第25話 聖水は売らない、喧嘩なら買います
「お前、何じろじろ見てやがる。聖女がタバコ吸ってるのに不満でもあるか?」
聖女と出くわした以上戦うしかない。いくら聖女だと言っても魔王を目にしたことはないはず。魔王は機先を制するために怒鳴ろうとしたが、怖くて声が出なかった。
「あたし、魔王だけど…」
純白の修道服を着た聖女は唾を吐いて立ち上がり、魔王に近づいた。
「ヒイイっ!」
魔王はビビって両手をあげ、身構えた。
「聖女様!」
「ここにいましたか!」
何人かの信徒たちが魔王の後ろから出て、聖女の前に揃った。みんないい服を纏っていて貴族や商人のように見えた。
「なんだお前ら、休みの時間だというのに。」
信徒たちは聖女の不機嫌そうな様子は気にせず口々に言った。
「単刀直入に言います。私に聖水を売ってください!」
「私が先よ!」
「聖女様!教会新築の件、建設代は私が全部払いますから。売ってください!」
聖女は一層眉をひそめた。
「聖水は売る物じゃないって言ったんだろうが。 聖水は女神様の意思を示すためのものだ。」
「他の教会ではもう売っています!」
「なら、そっちに行けばいいだろう。」
信徒の中から宝石で身を飾った男が一歩前に出た。
「聖女セラフィーナ、あなたは誰より強い聖力の持ち主です。私たちはただ前途有望なあなたに機会をあげたいだけです。あなたの聖水を事業化すれば、この教会ももっと繫栄するでしょう。」
「だから病める貧乏人や怯える一般信徒を見捨ててお前らの事業に聖水を提供しろって?皺をなくす薬と車輪の艶出しなんかを作るために?」
誰も直接肯定はしなかった。だが否定もしなかった。
「もっと価値のあることに使おうって提案です。」
「女神様でも売れって言ってんのか。」
「今の時代、売れないものでもないでしょう。」
魔王は信徒たちと聖女が口喧嘩をする間、こっそりと逃げようと思った。その時だった。
「黙れ!カスども!」
聖女は吸っていたタバコを投げ、袖からナックルを出し、手に付けた。そして宝石の男から順番に信徒たちを殴り倒した。
「なんて乱暴なことを!」
「いくら聖女だからと言って貴族を傷つけて無事に済むと思うんですか!」
魔王は驚き、しゃっくりをして立ち止まった。
「誰が傷ついたと?」
聖女は聖力で信徒たちを治療してやった。
「下がれ。そうしないと殺す寸前まで殴って治療して殴って治療するぞ。」
信徒たちは角を曲がって逃げて行った。魔王も彼らについて行こうと思ったが、
「お前はこっち来い。」
と、聖女に呼ばれた。
聖女は魔王が想像していた通りの人物だった。口が荒く相手を圧倒する力の持ち主。脅迫に長けた人格破綻者。魔王は動けなかった。すると聖女が近づいてきた。
「お前も聖水貰いに来たんだろう。」
魔王はびっくりした。それをどうやって…?聖女は本当に心を見通しているようだった。
「そ、それは…」
「聖水は何に使う気なんだ。」
魔王は聖水を盗みに来たのがバレたような気がして声が出なかった。聖女が怒鳴った。
「さっさと答えろ!」
その声は自分の声より大きかったので魔王はつい敬語を使った。
「宿に幽霊が出まして!」
魔王は目をぎゅっと瞑った。彼女は聖女に殴られるのを待っていた。だが、魔王が打ち倒れることはなかった。魔王が目を開けたらナックルの代わりに透明な瓶が見えた。
「持って行け。」
「これって…?」
「聖水に決まってんだろう!」
「ヒイッ!」
魔王は瓶を手に取って頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「心配すんなよ。聖水は誰にも売らない。俺はお前らの味方だ。本当に聖水が必要な者たちさ。」
聖女はにっこりと笑った。
礼拝の始まりの鐘が鳴り、聖女は教会に入った。魔王は手の聖水をみながらぼんやりとしていた。何もしていないのにどうしてか聖女が味方になった。
「やっぱりあたしって偉い魔王だもん!」
暫くして、魔王は嬉しそうにうたたねの宿に帰った。後は幽霊を退治するだけだ!
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