第三章 風の子
昼の作業を手伝うのが、イリスは大好きだった。
父は風車の羽根を外して錆を落としていた。
羽根の縁に指が触れた瞬間、イリスは背中が熱を帯びた様に感じた。
そして、風が体の間を優しくすり抜けていく。
『火を優しく包んであげると、風が生まれるよ。』
どこかから、そんな声が聞こえた気がした。
まだ、飛ぶことを知らない。ただ、風の速さを覚えはじめていた。
その日の午後、父が風車の修理を終えると、
イリスはおどけて羽根の根元に立った。
「ねえ、風って、押してくれたりする?」
「押すけど、叩きもする。」父が答える。
「どっちでもいい!」イリスは笑い、両腕を広げた。
突風が丘の向こうから吹き上がった。
体が一歩分浮き、足もとで砂埃が渦を描く。
母が思わず声を上げていた。
イリスは笑っていた。
「ねえ、いまちょっと浮いたよ!」
「気のせいよ。」母は眉をひそめたが、
笑いをこらえているのが分かった。
父は小さく息をついて、風車の羽根を軽く押した。
羽根が回り、また風が吹いた。
イリスは風の音と一緒に走り出した。
足が地面を蹴るたび、少しだけ空気が軽くなる。
「風って、こわくないね!」
「そう感じるのは、お前くらいだ。」父が言う。
母は笑って手を振った。
「転ばないようにね!」
その声が風に乗って流れる。
イリスは顔を上げ、空を見た。
雲が遠く、陽が高い。胸の奥少し熱い。
——たぶん、いつか飛べる。
根拠はないけれど、そう思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます