第6話 精霊と妖精の好きなもの
ファグルの森の朝。
ドレグアのレストランは、いつにも増してにぎやかだった。
入口の扉を開けた瞬間、ぱあっと光の粒が飛び散り、店の中を舞いながら弾ける。
「ドレグアー!今日のデザートは何!?」
「甘いの!甘いの食べたい!」
「いや、まずは光のスープだろう。最近味が変わったと聞いた。」
店中をせわしなく飛び回るのは、手のひらほどの小さな妖精たち。
その横では、人の姿をした精霊たちが静かにカウンターへ列をつくっていた。透き通るような肌、風のように揺れる髪。見た目はほぼ人間だが、体の周りを漂う淡い光が“精霊である証”だった。
ドレグアはと言えば、鍋を振りながらため息をひとつ。
「……今日は祭り明けの反動だな。精霊と妖精が揃ってテンション高い。」
カウンター横の椅子には、縮小した姿のズバニがどっかり座って見物していた。
「まあ良いではないか。賑わいは森の健康の証じゃ。」
* * *
妖精たちはカウンターに群がる。
「ドレグア、光蜜ジュースちょうだい!」 「わたし苺のやつー!」 「ぼくは苔シロップ多めで!」
「順番に言え。聞こえん。」
ドレグアが片手で鍋を混ぜながら、もう片手で魔法陣に触れると、カップが三つふわりと浮かび、
それぞれ妖精たちにストンと渡された。
「光蜜、苺、苔。 砂糖は……妖精の腹に優しい量にしてある。」
「やったー!!」
妖精たちは光るカップを抱えてくるくると飛び回り、店中が甘い香りに包まれる。
そんな中、落ち着いた声が響く。
「ドレグア、今日の“溪流スープ”はあるか。」
精霊の一人、水の精霊エレナだった。涼しげな青髪を揺らし、静かに席へ座る。
「ああ、ある。泉の魔素が強いから味がよく出ている。」
ドレグアが器を差し出すと、エレナは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。……やはり、あなたの作るスープは落ち着く。」
「あんたの中身が水だから相性がいいだけだ。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
精霊たちの“好きなもの”は分かりやすい。落ち着いた味、自然の深い香り、そして魔素の流れが舌に響く“静かな料理”。
一方、妖精たちはというと……
「甘いの!」 「きらきらしてるの!」 「泡がぴょんぴょん跳ねるやつ!」
完全に子どもだ。
ドレグアはそれに合わせて、妖精用のメニューをこっそり増やしていた。
光蜜プリン、きらめきクッキー、跳ねる泡ゼリー。
どれも“味より見た目”が重要らしい。
ズバニが横からぼそっと呟く。
「精霊は静かな湖、妖精は跳ね回る魚……じゃな。」
「魚扱いはやめてー!」
妖精が一斉に抗議するが、ズバニは意に介さず。
「事実じゃろ。」
その時、ひときわ明るい光をまとった妖精ニルタがカウンターに飛んできた。
「ドレグア!新作の“星の欠片パフェ”!あれ食べたい!」
「まだ試作段階だ。味が安定してない。」
「味なんていいの!光ってればいいの!」
「……妖精基準は理解に苦しむ。」
「ズバニも食べたいでしょ!?」
ズバニは胸を張るように枝を揺らし、
「わしは静かなスープで良い。」
「もーーっ!!ズバニは堅物!」
「木じゃからな。」
そんなやり取りを眺めながら、ドレグアは鍋を火から外し、静かに呟いた。
「まったく……今日は騒がしい。」
精霊たちが静かに笑い、
妖精たちがまたひと騒ぎし、
ズバニが時々ツッコミを入れる——
その光景は、いつもの森の賑やかさそのものだった。
そして、ドレグアの店は今日も満席。精霊も妖精も、人も獣人も、好きなものを抱えて笑い合っている。
森が喜んでいる気配が、ふわりと店内に満ちていた。
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