第28話:ラカラクト邸にて
ファルル卿の家に到着すると、そこは屋上が一部平らな飛空艇の発着所になっている他は貴族の邸宅と言って分かるような所だった。
僕達十三人はその一室に通された。結構な人数での会議ができそうな広い部屋に円卓が一つ、椅子が幾つもついている。
「ただいまお食事を持たせますのでお待ちくださいねぇ~~~~」
何人ものメイドさんが忙しなく色々なものを持ってくる。こっちの世界だとメイドさんの露出度も異様なまでに高い。ミニスカにほぼビキニだ。そういうお店でもないのに普通にいっぱいいて寧ろ怖い。
「うえー……気ぃ抜いたら腹が減ったぜ……」
プオルがぐったりしている。
「ラカラクトから取り寄せたものが色々あるのでご自由にお食べくださいねぇ~~~~」
出されたものの中にはどら焼きみたいなものもある。ファルル卿と話す前にアマンから聞いたラカラクト焼きとやらだろうか。
「ジャモポッタもある……本当にありがとうございます、ファルル卿」
アマンは何やら鶏肉とジャガイモが一緒にソテーにされている食べ物を見て感極まっている。多分ラカラクト贔屓なんだと思う。
「いえいえ、来客は丁重におもてなしするのがラカラクト流ですからぁ。それで……」
ファルル卿の目が鋭くなる。
「牙の団(ダズグ=リンド)についてはまだお話ししていませんでしたねぇ」
僕の手がラカラクト焼きを持ったまま止まる。
牙の団……濁った闇ダレオスサを崇める『世界の敵対者』というのはファルル卿から聞いた話でしかない。
それがどんなものなのか、ということになるとまるっきり聞いてない。
「どのようなものなのですか?」
ジャモポッタを食べていたキールさんが尋ねる。恐らく全員気になっていることだ。
「まず、パカンナントの一節……『ダレオスサが女神ルーラの地にきた時、彼に魅入られた者がいた。彼女らは牙を持ち、王国の民に剣を向けた』……これが牙の団について触れた最初の記述とされます」
パカンナントの神話部分について言及されているということは、もう相当に古い集団だと言うことになる。
「その民は一部生き残り、現在まで王国に抵抗を続けています……と言って表立った紛争はありませんし、牙の団の者も結局この世界の人間、牙も生えていません」
「こけおどしっすか……」
プオルは何故かがっかりしてるけど、表立った紛争がないっていうのはかえって不穏だった。
「牙は隠すものということを覚えただけです。ルーラシアは概ね平和に動いていますが、今回のペリオ公女のように一部には現状に不満を持つ人がいます。その中でも権力者に取り入り、冥獣復活をはじめとする破壊活動を目論む……これが現在の牙の団であり、ペリオ公女に関しては被害者の側面もあります」
やっぱり、裏からテロに相当することをしているらしい。
そう言えば……と思う。
「シンザギが奪われたっていう話はペカン日報で見ましたけど……それも牙の団ですか」
僕が尋ねると、ファルル卿はこくりと頷いた。
「ペリオ公女の動きは寧ろシンザギを奪う為の布石でしかなかったようですね。呪物院は破壊され、警備兵が殺害されていました。下手人は現時点で不明……しかし、牙の団については明確な証拠を握っています」
ちらり、ファルル卿の視線がキールさんに向く。
「牙の団からペリオ公女に宛てられた書簡を発見し、騎士団に渡しておいた」
いつの間にかキールさんは発見していたらしい。騎士団に渡っているならもう精査されているだろう。殺された人に言いたかないけどそんな重要なものを見つかる所に置いてるペリオ公女が間抜けすぎて浮かばれない。
そこに何か手がかりが残っていたとしたら……恐らく、次の動きが見える。
「食事中に申し訳ありませんが……首謀者と思しき人物はこれです」
ファルル卿はルビゼをいじり、そこから一人の写真をホログラムで浮かばせた。
浮かんだのは白く長いまっすぐな髪の毛に凛々しく整った顔立ちの右目に眼帯をしている人物……名前は。
「〝独眼狼のシガンテ〟……元は野盗として指名手配されていた人物ですが、牙の団に拾われて動いているということが分かっています。王都の宿に彼女の目撃報告がありました」
ならばこのシガンテという人をどこかから探すことになるのか……と言っても探し人について僕達はなんの知識もないんだけど。
「既に王都にはいないという認識でよろしいですか、ラカラクト侯爵」
クロツさんが尋ねる。
「はい。いないと考えて間違いありません。ここ数日の調査でなんの尻尾もつかめませんでしたし、宮廷魔術団の方で総力を使っても発見できませんでした」
「どこにいるんだよぉー……探す当てなんてないぞ」
イグルの言う通り、僕らは本来この世界に存在しない異邦人みたいなものだ。当てはまったくない。
「問題であるのは……雷都の動きです」
「雷都ラドキゼガン……都公が現在王都にきていましたね」
マシスはペカン日報で書いてあったことをまだ覚えていた。
直接の引き金となったペリオ公女の親である雷都のドゥック・ラ・ラドキゼガン・ウィ・ベルケン・ディ・シュガルト・ギィ・リンゲン公爵は王都に呼び出しを喰らっているらしい。娘がやらかしていたらそりゃそうだろうけど。
「そこが問題ですね。いずれにしても騎士団の方の調査を待っての行動開始となります。場合によっては――」
ファルル卿はラカラクト焼きを半分に割った。
「雷都に向かうこともあり得ると考えてください」
雷都に――地図で見るに、ルーラシアの北西部にある都市にいくのは不安しかない。僕は帰ったらケクママに手紙を書いて、電話もしようと決めた。
「それまでは、各々学業に励んでください。特に、ジグザさんは慣れないことだらけでしょうから」
ジグザのことは本当に気にしておきたい。変な意味ではなく、これからの仲間として。
「そもそも……聞こう聞こうと思ってたんだけど、ジグザはどういう来歴なの? 詳しくは言えない?」
何か過去にあったのかも知れない。僕はそれが気がかりだった。
「……ライオ・メット孤児院。私が育ったジェケドットにある孤児院よ。そこで生まれて、義務教育終わってもいくとこなくて、ベルバに拾われて……ゼスとはそこでの同期。ギルゲラングにいた期間は短いけど、でももう未練もないわ」
未練もないっていうジグザの言葉が、酷く気がかりなのはどうしてだろう。僕らは過去は燃やしても燃やしきれないって知ってるからだろうか。
「そうなんだ……あれ、これからの保護者ってどうなるの?」
少なくとも、学院に在籍する以上後見人は必要になる筈だ。それは校則で決まっている。
「私がなりましたよ」
ファルル卿が穏やかに微笑んだ。この人なら大丈夫かな。
「って言っても本当に居候させておいて貰ってなんだけど、あんまり頼りたくないわ。貴族って正直喋りづらいし」
「すみませんねぇ、けれど他にいないあなたも大概なんですよ」
……いや大丈夫か? そう言えばファルル卿の年齢も知らないけど、ジグザくらいの子どもいる年……には全然見えないんだよなあ……年の離れた姉妹くらいの年齢差に見える。
「ま、結局寮生活だから暮らしは楽になるわ。女王陛下は仰ってなかったけど、褒賞金と騎士俸給出るし」
ジグザはニッカと笑った。
褒賞金。そう言えばそういうのが出るみたいな話は聞いた。って言ってもケクママの為に使う分が大半だろう……けど最近家も建て替えたし、何かあるかな……あとで聞いとこう。
「まあそれはおいおいでしょう。ひとまず今回はお疲れさまでした。騎士団か魔術団から話がくるまでは学業に専念してくださいねぇ」
地味にやることが多いな……チルさんにも連絡しなきゃいけないし。バイトは認可下りる限り続けるつもりだけど。
その後はファルル卿からルーラシアの話を聞いて、僕達十二人は学園に向かった。ジグザの引っ越しもあった。ほぼファルル卿の使用人がやってくれたので僕らの出番はなかったけど。
そして、また日常が始まる。
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