第19話 贖罪

 フランの剣を俺は自分の剣で受け止める。


「まだ、動けるのかしぶといな」


 フランの剣は激しさを増していく。

 俺は剣を交えながら口を開いた。


「俺の仮説では、風魔法は魔力で気体を生み出す。あるいは気体を消滅させる。そうやって出来た気圧差で風を生み出しているんだ」

「だから何だって言うんだ」


 フランは剣を止めることはしない。だが、俺も話をここでやめるわけにはいかない。


「この仮説が正しいなら、風でものを自由に動かしたり、自分自身を自由に飛ばしたりすることができる。実際、それができる魔導士は存在する。気体の消滅が出来るなら、相手を窒息死させることだって出来る」


「くだらないことを。そんなことができるほど、僕に魔力制御ができるわけがないだろ」

「いや、できる!!」


 フラン兄さんは確かに天才ではない。

 しかし、努力家ではある。

 では何故、花が開かないかというと、努力の方向が間違っているからだ。


 この世界で風魔法はほとんどが風を起こすだけだ。

 だから風魔法は無属性の次にハズレだと揶揄する論調がある。


 ワンダのように、殺傷能力のある魔法を放つものがいるが、彼らは天才の部類だ。

 何となくできてしまったという感覚で魔法を放っているのだ。

 

 凡人は何故、それができるかを理解しなくてはならない。

 フランはまた、手から魔法を放とうとした。


「違う、そんなやり方では俺は殺せない。風を放つのではなく、魔力を俺に飛ばせ」

「何だと!?」


 フランは俺に言われた通り、魔力をすぐに風に変換せず、俺の前に飛ばして来た。

 きっとドレッドの薬の効果で魔力制御の感覚が鋭くなっているんだ。


「今だ、風に変換しろ」


「クッ」


 フランはすぐに魔力を風に変換すると、俺はそれをまともに食らった。


 手から放たれたよりも狙いが的確な分、ダメージが大きい。


 それでも俺はふらふらと立ち上がる。

 自分に攻撃する魔法を自分で指示するなんて、今日の俺はどうにかしている。


「に、兄さんはこれが出来るかな」


 俺は魔力を鋭利な刃物のように成形した。


 魔力を刃に見立てるのはあまり得意ではない。

 だが、フランにはこれが伝わりやすいはずだ。


 俺が成形した魔力をフランに放つと、フランの頬に細い傷ができた。 


「馬鹿にしているのか!」

「いや、俺にはこうして刃物に見立てた魔力を真っ直ぐ飛ばすことしか出来ないけど、兄さんならもっと応用が利くはずだ」


 正直、鋭利な刃物のように鋭くした魔色を真っ直ぐ飛ばすのは難しい。

 空気抵抗のバランスで軌道がずれるからだ。


 フランは魔力成形に集中し始めた。


「できたぞ、デュストス、これで君を魔法で殺せる」


 フランは刃物の形に成形した魔力を十個ほど作った。

 薬の力で強化されているとは言え、一度見本を見せただけでこれだけ出来るなんて。


「フラン兄さん、さっきの言葉を一つ訂正するよ。フラン兄さんも天才だ」

「うるさい!!」


 フランがドレッドの傀儡となったのは、元はと言えば俺のせいだ。


 本当は俺がドレッドの手下になるところをフランは代わってくれたんだ。

 だから、ここまでは俺の贖罪。


 風の刃、俺はこの正体を魔力で作った刃を風で操作していると考えた。


 火や水魔法では刃のように薄い魔力を繊細に操作できない。

 そして、真空の刃なんて現象は非現実的すぎる。


 フランは躊躇なく、魔力の刃を放ってきた。二発、三発と。


 俺はそれを避けながら、フランに近付いていった。


 この刃は食らうわけにはいかない。

 まとも食らえば、血が噴き出して、死に至ってしまからだ。

 

 俺は素早さ特化の身体強化でフランの懐へ飛び込んだ。

 驚いたフランの表情を見る余裕は俺にはない。


「兄さん、腹に身体強化を掛けろ」

「うっ」


 フランの腹に魔力が溜まったの確認した。


魔拳砲まけんほう!」


 フランが吹き飛んで壁にめり込んだ。


 ウィード(雑魚級)とは言え、オーガを気絶させた魔法だ。

 身体強化をしていなければ、死んだかもしれない。

 

 フランが僅かに動いた。死んではいない。

 ここでフランを助けるにはドレッドの薬による呪いを解かなくてはならない。

 

 呪いを解くためには聖女の浄化魔法が必要だが、ここには聖女がいない。


 だが、聖女程、強力な浄化魔法でなくても、呪いを浄化できる可能性がある。


 相手のHPを80パーセント以上削ってから、浄化魔法を掛けることだ。

 これなら町の教会にいる神官程度の浄化魔法でも、呪いを解ける筈だ。

 

 先程の魔拳砲でフランのHPを80パーセントまで削れたかは分からないが、そこまでは良しとする。

 あとは浄化魔法だが、俺の無属性で再現できるか。


 原作を思い出すと、聖女は浄化魔法発動の際、必ず祈りをささげていた。


 祈りをささげるときって、手を組んで目を閉じるんだよな。

 

 あのポーズは美女だから画になる。

 俺には出来ない。

 だけど、やらないわけにもいかない。

 

 俺は両手をピンと真っ直ぐ伸ばした状態で手のひらを合わせた。

 俺流の祈りだ。


 フランよ目覚めてくれ。


 俺は手の平に集めた魔力を圧縮していく。

 両手に集まる魔力は温かくなっている気がする。浄化の力が入っていることを祈り、俺は魔力をフランに放った。


 フランの体が光った。

 浄化の力が効いているのだろうか。


「浄化魔法だと!!」


 俺とフランの戦いを隅で見ていたドレッドが言った。

 

 ドレッドは俺とフランの戦いに手は出せない。

 そういう契約をしている筈だからだ。


 状況は決して良くない。

 問題は二つ。


 一つ目は無属性での浄化魔法は効率が悪いってこと。


 聖属性での浄化魔法を100とすると、無属性での効率は0.2だ。


 20じゃないぞ、0.2だぞ。ほぼ、ゼロだ。

 だが、0.2であっても50000の魔力をぶつければ100になるってことだろ。


 二つ目の問題がある。


 俺の魔力が回復しきれていない。

 このままでは魔力切れを起こす。

 だから、奇跡的にフランが目覚めてくれることを祈るしかない。


“はあ、はあ”


 息が切れて来た。魔力が底を突こうとしている。


「どうやら、こちらの勝ちのようだな。愚王子」


 ドレッドの嫌味に睨み返す余裕がない。

 

 さすがに厳しいよな。呪いを解くだなんて。

 でも、フランを殺すわけにはいかない。

 まあ、俺が死んでも、聖女や他の兄さんたちが何とかしてくれるだろう。

 

 魔力が底をつき、俺は膝から崩れ落ちた。


「まだ寝込むには早いで」


 俺の肩を支えたのは綺麗でしなやかな手だった。


「遅いよ、ママ」


 涙が出てくる。だって、もう駄目だと思ったもん。


「悪い、悪い、こう見えても急いだんや。それにアンデッドを倒したら、道行く人に“握手してください”だの“結婚してください”だの言われるねん。そんなんあしらうだけで時間食ってしまうわ」


 うわ、こいつ緊張感ないわ。

 美人生活満喫してるわ。


「ママ、フランが危ない。呪いを解かないと」


 ママは浄化魔法使えない。

 だから、この場でフランを助ける方法が思い浮かばない。


「それやったら、あんたが頑張るしかないやろ」

「いや、俺もうボロボロじゃん」


 と言う俺の肩にママは手を置いた。


「この魔法完成させておいて良かったわ。魔力譲渡まりょくじょうと


 ママが手を置いた俺の肩に魔力がどんどん流れてくる。

 ママの魔力だ。


 枯渇していた俺の魔力が漲ってくる。


 魔力譲渡は闇属性だけが使える魔法だ。

 聖属性は仲間から魔力を自分に集める魔法が使える。

 何故、二つの属性に真逆の作用の魔法が存在するんだろう。


「息子よ、もう一回さっきのやつやるんや」

「お、おう」


 俺は手を合わせて祈りをささげた。圧縮した魔力をフランに放つ。

 魔力が大きくて、魔法が周囲にも広がっていく。


「あ、あの魔力は魔王様の、、、何故、人間がこれほどまでの魔力を」


 ドレッドが何か言ってるが、それどころではない。


「フラン、還ってこい!!」


 俺は手を合わせて魔法を放ち続けた。フランは目覚めない。


「息子よ、もっとや、わての魔力を全部使うつもりでいくんや」


 俺の体にさらに魔力が満ちてくる。

 まるで俺自身が魔王になったかの気分だ。

 放たれる魔法の輝きも大きくなった。

 

 もうこの魔法は完成した。だから名づける。


合掌がっしょう!!」


 フランの体が先ほどよりも強く光り輝いた。

 これは確実に魔法が効いている。


 フランの周りに漂う黒いオーラが晴れていった。

 心なしかフランの表情も力が抜けて柔らかくなった気がする。

 

 フランの呪いが解けたのが確認できると、ふと俺の体から力が抜けた。


「ママ、もう無理だ、動けない」

「大丈夫、わてもや」


 そう言うと、ママも膝をついた。






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