第43話 サーヴァントって何?

「うっ…!」


魔王は目をこすった。

また前を向いた時、そこにあるのは夢魔の顔ではなかった。暗い空間に赤く燃える蝶が飛んでいた。


「きれい!」


蝶はだんだん遠ざかっていた。周囲を見回した後、魔王は蝶を追いかけた。しばらくして明るい所に着いた。

孤児院の前で一人の女性と子供たちが向き合っていた。蝶が彼女らに近づいていくのが見えた。魔王が孤児院の前を通りかかった時、


「彼には君たちなんて要らないのよ!」


と女性が叫んだ。魔王はびっくりして声がした方向に振り向いた。女性が子供たちに背を向け、早足でその場から離れていた。


「ママ…」


赤ん坊を抱え、よちよち歩きの子供の手を引いた十歳くらいの少女が呟いた。


「あの子、なんかセナちゃんと似てるような…」


魔王は首を傾げたが、蝶は止まらず先へと飛んでいくので、子供たちを置いてそれを追った。

また暗い空間を通り抜けると、そこは薄汚れた裏路地だった。


「稼ぎはこれだけか!」


怒号と共に、乾いた音が響いた。

バチン!

男の人の平手が十五歳くらいの少女の頬を打った。彼女は衝撃で地面に倒れ込んだ。握りしめていた数枚の硬貨が手から滑り落ち、チャリンと音を立てて石畳の上に散らばった。


「申し訳、ありません…」


少女は震える声で謝った。しかし男の人の目には軽蔑の色しか浮かんでいなかった。


「まったく、役立たず。物乞い一つ満足にできないなんて。」


男の人は舌打ちをして背を向けた。遠ざかっていくその冷たい背中に向かって、セナは這いつくばったまま声を出した。


「次はもっと頑張ります…院長先生…」


燃える蝶が少女の周りを舞った。


「大丈夫?」


魔王が聞いた。しかし少女は魔王の声が聞こえていないかのように立ち上がって人の賑わう町に出た。蝶が少女の後を追ったので魔王もそれに続いた。

少女は日が暮れるまで物乞いをし続けた。だが、稼いだ金は少なかった。少女は暗い顔でどこかに向かった。


「あれはさっきの孤児院?」


魔王は呟いた。孤児院の前では少女より小さい子たちが待っていた。


「おねえちゃん!」


声を揃えて叫びながら走ってくる男の子と女の子。


「フレイヤとリーフじゃん!」


二人は疲れた少女の片足をそれぞれ抱えた。少女の顔がぱっと明るくなった。

景色が歪み、また暗闇が訪れた。 次に蝶が舞い降りたのは、立派な屋敷の前だった。見覚えのある高い門。それはシグリッド家の正門だった。


「やっぱりあれセナちゃんだ!」


魔王は正門の前に立っているセナの側で足を止めた。中に、メイドがフレイヤとリーフを連れて遠ざかっているのが見えた。


「どこに行くの?」


魔王はその二人を呼びながら屋敷の中に足を踏み入れた。


「心配しないで。あの子たちには、ここの方がずっと良い環境だから。今までとは違って幸せになれるわ。」


上品なドレスを着た婦人がセナに言った。


「はい。あの子たちを、よろしくお願いします。」


セナは深く頭を下げた。

ガチャン。

冷たい音と共に、重厚な鉄格子の門が閉ざされた。そのため、魔王とセナの空間も分断されてしまった。こちら側は光に満ちた世界。門の向こう側は薄汚れたセナだけが取り残された世界。


「え?」


魔王が振り返ると、いつの間にかセナの世界は物置の部屋になっていた。セナは鉄格子を掴み、額を押し当てて呟いた。


「私は必要とされていない…私みたいな人にはここが相応しい…」


燃える蝶が鉄格子についた。蝶の羽の火が周りに移って、部屋全体が炎に覆われた。


「ダメ、セナちゃん!」


魔王は慌てて鉄格子を鷲掴みにした。


ギギギギッ!


凄まじい金属音と共に、太い鉄の棒が飴細工のようにぐにゃりと曲がった。魔王は力任せに鉄格子を左右にこじ開け、その隙間から強引に物置の部屋へと侵入した。


「セナちゃん!」


魔王は必死にセナの名前を呼んだが、セナはもう見えなかった。魔王は全身が熱くなるのを感じた。その熱はだんだん右目に圧縮され、焼けた刃物で目を刺されたように激痛が走った。


「痛っ!」


魔王は両手で右目を覆った。しばらくして、痛みは消え、右目から灰が零れ落ちた。


「ちっ、魔族には通じぬか。『洗脳ブレイン・ウォッシュ』をぶち破るとは。」


夢魔は悔しそうに呟きながら眼帯をつけた。気がつくと、魔王は夢魔の前に戻っていた。


「今、なんだったの?」

「『ナイトメア』の欠片を埋め込んだだけだ。汝をこの『ナイトメア』と『同調シンクロ』させ、『フレンド』として迎えるために。」

「じゃ、あたしたちはもう友達?」


魔王はパッと笑顔を咲かせて聞いた。


「『ノー』だ。汝は我の『フレンド』たる資格を持たぬ。『検討テスト』は不合格だ。」


ガーン!

魔王の胸の底に何か重いものが落ちたような音がした。もう遠くへ投げられてしまう!


「どうしよう!」

「嘆かわしいことだ。あの剣士は『容易イージー』に『ナイトメア』の欠片を受け入れ、『下僕サーヴァント』になったというのに。」


実は魔王は『サーヴァント』が何なのかよく分かっていなかった。


「サーヴァントになる他に友達になる方法はないの?」


魔王は必死な思いで訴えた。夢魔は魔王の態度が気に入ったようにニヤリと口角を上げた。


「良かろう。汝のその必死な『情熱パッション』に免じて、特別に『最後の機会ラスト・チャンス』を与えてやろう。」

「本当?ありがとう!」


魔王は安堵のため息をつき、胸を押さえた。これでまた空を飛ばずに済む。


「これから『晩餐会ディナー』を開催する。汝も魔族ならば、語り合おうではないか。人間界の『支配ドミネーション』について!その答え次第で、汝の『運命デスティニー』を決めてやる。」

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