働かない時代
☆白兎☆
働かない時代
人間が働かなくても生きていける時代がやって来た。
それはどんな仕組みなのかを、ここで説明しておこう。
全ての作業はAI又はロボットが担う。人間が担うのはポッドに入って、その脳を活動させる事だ。
どういう事かと言うと、AIに学習させるため、人間の脳から情報を与えるという事。その間、人間はただ、ポッドに横たわり睡眠状態でいるだけ。要するに、寝ている間に、AIに情報を与えているのだ。それが、人間の担う役割となった。それだけで、この社会は回っていく。お金という概念は残っていて、仮想通貨の数字が彼らの財産であり、これを使って支払いをしている。もちろん、AIへ情報を与えれば、それが報酬として支払われる。
便利な時代になったと、古い人間は言うが、それと同時に虚しさを口にした。
「昔はもっと人間が働いて活躍していたものだが、今はどこに行っても、働いているのはロボットばかりだ」
そんなボヤキを言うのは高齢男性で、今、喫茶店でコーヒーを飲んでいる。
古い時代の懐かしい雰囲気の店だが、古い建物ではない。ただ、一定数の人間が、このような店を好んでいるというデーターの元に作られたのである。ここに来ている者たちがそうだった。
昭和という時代のノスタルジーが漂うこの空間では、ゆっくりと時間が流れていた。天井も壁もダークブランの木製。薄暗さを感じる店内を照らすのは、天井から吊るされたピンク色の花をモチーフとした笠付きの照明。カウンターの背もたれ付きの椅子もダークブラウンの木製で、窓際にある赤いビロード生地を張った椅子が、外から射しこむ陽に照らされて、微かに艶めいている。何処を見てもこれが新しいものだとは思えないほど、精巧に作られている。そして、さり気なく置かれているレコードプレイヤーが原始的な音で音楽を奏でていた。これも新しいものである。AIやロボットが何もかも正確に作る世界の中で、人間の労働など必要ないのだと、誰も実感していた。
そんな完璧な世界、完璧に作られた懐かしい雰囲気の喫茶店で、高齢男性には、ただ一つ気になる事があった。
この店のマスターは、五十年前の高齢男性の姿を完璧に模したロボットだった。
働かない時代 ☆白兎☆ @hakuto-i
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