第10話 居場所

「し、失礼します」


 そっと襖を開ける。

 襖は何も音を立てずにすっと開いた。

 少し怖かったため、顔だけで覗き込むようにして部屋の中をのぞき込む。

 部屋の中では、四人の影が円になって座っていた。

 そのうち三人が青年、一人は少女。

 四人は琴を不思議そうに眺めたあと、襖から覗く聖職者の衣を見て、顔をほころばせた。


「わぁ。あなたが聖琴師?」


 唯一の少女が琴に近づいて来た。

 琴よりも背が高く、大人っぽい顔立ちなのに、その顔には少女らしい満面の笑みを浮かべている。

 向日葵色の衣を着こなしていて、その色に負けないような笑顔だった。


「は、はい」

「可愛いね! わたし、夕海ゆうみ。聖衣師よ。よろしくね!」

「よろしくお願いします」

「女の子が来てくれて嬉しいよ! とりあえず、中に入ろっか」


 夕海が琴の腕を引っ張る。

 織也はその様子を見てにこにこと笑うと、琴をとんっと押した。


「わっ」

「ほら、行ってこい。……皆さま、後に主上がいらっしゃいますので」


 襖が閉じられる。

 部屋は先ほど着替えた部屋の座敷よりも広く、五人で座ってもまだまだ余裕があるほどだ。


「ここへどうぞ」


 ひとりの青年が夕海の隣に円座を持ってきてくれる。

 皆で、広すぎる部屋の中心に円なって座った。

 良い香りのする畳、生けられた美しい花。豪華絢爛ではないが、居心地の良い質素な美しさのある部屋だった。


「あ、ありがとうございます」


 静かに円座に腰を下ろした──はずだが。


「わっ」


 緊張のあまり、どすんと音を立ててしまった。


「ううう」

「緊張してるな。大丈夫か?」


 涙目になっていると、一番年長らしき青年が笑った。


「緊張しなくて大丈夫だ。俺たちは今日から仲間なんだからな」

「お、良いこと言う!」

「どうだ。かっこよく見えるか?」


 えへんと胸を張る姿に、思わず笑ってしまう。

 一番年上っぽく見えるのに、なんだか仕草は子どものように無邪気だ。その明るさに、緊張が一気に溶けていく。


「おお。笑ったか。よかったよかった」


 皆が優しい笑顔になる。

 その笑みにほっと安心した琴は、ぺこりと頭を下げた。


「初めまして。聖琴師を承りました、琴と申します。よろしくお願いします」

「まぁまぁ、そんなに固くなるなって。俺は凛太郎りんたろう。聖食師だ。よろしく」


 年長の青年──凛太郎が気さくに笑う。


「僕は将大まさひろだよ。聖香師。よろしくね」

「あ、この建物に入ったとき……」

「そうそう。あれ、僕が香を焚いたんだよ。気づいてくれたんだね。ありがとう」


 円座を持ってきてくれた将大がにっこりとした。


「俺の名は涼人すずと。聖薬師だ。これからよろしく頼む」


 涼人と名乗った青年は静かに礼をした。

 一番大人っぽい雰囲気だ。


「そして、わたしが聖衣師の夕海だよ! よろしくね!」


 夕海が琴の両手を取り、上下に激しく動かす。


「わわわ」

「おいおい。あっという間に仲良しだな」

「いや、一方的な夕海の接近じゃないかな」

「まぁ、仲良しでなによりだ」


 会ったばかりなのに、仲間のすべてを受け入れ、笑い合う姿に心が暖かくなる。


「ねぇ、琴。君は箏の才能がすごいんだって? 誰に教わったの?」


 将大がにこにこと話しかけてくる。

 琴は夕海と打ち解けたことにほっとしながら、将大を見た。


「私の師は祖父と母です。けれど、母は亡くなってしまって。祖父は殿上人だったので、そんなには教わっていないです」

「じゃあ、その間はひとりで?」

「はい。姉や兄がたくさんいましたが、わたしは迫害されてたので」

「迫害!?」


 凛太郎が目を丸くする。


「実は、私……」


 琴が言いかけたとき。

 すっと襖が開いた。


「楽しそうだな」


 威厳のある声。

 それでいて柔らかく、どこか安心感のある声色。


「主上!」


 朝陽だった。

 開けられた襖の向こうに立つ帝は、後光が差しているかのような神々しさだった。この世とは思えない美しさに、琴は改めて呆然とする。

 そんな中、四人の聖職者たちは一斉に礼をした。帝に対する最高礼を、優雅な仕草で行ってみせる。琴も、慌てて礼をした。

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