第10話 イルカ系陽キャの急な落ち込み
昼休み
海野陽太(うみの ようた)は、今日も絶好調だった
「こころちゃん! 昨日のドラマ見た!? あのラスト、マジでヤバかったよな!」
「あ、うん。見たよ」
「だろ!? 俺さ、感動して泣いちゃってさ! で、すぐにグループLINEに感想送ったんだけど、みんな寝ててさー!」
陽太は身振り手振りを交えて、マシンガントークを繰り広げている
彼の周りには常に人が集まる
明るくて、元気で、誰とでも仲良くなれる
まさにクラスの太陽
……いや、テンションの高さからして、イルカショーのイルカだ
「でさでさ! 今度の休み、みんなで海行こうぜ! まだ寒いけど、海見て叫ぼうぜ!」
「え、海?」
「そう! 青春って感じじゃん! 『バカヤロー!』って叫ぶの!」
陽太はキラキラした目で言った。
私は……正直、少し疲れていた。
昨夜は課題で寝不足だし、今の私は静かに過ごしたい気分なのだ。
「……ごめん陽太くん。私、ちょっとパスかな」
「えっ」
「なんか、今日は疲れてて……元気ないんだ」
私が正直に言うと、陽太の動きがピタリと止まった
さっきまでのハイテンションが嘘のように、表情がスッと消える
え
なに今の
スイッチ切れた?
「……そっか。ごめん」
声のトーンが、3オクターブくらい下がった
「俺、うるさかったよな。ごめん、空気読めなくて」
「え、違うよ! 陽太くんが悪いんじゃなくて……」
「いいんだ。俺、よく言われるから。『お前といると疲れる』って」
陽太は自嘲気味に笑った
その笑顔が、痛々しい
普段の彼からは想像もつかないほど、ネガティブなオーラが出ている
「俺、調子乗りすぎちゃうんだよな……。みんなに合わせてるつもりなんだけど、空回りして……」
陽太は机に突っ伏した
背中が丸まっている
水族館の隅っこで沈んでいるイルカみたい
ショーが終わった後の
「陽太くん……」
私は罪悪感に襲われた
そんなつもりじゃなかったのに
彼は「陽キャ」の仮面を被っているだけで、中身は意外と繊細なのかもしれない
ガラスのハート
「……うざくないよ」
「え?」
「陽太くんの話、楽しいよ。ただ、今の私がついていけないだけ」
私は彼の背中をさすった。
「いつも元気くれてありがとう。陽太くんがいると、クラスが明るくなるよ」
それは本心だった。
彼がいなければ、このクラスはもっと静かで、つまらない場所になっていただろう。
陽太が顔を上げた。
その目は、少し潤んでいた。
「……本当?」
「本当」
「俺、いてもいい?」
「いてくれないと困る」
私が言うと、陽太の顔に、パッと光が戻った。
「よかったぁぁぁ!!」
ガバッ!と起き上がり、陽太は私に抱きつこうとして――机の角に腰を強打した
「ぐえっ!!」
「陽太くん!?」
彼は床に転がりながらも、なぜか笑っていた
「痛ってぇ! でも嬉しい! こころちゃん、サンキュー!」
「もう、落ち着きなよ……」
なんなのこの生き物
痛覚バグってる
私は呆れながらも、手を差し伸べた。
陽太はその手を握り、力強く立ち上がった。
「よっしゃ復活! 俺、これからも全力でこころちゃんを楽しませるから!」
「ほどほどにお願いね」
陽太はニカッと笑った。
その笑顔は、やっぱり太陽みたいに眩しかった。
検証結果。
『イルカ系男子は、テンションの乱高下が激しい。褒めると即浮上するが、物理的なダメージ(自爆)には注意が必要』
……見ていて飽きないけど、心臓に悪い。
(第10話 完)
次回予告:
「あと5分……いや、あと10分……」
ナマケモノ系男子・樹懶太郎とのデートは、遅刻から始まる!?
「一緒に寝よう?」
公園のベンチで、芝生の上で。
どこでも寝てしまう彼との、究極のまったりデート。
次回、第11話『ナマケモノとのゴロゴロデート』。
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