第5話 この世界についての考察
あのソライシなら土地と交換してくれそうだな…
今日は友人とパブへ来ている。
そこで今、メスの歌手が歌を歌っているのだが、首から下げているソライシが立派で歌よりもそちらに目がいく。
ソライシは何かと交換するだけに使うのでは無く、この様に装飾品にする場合もある。
まあ、これはお金持ちの道楽、もしくは貴重なソライシを飾りに使うという見栄だろう。
色や大きななんかで等級が分かれているが、あのソライシは一言で説明できない色とかなりの大きさだ。
見る角度や光の具合で色が変わる…
「あのソライシなら土地くらいにはなりそうだな。」
一緒に飲んでいた友人が俺が思っていた事をそのまま口に出した。
「そうだよな。俺もさっきから歌よりあのソライシしか見てないよラハタ…」
このラハタはオスで、ギルドをしている訳でもソライシを集めている訳でも無いが、たまにこうしてパブで一緒に飲んで雑談する。
「価値は塔入り以上、宇宙船未満といった所かな。あれをただ首から下げてるだけなんてよっぽど無欲か見栄っ張りなんだろうな。」
「多分後者だろうね。無欲ならあんな石手に入らないよ。土地程度の価値なら普通なら一生に一度だけ交換出来る価値だ。」
「全くだ」
「そもそも、ソライシとは…だよな」
「お!ラハタの講義が始まるな。楽しいからやってくれ。」
ラハタは一言で表すのは難しいが、敢えて言えば研究者、学者に近い。
見た目も丸メガネでそれっぽい。
知識も膨大で考察も面白い。
好奇心旺盛な俺は毎回聞くのが楽しみだ。
「ふむ、ソライシってちょっと探せば小さい物なら案外色々な所で見つかるよな。」
「だな。まあ等級が高い奴はその辺には落ちてないけど…」
「まあ人工的に作る物もあるが、やはりそれは価値は低い。施設では引き取っては貰えないし、見たら大体人工の物かは分かる」
「だな。主に普通はそっちを装飾品に使うな。」
「ソライシって何処から来た、もしくはどうやって出来たと思う?」
「全く分からんな。散々今まで拾われて交換され尽くしてる筈なのに、枯渇しないよな。」
「そうだ。何処にでもそれなりに有るが、全く見つかって無い所も有る。何処だか分かるか?」
「人間の中…か?」
「そうだ。元々ソライシを持って生まれてくる者は居ない。オレたちは何かを求める様に手に入れようとする。そもそもオレ達人間はどうやって生まれてくる?」
「それが分からないから俺は塔に入りたいってのもソライシ集めの1つの理由だな。」
「オレの仮説はその、何処から人間はやって来るのか、何処からソライシが現れてくるのか…両者は同じ場所、もしくはお互い同じ方法、手段とかじゃ無いかと思っている。」
「ほー!面白い!で、何か分かったか?」
「それが分からない。過去に掘り出された太古の遺跡で、人間を増やす方法が記されていた。まあ、公表出来ない機密事項だかな。」
「うわ!知りたい!大まかでいいから教えろよ」
「まあ、具体的な方法は言えんが…まず人間とは目で見えない小さな粒の集合体だ」
「ふむふむ」
「でな、特殊な方法でその粒の中にある核の一つを取り出して培養する。それを分裂させたら同じ人間を作れる。ただ、大きくなるまで育てないといけない。」
「へー!なら俺たちはそうやって生まれて来てるのか!?」
「多分違う。その方法で増やした人間は元の人間と同じ物しか作れない。しかしオレ達は皆それぞれ違う。現にオレは舌が異常だから、苦味以外が認知出来ない。お前は違うだろ?」
「そうなんだよなあ。結局人間はどうやって生まれてくるか分からないか…塔に入らないと…」
「かもしれんな。」
話が一区切りした所でテーブルに食料が運ばれて来た。
「因みにこの食料ブロック、どうやって作られてるか分かるか?」
「何か…工場からだよな。味とか色々あるけど…」
「そうだ。この材料は何処から来てるか分かるか?」
「知らないなあ。どっかで原料を育ててるのかな?」
「これは土地なんかで育てるのではなく、さっき話した分裂の方法で作っている。発見された古文書の知識は公表はされないがこうして皆が知らない内に取り入れられて、活用されている」
「へー!」
「この方法だと、天候なんかに左右されず、安定した量と価格で提供していける。栄養も無駄がない。まあ、天候も気温も人工的にコントロールされてるから常に快適だがな。」
「そうだよなあ。天気のお知らせが前もってあるから予定も立てやすいしな」
「オレ達は快適にストレスなく生活出来る。しかし言い換えればまるで何かに飼育されているみたいだ。オレはその点が不安でもあるが、結局快適な生活を手放す事は出来ないだろうな。」
「俺はそうだとしても現状幸せなら構わないな。ただ、やっぱり好奇心が塔へ向かわせている…」
「やはり皆が言う様に知らない方が幸せなのかも知れないが…因みにこの赤いブロックはどんな味だ?」
「赤いベリーの味なんだが…甘酸っぱいな。黄色いのはレモーネの実の味で酸っぱいな。て、言っても分からんか。赤いのは赤いソライシみたいに見て可愛いとかキュンとするイメージだ。」
「成る程な。しかしオレが苦味だけは分かるのは、苦味は人体に危険な物が多いから、やっぱり何か見えない力でコントロールされてるのかも知れないな。」
「成る程な」
「お前はこの後どうする?オレは家に帰る」
「俺はこの後人と会う約束がある。栄養剤を受け取る」
「まあ、程々にな。あれも量を誤ると危ないぞ」
「分かってるよ。仕事が立て込んでたから疲れてるんだよ」
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