけてきた。
「はい。王立の生徒です。バイトで使うのにルビゼが欲しいなと思ったんですけど……標準的なので幾らくらいですか?」
とりあえず僕はパソコン買う要領で聞いてみた。
「ルビゼですと標準的なものでもお高くて、ここのものだと一万メントほどはしてしまうんですが……」
大分困ったように仰る。学生が一万メント持ってること自体まずないだろうしな……。
「こいつギド・ウィ・ロカルラです」
「えっ」
「一万と言わず二万でも払えるんじゃないの」
「えっえっ」
メダとジグザの言葉に店員さんはマジで焦った顔になった。名前はペカンで知れ渡ってるけど、顔は僕が秘の属性を持ってるのもあって(=第一種機密事項)公表されていない。
「あ、騎士徽章持ってます」
僕は自分の騎士徽章を取り出した。店員さんは恐れ多そうにそれを確認するとぺっこり九十度腰を曲げてお辞儀した。
「失礼致しました、ウィ・ロカルラ……こちらのものですと使いやすく、騎士様の任務にも使えるかと思いますが……」
見てみると一万メントなのは変わらない。要するに向こうより性能いいパソコンだし流通量少ないから当然かも知れないけど。
「使いやすさって見れますか? 結構文字打つんですよ」
「どうぞお試しください」
僕はちょっと起動して、キーボードを見た。
ホログラムの画面が浮かびキーボードは本体の板に浮かぶ。
マウスに当たるのは実質タッチパネル。ルーラシア語のキーボードは日本のキーボードで言うとかな入力がデフォみたいなので大分苦戦する。ルーラシア文字はひらがなかたかなみたいに母音と子音を区別せずに書くからアルファベットみたいなの(言語学分野での発音記号)は専門の記号を入力するモードにしないと出ない。
「なんか異次元の技術見てるみたいねー……ってかギドはなんで使えるのよ平然と」
「ギドってそもそも異世界にいたしこういうの強いのよ」
ジグザは僕がルビゼを使ってる所をあんまり見てない筈だ。メダがフォローしてる。
多分こっちでルビゼ当たり前に使う人からするとなんだこの素人、って感じに見えるだろう。でもちょっと使ってみると慣れてくる。
「画面も見やすいな……これで一万メントですか」
「はい。いかがされますか? もっと専門的なのですと高度な計算などできますが……」
クロツさん辺りはそういうの使いそうなイメージが勝手にあるけど、とりあえず僕はこれくらいまでしか使いこなせそうにない。
「いえ、これにします」
「ただいま商品お持ちします。それともお届けいたしますか。ルビゼは送料無料となっておりますが」
「ならお願いします」
「かしこまりました」
持って歩くのは色々と怖いことあるし、お届けにして貰った方が安心できる。王都の治安もいいけど、高価なものは最小限にしとく必要はある。
「ではお会計になります」
僕は財布を取り出して、高価なものだからと思って用意しておいた金貨一枚を渡した。
「はい、確かにお預かりしました……」
なんだかんだ店員さんもルビゼが売れるのはそんなに経験ないらしく、受け取る手が震えていた。でもこれで仕事で楽できそうなのはある。
「ギドって前世で何してたの?」
ジグザが気になったらしい。と言ってもそこは面白くもないんだよな。
「図書館で働いてたよ」
「エリートじゃない」
そうなの……? と僕はメダに目で尋ねた。
「こっちの図書館司書資格って難しいことで有名よ……古い書物の復元できないと取れないし。稼ぎは相当いいけど」
「え、そんなとこまで求められるの? 向こうでも痛んだ本の直し方とか覚えることはあるけど……」
そんな話をしながら、僕らは店を出てレビサットに向かった。どうせだからということで。
「でも、ギドって勤勉よねー。王都を救った英雄なのに学校ちゃんといくしバイトは忙しいしで」
頼むものを頼むとジグザが感心したように言った。
「って言うかバイト続ける必要あったの? 私達これから大分忙しくなりそうなのに」
メダもそこは気になるらしい。
「うーん……騎士としての俸給が入るって言っても、それは一定まで働きによるし、だったらそっちは貯金に回して自分で使うお金は稼ごうかなって。さっき買ったルビゼを持ってけば例えば雷都でも仕事できるし」
「勤勉よねー……」
「っていうか割とお金にシビアなのよね……」
二人とも何故か呆れている。ちなみに冥獣討伐の褒賞金は二人にも一万メントずつ入っている。僕が一番高くてあとの十二人(ファルル卿も貰ってる)は同額だ。ファルル卿は元から関わってたから別の手当もあるらしいけど。
「まあ何かしてないと落ち着かない性分なんだろうなって自分で思うよ」
僕は届いたコッコの香草焼きに手を合わせた。
「その両手合わせるのなんなのか分かんない」
ジグザの前でよく分かんないことをしてしまった……。
「向こうでも僕の国では食事の前と後に頂きます、ごちそうさまでしたって食べ物に手を合わせるの。なんて言うか慣習だから宗教的な理由とかではないけど」
「みんな普通にやってるのに疑問に思ったことなかったわ……!」
メダは昔から僕らに囲まれてるから疑問ってわけでもなくなるんだろうな……誰かが言ったのかと思ってたけど、単に本人がそういうものと思ってたものらしい。
「ふぅん……頂きます」
ジグザは目の前で僕の所作を真似して見せた。
「合わせてくれなくてもいいのに……」
「やってみたかっただけ。でも、悪くはないと思うわ」
そうだろうか。なんだか日常的な仕草を褒められるのってピンとこないものがある。
「じゃ、食べましょ。ポケラ・ルーラ」
ちなみに一般的なルーラシア人も食事に祈る。けどそれは人差し指・中指・親指を合わせて額につけるっていうルーラシア式の祈り方だ。
目の前には色とりどりの食事が広がっている。ジグザがあれこれ頼んでるので。そんなに食べられるのだろうか。
こんな具合で僕らの少しの休憩の日々は過ぎていく。
今後もこんな日々がずっと続いてくれればいいのに……と思っても、事件はまた唐突に起こるんだろうな。
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