第10話 遊びの終わり
私はくやしさ半分で、泥混じりの雪を蹴った。
(これは、賢者としては、あるまじき行為だな)
やってすぐに反省するが、それと一つ妙案を思い付いていた。
「やめだ、私を引退した賢者だと思って、団員もどうも遠慮がちだからな」
実際は、知らん。
裏でガレスが私を倒したら褒美を出す話をしているほうが、実際ありそうだ。
「しかし、あと3人、もうその気になっていますので」
ガレスはやれやれという顔で言った。
「そう言うと思った」
私はポケットの中から魔石を取り出した。
「他の連中も参加してもいいぞ」
そう言うと、私は握った魔石に力を込めた。
そして、拳をそのまま地面に付けて、私を囲んで青白い魔法陣が展開された。
合計5つ、その魔法陣の中から、土くれが盛り上がって人の形になっていく。
団員の中から、おおっと声が上がった。
大柄な土人形の手に、土製の棍棒が握られていたからだ。
「私の代わりだ、存分に日頃の成果を見せてくれ」
私は土人形の間を抜けて、窓際に歩き始めた。
私は、小屋の修理や、小さな田畑の修理という単純作業に土人形を使っている。
使うたびに、細かな動きができるようになる。
ただ戦闘は、昨晩、おとりとして初めて使った。
それがどうしたってレベルだったが…
だいたい、土くれだから、動くと摩擦する箇所が乾いて崩壊する。さっきの炎なんか浴びたら、終わりだな。
気が付くか、それとも承知の上で力技で倒そうとするかな。
振り返ると、団員達が土人形を囲んでいる。
「それなりに、採点するからな、な、ガレス副長」
異論はなさそうだ。
私は、小屋の窓際に着くをセルケトさんに言った。
「お茶を淹れてくれないか」
「え、もうフィアスは戦わないの?」
「ああ、君のためじゃないからね」
「やだ、こんなところで」
と、答える後妻は、ワザとっぽく、両手を頬に当てるとお茶を淹れにいく。
煽るのは天才的だな、まじで。
私は振り返って、土人形の戦闘方法に変化を加えていく。
「さすが賢者殿、これは訓練に便利ですね」
私の横にやってきた、ガレスがこれは、私を褒めたのかな?
「お前のところでも、これぐらいできる術者はいるだろう?」
「いない事はないですが、団員の指導ではなく、前線に出てますよ」
「どこも人材難かぁ」
そう答える私の背中のいきなり冷たいモノが入って、ひゃっと声を出してしまった。
「隙ありですわ、お父様」
リベリアがツララの破片を入れたのだ。
(妙に大人しいと思ったら)
ケラケラと笑うリベリアの可愛いが、場所を弁えてほしいものだ。
「気分転換に、参加すれば、リベリアちゃん?」
「炎で炙ったら終わりでしょ、それに地面は泥んこだし」
愛娘のその言葉に、反応したのは、私だけじゃなかった。
「もう、わかってても黙っててくれないと」
ガレスのしかめっ面どおり、団員の一部が炎の魔法を使い始めた。
ちなみの、氷の魔法を使っても正解だ。
土の中の水分が凍って膨張すれば、バラバラになる。
ふと、庭の向こう、複数の賑やかな声がする。
おそらく私達のお迎えのようだ。
お茶を啜りながら、セルケトさんに言った。
「さあ、新婚旅行に出かけようか」
「はい、旦那様」
彼女の口調には、一切の不安を感じ取れなかった。
その期待には、応えなければと思う。
「はい、お父様」
えっ、そうなの?
訳ありエルフを嫁にするため、現役復帰を決意した元賢者の俺 ささやん @daradarakakuo
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