能無しの烙印を押され、勇者パーティーを『追放』された俺が、実は『最強』だった『不浄』の力で、気づけば『英雄王』に成り上がっていた件

一 弓爾

思わぬ追放編

第1話 勇者パーティー追放

「ヴェル……お前がいると迷惑だ。もういらねぇんだわ。お前みたいな荷物持ち野郎」


 滞在している宿の一室で、勇者オーレンから無慈悲に俺に声が刺さる。


 オーレンは勇者パーティー〝ルミナス・ブレイヴ〟のリーダーだ。


 短く刈り上げた青い髪が特徴的で、黄金の勇者の鎧を身に纏い、威圧感がある。


「迷惑って……なんで急にそんな話に……⁉ 俺は戦闘中、ヘブンススキルの不浄宮ふじょうきゅうで状態異常にならないように、不浄を吸収してる……! それに、荷物持ちをしてるのは、お前らが戦闘中に何もするなと言ったからだろ⁉」


 俺はオーレンの言葉に腹を立て、声を荒らげる。


 ヘブンススキルとは、神から与えられる固有の能力の名称だ。


「あらあら、状態異常だなんて、そんなものなったことないでしょ? それに、万が一状態異常になっても聖女のリサがいるじゃない」


 こう話すのは、魔導士のサンドラだ。赤髪で赤いウィッチハットをかぶっている。

 

 瞳も炎のように赤く、性格も好戦的だ。


「サンドラさんの言う通りです。万が一状態異常になっても、私が治療できます。あなたは私と完全に役割が被ってしまっているのです。同じ役割は二人もいらない」


 リサが冷淡に言葉を紡ぐ。


 リサは美しい銀髪であり、白い修道服を着ている。一目見るだけでも、神聖な雰囲気が伝わってくる印象だ。


「そういうこった。それとな……何もしないように言ったのは、お前のスキル不浄宮を攻撃で使われると、俺達まで不浄におかされて巻き添えになるからだ。ったく、最初は不浄を操るスキルは使えると思っていたが、ふたを開けてみると、仲間にまで不浄の影響を与えるゴミ能力だったんだからな……。今まで一緒にいてやっただけ感謝してほしいぜ」


 オーレンはわかりやすくため息をつく。


「ふざけるなよ……! お前達が『パーティーに加わらないか?』と誘ってきたんだろ⁉ 今更そんな理由を言われても納得できない!」


 俺は怒りで声のボリュームが倍ほどになる。


「うるせぇんだよ! 仲間に悪影響与えるような奴と、なんでこれ以上一緒にいねぇといけないんだ⁉ 前からお前を追い出す話は出てたんだ。最終的な判断は、今日行ったダンジョンでお前……一瞬不浄の能力ちから使っただろ……? 言われたことも守れない奴はルミナス・ブレイヴにいらねぇ……!」


 オーレンは青筋を立てながら声を上げる。


「なっ……! それは、あのタイミングで俺が魔物に攻撃しないと、オーレンが致命的な攻撃を受けていたからだ……!」


 俺は怒りを込めて言葉を出す。


「はぁ⁉ 俺があんな低級な魔物の攻撃受ける訳ねぇだろ⁉ 攻撃も見えてたんだよ! 自分に都合のいいように言いやがって……! お前の居場所はここにはもうねぇんだよ! とっとと、武器と防具、あとルグド置いて消えろ、能無し野郎。お前が近くにいると不浄が漂ってきめぇんだよ!」


 オーレンは顎を上げ、明らかに侮辱した態度で俺を睨み付ける。


 ちなみに、ルグドというのは、ここノクシェルド大陸で使われる通貨の名称だ。


「不浄が漂っているのは、不浄宮の能力で、自動的に瘴気や有害魔素を吸収しているからだ! そのおかげで、お前らは万全の状態で戦えてるんだぞ!」


 俺はオーレンの言葉に我慢できず、ついに叫ぶ。


「しつこいわね! 大体あんた不浄を纏ってて気味が悪いのよ……! 自分じゃ役に立ってるつもりかもしれないけど、むしろ邪魔よ! 集中力が削がれるし、いなくなってくれた方が戦いやすいわ。見た目も気持ち悪いしね!」


 サンドラがまるで魔物に向けるような、敵意を俺に向けてくる。


 たしかに、俺は常に不浄を吸収しているため、不快感を与えることはあるだろう。


 見た目も、黒髪がベースだが、不浄の影響でまだらに灰色が混ざっている。


 その他、肌などには変色はないが。


「不浄のせいで迷惑しているのはたしかです。正直、私自身が汚されるので、近くにいないでほしい」


 リサも二人に同調する。


 どうやら、俺は本格的に勇者パーティーに必要ないようだ。


 ここまで、話が一気に進んでいるところをみるに、事前に打ち合わせでもしていたのだろう。


 俺は思うところはあったが、諦めることとした。


「……わかった。出ていくよ……」


 俺は背を向けて、その場を立ち去ろうとする。


「おーい、能無しぃ! 何勝手に行こうとしてんだぁ? 武器と防具! それと持ってるルグド置いてけよ! 迷惑料だよ、迷惑料! 今まで一年間も勇者パーティー、ルミナス・ブレイヴにいれたんだ、当然だろうが!」


 オーレンは全く筋の通っていないことを、当たり前のように吐き出す。


 俺は瞳を鋭くし、振り返る。


 そこには一対三でいつでも戦える状態の〝元〟パーティーメンバーがいた。


 そうか……この処遇も満場一致って訳か……。


 俺は無言で持っていた武器の、ショートソード、投げナイフ。防具の、重量のあまりない鎧を脱いでその場に置く。


 そして、有り金も全て置く。


「これで全部だろうな⁉ 能無しぃ! 隠してたら、どうなるかわかってんのか?」


 オーレンが目の前に立つ。


 オーレンは身長が約一九〇センチメートルほどだ。俺が一七五センチメートルほどのため、押し潰されそうなほどの圧を感じる。


「……これで全部だ…………」


 俺はこの言葉を言うことが、涙が出そうなほど悔しかった。


 一年間、一緒に旅してきたのは何だったのか、なぜ最後に恫喝どうかつを受けなければならないのか……。


 全て俺のヘブンススキルのせいだっていうのか……?


「ふんっ! まあ、嘘は言ってなさそうだな! 行けよ能無し。二度と顔見せんなよ。お前は不浄の処理でも一生してるのがお似合いだぜ!」


 オーレンが下卑た笑い声を盛大に発する。


 続くように、サンドラとリサも笑い声を上げる。


 俺は、嘲笑を受けながら宿を後にした……。

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