第16話 大屋敷の罠

魔王は大きなロートアイアンの門を見上げた。


「城みたい…」


略図によればここは間違いなくフレイヤとリーフの住んでいる家だった。こんなに巨大な屋敷だとは…魔王城には及ばないが、魔界の貴族の小城とは比べられるほどだった。


「あの、ここフレイヤとリーフの家なの?」


魔王は門の向こうに立っている門番に尋ねた。


「どちら様ですか。」

「あたし魔王のユリア。配達に来たんだ。」

「ああ、マオウノ・ユリア様。お待ちしておりました。」


門番は門を開けてくれた。魔王はおそるおそる中に入って玄関の扉に向かった。魔界の貴族たちは魔物を飼う場合が多かったので、彼女はこの屋敷でもどこで魔物が出てくるか分からないと緊張した。それでいつでも逃げられるよう身を構えて進んだ。

勿論、魔物に会うわけはなかった。無事に扉に着いた魔王はライオンヘッドのドアノッカーでノックした。すると、ライオンヘッドの目が魔王を見下ろした。


「ヒイイッ!」


気を抜いていた魔王はびっくりして一歩下がった。


「マオウノ・ユリア様。ようこそ。」


ライオンヘッドから声が出ると扉が自動的に開いた。中では白髪の執事が立っていた。


「マオウノ様。シグリッド家へようこそ。坊ちゃんとお嬢様が食堂にてお待ちになさっています。さ、こちらへどうぞ。」


魔王は執事の後ろについて長い廊下を通った。食堂に着いたら執事は丁寧にお辞儀をし、去って行った。リーフとフレイヤは魔王城にあるものと同様に長く大きい食卓の前に座っていた。彼らを見つけた彼女は大きな声で挨拶をした。


「フレイヤ、リーフ!お久しぶり!」


すると、


「コホン。」


とユーズが魔王に注意する時よく使っていたような咳払いが傍から聞こえてきた。あり得ない。と焦って魔王は声が出た方向に向いた。そこにユーズはいなかった。ただメガネをかけた人間のメイドが待機していた。


「シィー。」


魔王と目が合ったメイドは人差し指を口元に当てて見せた。魔王はビビって両手で自分の口を塞いだ。メイドってやっぱり怖い、と魔王は思った。


「ユリアねえちゃんおひさしぶり。」


いつの間にフレイヤが近づいて魔王の手を掴んだ。その子は初めて会った時と同じく魔王の手を引っ張って食卓までつれて行った。近寄ってくる魔王にリーフは言った。


「きょうはみちにまよわなかったんだ。」

「うん!今日は工事が終わっていたんだから!」


魔王は背負っていたカバンからセナの作ったグラタンを出して見せた。フォークも一緒に出そうとしたが、食卓にもう食器が準備されているのを見て止めた。


「おいしそう!」


魔王が食卓に置いた料理をみてフレイヤは歓声をあげた。


「あながあいている。」


リーフは首を傾げた。彼が言った通りグラタンの表面にはスプーンですくったような丸い穴が開いていた。


「え?ほんとうだ!」


リーフとフレイヤは同時に魔王を見上げた。二人と目が合った魔王は視線を避けた。


「えっと、それは…グラタンが冷めてはいないかなと思って、カバンを開けてみたらいい匂いがするから…仕方なかったもん。」

「え、ひとくちたべたんだ!」

「ごめん…」


魔王は言い訳のしようがなくて両手の人差し指の先を合わせるだけだった。


「やっぱりセナおねえちゃんのりょうりっておいしいんだ。」

「ぼくがはいたつやってたらぜんぶたべてしまったかも。」


その二人は怒るどころか笑った。魔王はほっとした。


「じゃ、冷めないうちに食べよう!」


魔王は食卓の席について両手にスプーンとフォークを持ち上げた。


「ユリアねえちゃん、まって!ほかにもたくさんあるから。」


フレイヤが食事を始めようとする魔王を止めた。


「うん?」


魔王は疑問符を浮かべた。リーフは魔王に注意したメイドを呼んだ。


「メイド長。だしてくれ。」


メイド長はそれを聞いた途端、拍手を二回した。そうしたらすぐにサービスドアが開かれ、料理を持ったフットマンたちが並んで入ってきた。

フレイヤとリーフは慣れているようにナプキンを付けた。魔王にとっても使用人たちが並んで料理を運んでくれるのは不思議なことではなかったが、彼らが持っている料理に目を奪われてしまい、ぼんやりとしていた。

フットマンたちは食卓の上に料理を置き、器用な動作で料理を子供たちと魔王の皿に取りわけてくれた。最初はローストビーフ二枚、次はマッシュポテト、ガーニッシュ…だんだん盛り付けられていく自分の皿を魔王はキラキラの目で眺めていた。


「えっ?」


煌めいていた魔王の目は一瞬で濁ってしまった。皿に最後に置かれたものがピーマンであったからだった。

フットマンたちは下がった。給仕の為に一人につき一人ずつ残り、ほかの人はまたサービスドアを通って出て行った。

魔王は逃げ道でも探すように慌てて周りを見回した。サービスドアはもう閉められた。食堂の入り口はまだ開いていたが、メイド長がそれを閉めて前に立った。魔王はそんなメイド長と目が合った。メイド長は冷たい微笑みを見せた。


「ヒィッ!」


その冷たい微笑みは厳しいユーズのそれとそっくりだった。魔王は唾を飲み込んだ。この食事って罠だったのでは!

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